#22 グランドフィナーレ

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キースは約束を守り、シャロンを招待する。とびきりのサプライズを用意して。


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 三月。

 シャロンとリンジーはハリウッドのドルビー・シアターにいた。ふたりはキースが贈ってくれたドレスに身を包み、あまたの有名人やセレブたちに混じって、劇場内の座席に腰を落ち着けている。シャロンのとなりにはタキシードで決めたディエゴが、リンジーのとなりには背中の大きく開いた黒のドレスをまとったティファニーがいた。

「よりによって、どうしてあたしのとなりがあの女なのよ?」

 リンジーがシャロンに耳打ちすると、シャロンは可笑しそうに言った。

「キースの招待なんだから、文句を言わないの」

 『グランパズ・バックヤード』はアカデミー賞長編アニメ賞にノミネートされ、下馬評では本命と目されていた。それでもシャロンは安心できずにいた。神様、どうかキースの作品が受賞しますように。各賞の発表が次々と進むなか、シャロンはひたすら祈り続けた。

 そしてついに、長編アニメ賞の発表となった。プレゼンターが候補作品の紹介を終え、結果の入った封筒を開封する。

「長編アニメ賞受賞作は……『グランパズ・バックヤード』!」

 シャロンは座席から飛び上がらんばかりだった。「ワオッ! やったわ」リンジーを強く抱きしめて背中をたたき、身をひるがえしてディエゴを抱きよせ、最後にリンジーを押しのけてティファニーとハグした。ティファニーは困惑したような笑みを浮かべながら、シャロンの背中に腕をまわした。

 キースが手を挙げて観衆の拍手に応えながら登壇し、スピーチを始めた。

「この作品は僕自身への挑戦だった。それまでのようにヒットするか、自信も持てなかった。でも、ひとりの女性が僕に力を与えてくれた。彼女なしにこの映画は生まれなかった。監修を務めてくれたシャロン・メイフィールドに心から感謝を表したい。ありがとう、シャロン」

 キースはシャロンのいるほうに体を向け、右手を胸にあてた。

「ほら、立ちなさいよ」リンジーにうながされ、シャロンはおずおずと立ち上がった。場内から拍手喝采が起こる。シャロンは困惑しながら小さくおじぎをした。

 その様子を、キースは満面の笑みで見つめていた。そしてシャロンが腰を下ろし、場内が徐々に静まると、ふたたび力強い声で先を続けた。

「この場を借りて、ふたつ発表したい。まず、昨年僕が買い取ったペンシルベニア州のもとシェールガス掘削予定地は、近いうちに植物のテーマパークとして開園する。その名も〈グランパズ・バックヤード〉。誰もが植物のすばらしさにふれられる楽しい場所にしたい。シャロン、造園にはきみときみのおじいさんに協力してもらうよ、いいね」

 会場はふたたび拍手や口笛に沸いた。

「そして、もうひとつ。これはパーソナルなことだが、この場を利用することを許していただきたい。シャロン、もう一度立って」

 今度は何? シャロンが戸惑っていると、リンジーとディエゴが同時に立つようジェスチャーした。シャロンは顔を赤らめながらふたたび腰を上げた。

「この映画が生まれるのにきみが欠かせなかったように、僕もきみを必要としている。僕と結婚してほしい」

 さまざまな反応で場内がざわつくなか、キースは壇上から降りると、まっすぐにシャロンのほうへ向かった。騒然としていた場内が、いつの間にか静まり返った。

 キースはシャロンのいる座列にたどりつくと、通路に立ったまま言った。

「シャロン、これからもずっと僕のそばにいてほしい。結婚してくれるね」

 体中がじわっとした熱で満たされていく。私はこの瞬間を、この言葉を待っていたのだ。

 シャロンはキースの瞳をじっと見つめた。その首もとで、ブラウンダイヤのネックレスが輝く。

「いいわ」

 するとリンジーが勢いよく立ち上がり、「イエスと言ったわ!」と大声を張り上げた。次の瞬間、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。

 シャロンは吸い込まれるようにキースのもとへ歩み寄った。ふたりはしっかりと抱き合い、そしてキスをした。

「その瞳を二度と悲しみに曇らせるようなことはしないよ」

 シャロンの目に涙があふれ、ひまわりがキラキラと輝いた。

― 完 ―

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【漫画原作】太陽の瞳をもつ娘と億万長者の恋 ― Lost in Your Eyes ― スイートミモザブックス @Sweetmimosabooks_1

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