第7話 出逢いの緣

 静かな水が流れる川のほとりで数人の男達が倒れ、三人男女が縛られているという異様な光景。

 数人の男達――賊を倒した雅司は縛られた者達を解放し、師であるガジンに問い掛ける。


「この倒した奴らはどうすりゃいいんだ?」


 ガジンは少し考える素振りをしながら顎髭をゆっくり撫でる。


「……正直、何も考えておらんかった。彼奴等きゃつらの身のこなしからして貴様の相手にならんことわかっていたしな。てっきり、全員始末するものと思ってたが……」


 倒した賊は全員、気絶しており、死した者はいない――そんな状態を見てガジンは【何故、止めを刺さなかった】のかと攻めるような視線を雅司に送る。

 しばらく、居心地の悪そうな顔をしている雅司を見た後、ガジンは何かを諦めたような表情をして口を開く。


「まぁ、生かしてしまったのは仕方がない。ここは現地の人間に聞くのが良かろう……おい、そこの貴様……儂の名はガジンという。貴様の名はなんと申す?」


 賊から解放された青髪の男はガジンに名を聞かれ萎縮したような態度で答える。


「わ、私は、オケヤで雑貨屋を営んでいるカールと申しますが……な、何かございましたか?」


「なに、そう萎縮することはない。彼奴等きゃつらの処遇をどうするかを儂らに決められんからな。現地の者に問いたいだけだ。」


 そう言うと、ガジンは賊を指をさしてカールに問い掛ける。

 カールは難しい顔をして賊を見て考えてから次に娘達を見てから言葉を口にする。


「本来であれば近くの憲兵がいるところに連れて行くべき何ですが……娘達がいる状態で賊を連れて行きたくはないですね…」


 カールは娘達の精神をおもんぱかって賊を連れて歩くのに拒否の反応を示す。

 その様子を見たガジンは納得したように頷くと再び口を開く。


相分あいわかった。ならば、ここで止めを刺し始末しよう……おい、貴様の不手際だ……貴様がやれ」


 ガジンの決定に雅司の背に緊張が走る。

 雅司の顔が強張り険を刻み拳を握って身体を固くしているとカールが顔を青ざめ慌てて口を挟む。


「そ、それもちょっと!……娘達がいる手前、そ、そういうのは例え見てない所であっても遠慮したいのですが……」


「ふむ、そうか……ならば木にくくりつけて捨て置くことになるが、それでも良いか?」


「は、はい! それで! それでお願いします!!」


 カールの要望で賊の命を奪うことにならずに済んだ雅司は顔から険が取れ、緊張が解ける。


(ほっとしてるのか俺は? あんだけ妖魔を殺してきたのに人間相手になると、こうもダメなのか……ハハッ、笑えてくるぜ)


 雅司が自嘲しているとガジンとカールは、いつの間にか気軽に話し込んでいた。


「そういえば、まだお礼を言ってませんでしたね。お二方とも私達を助けてくださいましてありがとうございました。良ければ、この先のモカルでご馳走しますよ」


「ほう、それはありがたい。まともな飯を食べるのは儂も弟子も久方ぶりなのでな。是非、お願いしたい」


「あぁ……やっと、まともなもんを食えるのかぁ」


 カールの提案にガジンと雅司は喜び、機嫌が良くなる。


「喜んで貰えて良かったです。特にお弟子さんは私達を助けるのに動いてくれましたから遠慮なく食べてくださいね」


 カールが雅司に対して丁寧に話し掛けると、それが気に入らないガジンが釘を刺す。


「こやつに、そんな畏まった物言いをせんでもよい。まだ、今年で16になったばかりの鼻垂れ小僧の未熟者だ。最近、何にでも噛み付きたくなる年頃なのか生意気でしょうがない」


「それはジジイが無茶なこと、俺にさせっからだろうが!」


 ガジンの言葉に雅司が反応するとガジンは「ほれ、早速見たことか」と言うと呆れた顔をする。

 雅司はこれまでのガジンから受けた仕打ちを思い出してか青筋を浮かべながら身体を戦慄わななかせるがこれ以上、何かを言うのを我慢する。


「えっ!? そうなんですか? 凄くご立派だったので町にいる長女と同じくらいかなと思ってましたよ。それにしても、その年齢なら仕方ないですよ。ウチの娘達も似たようなものですし……」


 カールはというと雅司の体格と醸し出す雰囲気から実際より上に見えてたので、これに驚く。


 それからもガジンとカールの二人は話が弾み、雅司が間に入れず黙って聞いていると後ろから服を引っ張られる。

 振り返ってみると、そこには二人の女の子がいて一人は姉の背に隠れていた。


「ねぇ、さっきは助けてくれてありがとう。私はティアでこっちが妹のリズ。ほら、リズ、あなたもお礼を言いなさい」


「……助けてくれて……ありがとー」


 リズはティアに促されてティアの後ろから顔をチョコンと出して雅司にお礼を言う。

 お礼を言われた雅司は二人を見て顔には出さず心中で驚いた。


(うぉっ、綺麗な長い髪に目がクリクリしてて二人とも可愛いなぁ……さすが異世界、髪の色も違うし、レベル高っけぇな)


 二人の顔をマジマジと見る雅司を訝しんだティアは口を開く。


「ん? どうしたの? そんなにこっちを見て……何か変なところあった?」


 首を傾けて尋ねるティアに雅司は「その仕草も可愛いなぁ」と思いながらも修行で培った平常心を駆使して極めて平静に保ち話す。


「いや、俺、異世界人だからさ。まともにこの世界の人間見るの初めてだったから、二人の綺麗な髪色に少し驚いただけだ……別に変じゃねぇよ」


 雅司の答えにティア達は少し驚いた顔をするが直ぐに納得した顔になって「それなら仕方ないね」と言ってから会話が続く。


「そういえば、あなたも16歳なんだよね。私も同い年なんだぁー……ねぇ、名前を聞いてもいい?」


「甲斐だ……甲斐雅司」


「カイマ・サシね。わかったわ……それにしてもカイは大きいねぇ! 私の身長だとお腹ぐらいかな? いくつぐらいなの?」


 ティアが雅司の体に触れ自身の身長との差を確認していると雅司の鼓動が少し跳ねて照れてしまうが努めて表情を隠す。


(少しくすぐったいな……それにしても俺の名前のイントネーションが……まぁ、言葉が違うんだし仕方ないか)


 ティアが雅司の名を呼ぶ際に雅司は少し引っ掛かりのある違和感を覚えたが気のせいだと思い直してティアの質問に答える。



「……そうだな、2年前から身長測ってないからわかんねぇし……そもそも、ここが尺貫法なのかメーター法なのか、それとも、また違った基準で測ってるのか……なんも知らねぇから答えようがないな」


「そうなんだ……ごめんね。変なこと聞いて……ちなみにウチの国はメートルで測ってるよ。私は156あるから……雅司は180とか90ぐらいあるかもね」


 身長のわからない雅司に代わってティアが自身の身長を告げると、その口振りから雅司は疑問に思ったことを口にする。


「メーター法で通じるのかよ……」


「うーん……なんか昔、習ったけど世の中の事柄は突き詰めれば必ずそこにみたいな感じでぇ……世界を移動しても、多少、環境が変わるだけでそんなには物事は変わらない――って話らしいよ?……よく知らないけど」


 雅司の疑問への答えをティアが言うと雅司は少し考えてから顔をひきつらせる。


「俺……2年前から来てるけど、ここに来てから見たこともない技術やら技とか妖魔に襲われてんだけど……多少なのか?」


「そんなの私に言われたってわかんないよぉ。カイがいた世界も知らないんだしぃ。というか2年前からって……今までどこにいたの?」


「肆煉島とかいう場所らしい」


「えっ!? それって超危険って言われてる場所じゃん!……昔、処刑に相当する罪人を送ってた国とかもあるって有名な……大変だったんだね」


 雅司が今まで自分が過ごしてた地をティアに伝えるとティアは顔を青ざめ次いで雅司に憐憫な視線を送り体をさすり慰めてくる。

 ティアの側にいたリズも可哀想な者を見る目で雅司を見つめて背中を擦ってくる。


(やっぱ、とんでもねぇとこだったんだなぁ、あの島……それにしても、この状況……これは一体……どうすればいいんだ?)


 雅司を慰めようとする二人に雅司はどうしたらいいのか分からず困惑した表情を浮かべる。


「そんなところで一体、何をしてるんだい?」


 雅司達の様子を見にきたカールが問い掛けるとティアとリズが説明をする。


「お父さん聞いて! この人の名前、カイマ・サシって名前を聞いたんだけど! カイって異世界から来た人で、2年も肆煉島にいたって言ってるの……」


「だから可哀想だから私とお姉ちゃんで慰めてあげてたの……」


 娘達の説明を聞くとカールは納得したのか二人と同じく憐れみに満ちた顔をして雅司の肩に手を置く。


「そうか……カイマ君、君も大変だったんだね……モカルの町は観光地としても有名でいいところだから君も気に入ると思うよ……だから一緒に楽しもうじゃないか」


(こいつら親子だな……)


「可哀想な人」認定された雅司は、この親子の視線を鬱陶しく思うものの久々に出逢った普通の人との触れあいに自然と笑みを浮かべる。


 





 賊を木に縛り馬車に乗り込んだ雅司達一行はモカルの町を目指す。

 馬車に乗ってしばらくして、雅司に馴れてきたのか、リズは笑いながら雅司の腕や胸、腹に顔と所構わず指で突っついて遊びだす。


「ねぇ、ねぇ、そういえばカイマさん達はどこを目指してたのぉ?」


 道中暇になったリズが雅司の腹を指でグリグリと軽く押し込みながら、リズはふと疑問に思ったことを聞いてくる。


(やっぱ、イントネーションの違いじゃなくて、カイマって名だと思われてんのか……それにしても、さっきからリズがくすぐったい)


 自身の違和感の正体に確信を得た雅司だったが、「呼び名ぐらいなら別にかまいやしねぇか」と心の中で呟くとリズの疑問に答える。


「俺も知らねぇ……ジジイ、俺達はどこに向かってるんだ?」


 雅司は修行中、いくつかの言語の習得をしたが国や地域の事まではガジンから聞いていなかった。

 大陸に着いてからも目的地の説明はなく、どこからか持ってきた荷車を雅司は無理矢理、引かされて走り続けていた――その為、改めてガジンに目的地ついて雅司は問う。


「そういえば言ってなかったのう。大陸の東にある【日和多ひわた】の国だ」


 ガジンがそう言うとティアは少し驚いた顔をする。


「えっ! それって凄く遠くじゃない? 【転位列車】のある大きい街は逆方向だし……あそこまで走って行くつもりだったんですか?」


「転位列車?」


 雅司はまた聞き慣れない単語が耳に入ってきたので思わず言葉にして出すとガジンが嫌そうな顔をして説明をする。


「転位術というのがあってな、各国ではそれを使って何か悪さをされないように結界に加えて妨害と無効の術式を各地に刻んでおる……だが、それだと国同士の交渉や貿易に支障がでるためあらかじめ制限を設けて転位を許可した地があり、その地で転位を利用するのが転位列車だ。」


「それって許可した地同士だと簡単に移動できるってことじゃねぇか……しかも、それがあるのは反対方向だった言うし……何で俺走らされてんだよ!」


 転位列車の存在を知り、今までの自分の行いが無意味だったように思えた雅司は我慢出来ずにガジンに文句を言うと、続くガジンの言葉で雅司は表情を無くす。


「何でかと聞かれれば、儂、アレ嫌いじゃし。それにアレを儂が利用しようとすると面倒な手続きが必要になるからのう……そんなことするよりは3・4ヶ月ぐらい走って行った方がまだマシだ」


(何だ? ジジイが利用すると必要になる面倒な手続きって……確か前にジジイが――自分は国で管理されてるって言ってたけど……まさかな)


 雅司は嫌な予想をしたが首を突っ込むのも面倒だと思ったので考えるのを止めた。

 それからは、未だにちょっかいを掛けてくるリズに仕返しとしてリズのフワフワとして綺麗なエメラルドグリーンの長髪を掬って鼻をくすぐったり、ティアと他愛のない話をして馬車の中を過ごした。





 夕焼けの赤い空を少し残した薄暮はくぼの頃、雅司達を乗せた幌の馬車は、ようやくモカルの町に到着する。


「すげぇ……なんというか幻想的な灯りっていうのか分かんねぇけど、優しい光だな」


 雅司がモカルの町に入り、感嘆の言葉を口にすると、ティアが優しい微笑みを浮かべ話しかける。


「うふふ、そうでしょ? ここはね、近くにダンジョンがあってね。そこから、ほら! あのお店見てみて――この光る水晶とか鉱石が採れるから、これを加工して町の灯りにしてるんだよ。……ハァ、いつ見ても綺麗だなぁー」


 雅司が鉱石を見てうっとりしているティアに見惚れてから「ダンジョン?」と疑問を抱く。


(あぁ、煉獄界のことか……そういえばジジイが人によって言い方が異なるって言ってたか……まったく、言い方ぐらい統一しとけよなぁ)


 雅司が頭の中でそんな事を考えてると後ろからリズが服を引いて話しかけてくる。


「そういえば、カイ君達はこれから私達とご飯を一緒にすることは決まったけど今日、泊まるところはどうするのぉ? 明日の予定とかは? いつまで、ここにいるの?」


 リズがあざと可愛く雅司にこれからの予定を聞くと雅司は「なんだよ、その仕草……妹にしたいくらい可愛いじゃねか」と心の中で思いながらガジンに尋ねる。


「そういやそうだな……おい、ジジイ、俺達はどうすんだよ?」


 カールと話しながら前を進んでいたガジンが雅司の呼び掛けに気付き振り向く。


「泊まるところについてだったか? 儂はこの国の銭は持っとらんから、当然、儂らはこの町て野宿だ。その後は直ぐにここを発つぞ……まぁ、ここまで一緒に来た縁もあるから別れの挨拶ぐらいはしてもいがの」


 ガジンの返答に雅司は諦めた表情で「まぁ、そんなこったろうだと思ってたさ」と呟いたが、カール達親子は目を丸くして驚いた。


「えっ!? お金持ってなかったんですか? あぁ、だから転位列車を利用しないかったんですね……ウチの国はそちらと国交を結んでないから使うとしても、いくつか経由地を挟むからお金も掛かりますし……それなら仕方ないですね」


 カールはガジンの言葉を察して直ぐに引いたが娘達二人はガジンの物言いが気に入らないのか人目も気にせず騒ぎだす。


「お金が無いのは仕方ないですけど、それだとカイが可哀想じゃないですか! 少しぐらい観光してゆっくりさせてあげればいいのに!」


「私達がモカルの町にいる間は面倒みてあげるからさぁ! ねぇ~え~お父さ~ん? いーでしょー?」


 ティア達が道端で騒ぎだしたことで少しばかり人の目が集まってくる。


「あれは……ガジン殿!? 何故、このような場所に!」


 すると後ろから突然声が掛かり、雅司達が振り向くとそこには身なりのいい和服を着た黒髪の男がガジンを見ると、慌ててガジンの元へと駆け寄ってくる。


「チッ……面倒なのに出会でおうたか」


 ガジンは心底嫌そうな顔をして、駆け寄ってきた男に対応をする。


『ガジン殿! 勝手に国を出ていかれては困ります! 今まで何処にいたのですか? こんなところを他国の高官に見られたら大変なことになりますよ!』


『うるさいのう……老い先短いジジイの道楽に口を挟むではない。そもそも貴様は誰だ?』


(二人とも日本語で話してやがる……てか知り合いじゃねぇのかよ!)


 ガジンの問い掛けで男はため息をついてから疲れた表情をしてガジンに自己紹介をする。


『自分は日和多の国の外交官――竹内です。ここへは使節団として来て、たまたまこの地を案内されてたんですよ……はぁ~、ただでさえ大変な仕事なのに余計な面倒事が……』


『なら無視をしていれば良かったであろう』


『あなたが他国にいるだけで外交問題なんです! 無視なんて出来るわけがないでしょうが!』


 ガジンの失言で竹内が頭を抱えてると様子を雅司は見ているとティアが雅司に二人の様子を尋ねてきた。


「なに言ってるかわかんないけど、あの人怒ってるみたいだし……大丈夫なの?」


 日本語のわからないティアが心配そうな顔をしているので雅司は今の状況を簡単に説明することにする。


「なんか日和多の国の人みたいでジジイを知っていて見つけたからジジイのこと説教してる」


 雅司がティアに説明をするとティアは納得したのか安心したような顔で雅司と話す。


「ふーん、そうなんだぁ……なら大丈夫な人なんだよね? そういえばカイは翻訳魔法とか魔導具を使わないで話したりしてるけど、よく使い分けれるね?」


「はっ? そんなのあんのかよ? 俺、島にいる間に死にもの狂いで7つぐらい覚えさせられたんだけど?」


「2年で7つも覚えるなんて凄くない? 普通はそんな苦労して覚えないで、魔導具か魔法を使うよー」


 新たな事実に雅司は衝撃を受けるとガジンに対して新たな怒りがこみ上げてくる。


『ハァ~、取り敢えず近くの外交を結んでいる国の大使館に行って帰ってきてくださいよ。貴方なら誰にも見つからずに出来るでしょう?』


 ようやく落ち着きを取り戻した外交官の竹内がガジンに帰国を促すとガジンは聞く気がないような態度で応える。


『弟子を連れておるので、それは無理な話だ。』


『あなた、今まで弟子なんて一人もいないでしょうが』


『それが武者修行中に異界人を見つけてな。故あって弟子にした次第だ』


 そう言ってガジンは雅司を指差すと竹内はそれに倣って雅司を見る。


『どこで見つけてきたんですか? 国際ルールで異界人は、管理者が出現の報告をその地の国に連絡してその国で保護することになっているでしょう?』


『肆煉島だ』


『また厄介なところで見つけてきましたね。どこの国でもないじゃないですか……わかりました。なら、手配を出しますのでガジン殿は暫く、この町に滞在してください』


『儂、この国の銭を持っておらんのだが』


『そのぐらいこちらで用意しますよ……』


 そう言うと竹内は雅司の方に向き直ってカザラン語で話し掛けてくる。


「あ~、君……今、君の師匠と話してたんだけど、何を言ってたかわかってたかな?」


「はい、わかりますよ。自分、ジジイに7つぐらい言語習得させられたんで」


 雅司が応えると竹内は安心したような顔をして会話を続ける。


「それなら、良かったよ。君も聞いてた通り、こちらの手配が出来るまで暫くここに滞在しておいてくれないか」


「暫くって、どのくらいの期間になりそうッスか?」


「う~ん……この国には我が国の大使館がないからねぇ。ガジン殿もおそらくは密入国状態だろうし、まずは本国に連絡をしてこれからの対応を決めてから近くの大使館で受け入れの準備をして、その後でガジン殿に手続きをしてもらってからになるから遅くても半年くらいになるかな?」


「半年は長いのう……もうちと早くならんか?」


 竹内が受け入れの準備期間の予想を話すとガジンは気に入らないのか竹内に催促する。


「ガジン殿がここにいる限りは無理ですよ……ガジン殿がいたのが大使館のある国だったら良かったのですが、ここからだと手続きにどうしても時間が掛かりますよ」


 ガジンの催促に困った表情で竹内が答えるとガジンは妙案が浮かんだのか手を叩き晴れた笑顔で自分の考えを話す。


「そうじゃ! 良いことを考えたぞ! 儂が大使館のある国へ先に行って手続きを済ませば早くなるんではないか?」


「確かにそれなら、1・2ヶ月ぐらいになりますけど、その間、御弟子さんはどうするんですか? 一人でこの国に居られてもこちらが困るのですが……」


 ガジンの考えを竹内が否定するとガジンが困った顔をする。

 他に妙案が浮かばず、その場で唸っていると横からカールが口を挟む。


「それなら、ウチでカイマ君を預かりましょうか? オケヤの町に戻れば私の店にお客様用の空いてる部屋もありますし、どうでしょう?」


「居場所さえ分かれば、こちらとしては問題ないのですが……ガジン殿はよろしいので?」


「まぁ、一人でも生きていけるように鍛えたので心配はないからのう。ここはその言葉に甘えさせて貰おう」


「ガジン殿がそうおっしゃるのなら、こちらは何も言いません。それでは、これからの事については場所の把握とお礼の内容など、お食事を取りながら決めてしまいましょう」


 カールが雅司を預かることに決まるとそこから話が進み、これからの事について食事を交えながらするという竹内の提案に両者は頷くと、すぐに食事処に移動することになった。


「結局、カイはしばらくウチにいるってことでいいんだよね?」


 トントン拍子に話が進む中で話についてこられてなかったティアが雅司を見上げて聞く。


「まぁ、そういうことになるな……しばらくの間、宜しく頼む」


「それならさぁー! 明日は一緒に観光できるね! どこがいいかなぁ? ベルお姉ちゃんのお土産も買わないとだしぃ、カイ君はどんなの好きぃ?」


「さぁな……色々、俺に教えてくれよ? 楽しみにしてる」


 特に何も考えずに明るく話すリズを微笑ましく思いながら雅司達は竹内達の後を追って歩く。


 食事処に到着すると雅司は久しぶりの人の手が入った文化的な食事に大げさに感動をしてティア達に笑われたりと、とても賑やかな食事風景になった。

 食後は竹内の手配した宿にカール一家と宿泊することになり、その宿で雅司が湯上がり姿のティアとリズに見惚れて鼻の下を伸ばしたり、柔らかいベッドに身体を預ければ、その収まりの良さに思わず、はしゃいでしまったりと久々に充実した時間を過ごし穏やかな気持ちて深く眠りにつくのであった。






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流浪のメランジェスタ 樹俊 @kitosh

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