第2話 遭遇逃走また遭遇
まずは頭を落ち着かせる為に自分の現状を言葉に出して現実を受け止めようとする。
「
言葉に出してみるが意味がわからない。現実を受け止めきれない。正直ビビる。
とりあえず考えるだけ疲れるし喧嘩のダメージも残っているのでその辺の適当な木に背を預け腰を落とす。
ようやく一息つき、頭が落ち着いてくると、先程まであった出来事が頭に思い浮かんでくる。
琉斗が消え、義之が光の粉になり、透が諦めた顔をする……
「クソがっ!」
何も出来なかった自分に腹が立ち、地面を思いっきり叩く。
「ザケンナっ! ザケンナっ! ザケンナっ!ザッケンナァ!!!」
それでも収まらない怒りに我慢出来ず、立ち上がり背にしていた木を何度も殴り続ける。
「はぁはぁ……スゥーッ……フー……チックショウ……」
木に額を当て、息を整えてから悔しさが
少しスッキリして落ち着いてきた雅司の耳に突如『ガサッ』というような雑音が入る。
驚いた雅司は物音がした方へと慌てて振り向き、目を凝らす……
「あれはヤベェ……ガチでシャレになんねぇじゃねぇか……」
そこにいたのは大きな熊のような何か、青い毛皮と頭に大きく鋭い角が生え、そして巨体を支える四肢には地面に向かって反り返るようなブレードのようなものが付いた化け物がいた。
ブレードのようなとはいったものの、奴が歩く
奴との距離はまだ離れてはいるが、こちらを既に認識しているのか真っ直ぐに雅司の方へと向かってくる。
後ろを向いて走り出したい気持ちになるが、そんなことをしたら確実に
奴の目を
それでも、距離はなかなか離れず、むしろ、近くなっていく……
(あぁ、こんなわけもわかんないとこで俺はバケモンに襲われて死ぬのか……)
そう心に思ったとき、青い熊の動きが突然に止まる。
不思議に思って、奴の周りをよく見ると……
どうやら雅司を追うことに気を取られていた青い熊は進路上の脇にある大きめな岩を気づかずに斬ってしまいブレードが挟まってしまい抜けないようだった。
「フッ……バカが!」
雅司は思わずニヤケながらも、この絶好の機会を逃すものかと、全力で走ってその場を逃げ出す。
最後に無様な姿を
「グァォウ!!」
「げっ!? マジかよ!! ソレたためんのかよー!」
青い熊は自身の脚に生えたブレードを全て脚の中にしまいこんでから、咆哮を上げて追いかけてくる。
全力で走るが距離は詰められるばかりだ。
途中、少しでも怯めばと思い、石を何個か拾って投げつけは木の影に入って見失わせようとするが奴は飛んでくる石を無視し、木を斬りときには砕きながら進んでくる。
死の行進が確実に近づいてくるなか、それでも諦めずに石を拾っては投げつけ、たまたま見つけた太い木の棒を拾い、「追い付かれたらこれで叩きつけてやる」と強く握り締め命懸けで走る。
熊の吐息が背中から聞こえてくる距離まで近づいてきたとき、目の前に高くそびえ立つ壁のような岩崖が現れる。
「ダリャァァッ!!」
「グガッ!?」
雅司は壁になった岩崖を真っ直ぐに駆け上がり落ちる直前に岩を蹴り崖から離れる。
青い熊は雅司を捕らえるためにスピードを上げていた為に速度を殺しきれず頭から岩崖に激突する。
「うぉぉお!! もらったー!!!」
「ギャウンッ!?」
青い熊の後ろに着地した雅司は拾った木の棒を奴の肛門めがけて突きさし、さらに踏みつけ奥に入れる。
踏みつけた反動を利用して
「はぁはぁ……ッ……はぁ……ここまで……くりゃあ……大丈夫……か?」
しばらく全力で走った雅司は体力の限界がくる直前に大きな木を見つけ、最後の
「あ゛~喉渇いた! 水飲みてぇー!!」
危機から脱したことにより気が緩み、思わず叫んでしまった雅司は先程まであった死の追いかけっこを思い出し、慌てて辺りを見回す。
「せ、セーフ……しばらく待ってみたが異常は特にないようだな……また、あんなのに出くわしたら、たまったもんじゃねぇ……」
とくに何も起きなかったことに安堵をつき、深呼吸をする。
「なんで俺がこんな目に……いや、状況から考えるとみんなも同じかぁ……アイツら無事か?」
不安定な心を
「ここからどうすっか……水も飲みてぇし腹も減ってきた……義之が一緒にいりゃあ、アイツ、サバイバルが得意だしなんとかなるんだが……」
この場にいない友人に思いを馳せ、もしいたらと想像するが青い熊のことを思い出す。
「もし一緒だったら、あのバケモンに襲われてどっちか確実に死んでたよなぁ……なんか気が紛れるもんねぇかなぁ……ん? あれは……果物なのか?」
改めて辺りを見回すと自分のいるところより、上の方にある複数の枝に紫色をした丸いリンゴのようなものと青い色をした
「なんで別々の枝に違う果物がなってんだよ。とりあえず、取ってみるか? 食えるもんかもしれねぇし。義之から教えてもらったパッチテストでも試してみるか」
目的の枝に到着すると早速、
自身の両腕にそれぞれの果物の皮をすりつけて異常がないか確かめるが、
ならばと思い、今度は舌に異常がないかと確かめるために、まずは紫の方を少しかじる。
「うめぇ……これ見た目どおりのリンゴだ」
紫リンゴの味は今まで食べた中でも特に甘く香りがよかった。
そうなると青い方への期待が高まってくるが念の為、用心してかじるのは少しだけにする。
「ぺっ……こっちは、味が薄いな。舌への刺激もよくわかんねぇし、もう少し大きめにしてかじるか…………ぺっ、すげぇ果汁だな!? それに少しだけ甘い? とりあえずは喉を潤すには凄くいいな。腹を壊さねぇかは心配だが、もう我慢なんて出来ん! 俺は食うぞっ!」
タガが外れた雅司は
満足するまで食したところで
(アレさっきの奴だよな……変な歩き方してるし、あの時のが効いてるのか? 何よりあの咆哮は俺に対して威嚇をしているのか? 俺の居場所に気付いている!?)
角を生やした青い熊が牙とブレードを剥き出しにして木の上を見上げている。
すると青い熊は立ち上がり、雅司のいる木を自身のブレードで斬りつけてから押し倒す。
「うわぁぁぁぁ!?……ッ!」
木が倒される際に、枝にしがみついて、なんとか衝撃に耐えた雅司は安堵の表情を浮かべる余裕などなく、自身の無事を確認するとすぐに立ち上がりその場を離れようと駆け出す。
(最初より動きが鈍い! これなら、また、逃げれる!!)
先程よりも動きが遅く自分の走りについてこれてない熊をみて思わず顔に笑みを浮かべる雅司は、もう後ろを振り向かず走り続ける。
「グハッ!?」
突然に雅司の背中にいくつもの衝撃が走ると、身体がふっ飛び地面に倒れる。
理解が追い付いていない雅司はなんとか立ち上がり青い熊の方へと目を向けると、すぐに理解をさせられた。
熊は二本の脚で立ち、まるで居合い斬りのような動きで、その巨体を
すると、石が散弾のように飛び、雅司の身体に再度、衝撃が襲う。
「ッ! グホッ!? ゴホッゴホッ……」
迫りくる石の散弾を腕で防御するが衝撃に耐えきれず、
もはや立ち上がる気力も失せ、ただ見ることしか出来ないでいる雅司の前に青い熊が近づく。
熊は雅司の様子をうかがうと天上に勝利の雄叫びをあげると再び雅司へと目を向け、自身の鋭い角を雅司に突き立てる……
「
直前、何者かが雅司と熊の間に割って入り、雅司に突き立てられるはずだった
なおも止まらないその赤黒い拳はやがて熊の頭に触れると両者はぴたりと止まる。
「ガッ……ォォン」
弱々しく熊が鳴きだすと、熊の全身から血が噴き出し、雅司を追い詰めていた青い熊はそのまま自身が噴き出した血だまりの中に勢いよく倒れる。
「……」
雅司は突然の信じられない光景に呆然とした顔をして眺めていると、熊を倒した者が振り返り歩き、地面に倒れ動けずにいる雅司の前で止まると黙って雅司を見下ろす。
動くことも声を発することもできない雅司は自分を窮地から救ってくれた者を観察するだけしかできなかった。
(こいつ……
年期を感じる顔の皺に頭の後ろに束ねた長髪と立派な
その老人の姿は服を着ていても分かるほどの体格の良さのせいか、とても大きく見え、仏像の仁王像や毘沙門天を連想させる力強く鋭い目は雅司を萎縮させるには充分だった。
(なんか
突然何かを飲まされ、自身に起きていることに雅司が驚愕し戸惑っていると先程から黙っていた老人が口を開く。
「立て。【
低い声で
「……身体が……痛くねぇ? どうなってやがる?……あっ! ありがとうございます」
立ち上がった雅司は先程までの痛みがなくなっていたことに驚くも、老人の言動を思い出し緑色の光が自分を治療したのだと理解した雅司は老人に対して、とりあえずお礼を言う。
「うむ。それはそうと、ここにいつまでも留まることもないからの。儂の後についてまいれ」
老人はそう言うと熊を掴むと、そのまま引き摺って歩いていく。
その姿を見て雅司は顔をひきつりながらも老人に大人しくついていき口を開く。
「そ、そいつ、どうすんすっか?」
「食うに決まっているだろう」
「……ウマイんすっか?」
「味なんぞこんなところで気にする程の贅沢なぞ到底、出来んぞ?」
「……」
「フンッ、認識が甘いのう。こやつと対峙したときも石なんぞ投げつけて逃げる等といった悪手をしおるし……まぁ、尻に一撃を入れたときは
「えっ!? 見てたんすっか? それも最初っから!!」
「あぁ、遠くから見ておったぞ。そうそう、貴様が食した果実な。あれは
「……」
老人の話を聞き雅司は「それなら早く助けてほしかった!」と思うが、そんな文句を吐き捨てるには老人に対して完全に萎縮してしまっている雅司には出来ず静かに黙り込む。
「よし、着いたぞ。ここで飯にする」
老人にそう言われて雅司は辺りを見回すとそこには焚き火の跡とその近くに小さな泉があった。
「なんか雰囲気が変わった? なんというか……居心地がいい?」
「そうだろう。ここの泉はとても霊験あらたかな水が湧き出ておるからのう。この【鬼熊】のような妖魔はここへは近づかん。」
雅司の呟きに対して老人が答える。
「ソイツ鬼熊っていうのか……他にもこんな奴がここにはいるんすか?」
「おる。まあ、詳しい話は飯のときにでもするからの。今は飯の準備をするからそこで待っておれ。その間にまずは貴様の話をするがいい。どうせ飯の支度なぞ出来んだろう? 暇潰しに聞いてやる。」
「……出来ないです。わかりました。自分の話をします。自分は
老人が食事の準備の為に熊の解体や、その他の支度を始めてる間に雅司はこれまでの経緯を話す。
全てを話終えると老人は「やはり異界人か」と呟くと雅司は老人に対して呟いた言葉の意味を問いただす。
「この世界の外から来た者をしめす言葉だ。他の呼び名で言えば、【外つ
「あんたも!? あっ……いや、すみません」
突然の老人の告白に驚いた雅司は、老人に対してつい『あんた』と乱暴に言ってしまったことをすぐに自覚して慌てて謝罪をし老人を見る。
老人の方はというと怒った様子などないように見受けられ、雅司は安堵する。
「気にするでない。そういえば、まだ名を名乗っていなかったのう。ここは久しぶりにこの名で呼ぶか……我が名は
「わかりました。ガジンさん。……それより宇賀って名字ですよね? ガジンさんも日本人なんですか?」
「うむ。日本人ではあるが、おそらくは貴様のいた日本とは違う世界の日本だ。」
「違う日本? それって可能性の数だけ分岐した違う世界があるってみたいなよく聞くやつッスか?」
「そうだ。それとここからは貴様にとっては悪い話になるかもしれぬから心して聞け」
「……」
ガジンが自身の名を名乗り雅司の疑問に答えてる途中で雅司に覚悟するように促したことで緊張が走る。
「まず、【混星】または【メランジェスタ】と呼ばれるこの世界では異界人なぞさほど珍しくはない。ただし、転移される場が海のど真ん中、もしくは海中、溶岩の上などといった場で起きることもあり、もし貴様の友もこの世界に転移されていたとしても既に死んでいる可能性がある。しかし、貴様の話を聞くところ、貴様らに起きた現象が別々に起きていることを考えると、貴様の友らは別々の異世界に飛ばされた可能性が高い。そうなると、もはや探すなどといったことはできぬ。無駄だ。」
「クソッ!」
ガジンの説明により、もう友人達と再会することは叶わないことを理解した雅司は拳を震わせながら歯を噛みしめる。
そんな雅司に対して追い打ちをかけるようにガジンは話を続ける。
「さらに元の世界に帰ることも諦めろ。詳しくは今ここでは話さんが貴様は、この世界に来たことによって、今、この世界に順応しようと貴様の身体が着実に変化をしている。」
「変化してるってどういうふうにっすか?」
「色々あるが、まずは身体能力の向上であったり、治癒力の増加などがあるが
「寿命って……なんでそんなもんが問題になんすか?」
「それはな、この世界では病死、殺害、事故などや特別なことでもせん限り、この世界の生物の寿命がきっかり180だからだ。それも若い時期が長い為に元の世界の人間と同じ時間を暮らすのは難しいからだ。」
「なっ!? じゃ、じゃあ、ガジンさんは
「儂はもう170になる。つまりは10年後に儂は突然に死ぬ。どんなに直前まで元気であろうと絶対にな。」
「……」
今までで聞いたなかで
目の前の老人がまさか
雅司が黙っている間に鬼熊の解体を終えたガジンは
肉が焼きあがるのを黙って見つめる雅司に再び口を開いたガジンが会話を続ける。
「本来であれば儂の属する国に戻って貴様を保護するところだが、あいにく、今、我らがいるこの地はとても危険な場所での。この鬼熊なんぞ自分の居場所を追われた雑魚だ。」
ガジンの発言に雅司は心底驚いて目を丸くする。
まさか自分を追い詰めた化け物がここでは弱い部類だったといことがとても信じられなかった。
思わず「ウソだろ……」と呟き、自分がいる今の場所がそんなに危険な場所であるならば、ここにはどんな化け物がいるのだろうかと想像し、雅司は顔を青くする。
そんな雅司に気づかず、なおもガジンは話を続ける。
「救助の援軍を呼ぼうにもここは周囲を海に囲まれた孤島だしの。儂みたいな武者修行にきた者ではない限り人は寄りつかん。儂が貴様を抱えて、この島を脱出しようにも、ちと厳しい相手がいるのでこれも無理だ。そこでだ……」
ガジンは焼きあがった肉を手に取り雅司の目の前に差し出す。
「ここで
ガジンの提案は右も左をわからない今の自分にとても魅力的だった。
何より自分にとっては長い10年ではあるが、目の前の170を越えた老人にとっては短く貴重な時間を自分に使ってくれるガジンの提案に雅司は深く感謝する。
「ありがとうございます。これから、よろしくお願いします」
雅司はガジンから肉を受け取り、口に頬張る。
食べた肉は今まで口にしたなかでも、匂いは血生臭くて歯で噛みきるには苦労するほど硬く、そして
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