流浪のメランジェスタ

樹俊

第1話 甲斐雅司

 Q. 友達百人できるかな?


 A. そんなにはいらない。(まったくいらないとは言わない)


 友達は数じゃない。たとえ、友達の数は少なかったとしても


 性格や能力が違っても気の合う仲間が一人いればいい。

 嫌な行事をやる時でも一緒にいれば笑いあえる友達が一人いればいい。

 何故だか知らないけどほっとけない奴が一人いればいい。 


 なんてことはない普通のことだが、それが自分にとって一番『大事で』『大切な』『掛け替えのないもの』だと思っている。


 だから、この俺、甲斐雅司かいまさしはそんな友人達を三人も手に入れられたことで人生勝ち組に入っただろう!



「はい~雅司の負けぇ~い! やったね雅司! オゴリかっくてぇぇいだね☆」


「ププッ……ザッコォ! 今、どんな気持ち? 勉強では下のオレらに負けてマサちゃん一体どんな気持ちなんだい? オレらバカだからわかんないなぁ(笑)」


「へっ、ザマァ! 雅司はこちら側の人間のクセにかなり勉強もできるからって調子ノッテっからこうなるんだよぉ! やっぱ大富豪は俺がサイキョーだわぁ! オイ、ド貧民!さっさとジュース買ってこいやぁ(笑)」


「クッ!! こいつらぁ俺が負けたときだけに限って調子ノッテあおりやがって……次はゼッテェに潰す!」


 外人みたいにはっきりとした顔つきだが見た目気弱そうなオタク気質の八島透やじまとおるがムカつく笑顔で俺の肩に手を乗せてサムズアップしたのを皮切りに俺は煽り散らされた。


 まず、便乗して俺の敗北の傷を広げたのは、この中では一番背が高く、それでいて無邪気な 幼さの残る顔をした、とても陽気な性格の藤崎義之ふじさきよしゆき


 そして、最後にトドメを指してきたのは、俺達の中では一番のイケメン、力強くも甘いマスクをした顔にほどよく日焼けした健康的な肌、しかし耳にピアスをしているせいでチャラ男風にみえる木島琉斗きじまりゅうとだ。


「いやぁ~やっぱ雅司が負けるのが一番盛り上がるわぁ!」


 琉斗りゅうとが満足気にそうつぶやくと、それを耳にした義之よしゆき


「ホンットそれ! 夏休み前に良い思い出ができて幸先いいわぁ~」


 そう言うと義之は大げさに喜び、変な踊りをし始める。


「なにより雅司のオゴリで飲めるジュースは格別だからね本当に最高だよね☆」


 またしてもムカつく笑顔で話すとおるに琉斗と義之が相槌を打つ。


「「「やっぱ雅司のオゴリは最高だぜっ!!!」」」


「この萌え顔どもがっ!」


 俺は静かに拳を握りながら奴らにそう言葉を吐き捨てて言うと。


「劇画調の顔した厳つい顔した雅司に比べたらボクらの顔なんて萌え顔どころかモブ顔だよね」


「そんな世紀末とか戦国乱世を生き抜いた雰囲気をかもし出してコンビニに行ったら店員ビビっちゃって可哀想だよぉ(笑)」


「そんな雅司がコンビニ行って買ってくるのがオレらが始める前に決めたイチゴミルクとココアにバナナオレ。クックック……こりゃあ、ご飯三杯はいけるなぁ」


 透、琉斗、義之の相変わらずの煽り文句を背に俺は溜まり場である人通りの少ない高架下からコンビニに向かいジュースを買いに行く。


 ネタジュースばかり仕込みやがってゼッテェ許さん!!




「はい、買ってきたぞ」


 俺はそう言って先程、買ってきたジュースを全員に渡す。


「おぉ! ありがとー! そう言えばみんなテストの成績の順位って何位だった? ボクは5教科総合63位だった……」


 少し気まずそうな顔してとおるは、みんなに学校での成績を聞き始めた。

 俺達はこうみえても、まだ、中学二年生で学校に通っている。

 見えてないのはお前だけだとは言わせない。

 そして俺達の学年は130人なので、透の成績は可もなく不可もなくの普通の成績ではある。普通は。


「おぉ! マジで!? すげぇじゃん! 俺118位だぜっ!」


「勝った!! 俺は127だから数字は俺の方が上だ」


 義之と琉斗の低レベルの内容を自信満々に言う。

 琉斗にいたっては、ポーズまで決めてくる始末だ。このナルシストめ!


「アハハハ……確かに数字が大きければ強いよね。雅司は?」


 少し気分が晴れたのだろうか、先程とは違い明るい顔で透が聞いてきた。


「俺は一応、3位だったけど……この間の塾の模試だと37位だったんだよなぁ」


「けっ! 自慢かよ!」


「見損なったぞ雅司……俺達との時間を削ってまでやった結果がそれかよ……お前のその引き締まった筋肉が泣いているぞ」


「るっせぇ! それと琉斗! 筋肉関係ないから! お前らがヒョロイだけだかんな!」


「言ったなぁ~」


 俺が二人と言い合いになっていると突然に義之と琉斗は服を脱ぎ捨て上半身裸になった。

 二人は運動部でレギュラーをやっているのでそれなりに身体が引き締まっている。


「「雅司カマーン」」


 何故か二人してポーズを決めながら俺に手招きをしてきた。

 やれやれ、そんな安い挑発で俺を煽ろうなんぞ……わからせてやる!!


「見よ! この俺の肉体を!! 貴様らのような軟弱なものとは違うところを!」


 俺は服を脱ぎ捨て二人に筋肉を見せつけるようにポーズをとる。


「やっべぇ筋肉……ひくわぁ」


「中学生の肉体じゃねぇよソレ……」


「もう、みんな恥ずかしいよ……ボクからしたら、みんな立派な筋肉だよぉ」


 義之、琉斗、透がそれぞれ我が肉体を見て感想を述べる。

 どうだ! わかっただろう! 貴様らとは格が違うのだよ格がな!




 暫くして、服を着てまた仲間内で談笑していると数台の自転車に乗った男達が通りすぎる。

 もう夕暮れ時も過ぎ、暗くなってきたところで人通りも少ないこの場所において、この時間帯に人が通ることは滅多にない。

 珍しいこともあるものだなと思っていると、通りすぎた自転車に乗っていた男たちが引き返してきた。


「オイ!オメェらどこちゅうだよ!」


 うわぁ絡まれたと思った。そして、こんな時に真っ先に反応するのは……


「あ? 坂中さかちゅうの木島だけど何?」


 琉斗なんだよなぁ。

 琉斗は喧嘩ぱっやいから直ぐに反応してしまう。

 困ったものだ……


「俺は山中さんちゅうの田所だ!テメェら俺らにガン飛ばしただろうがよ!」


「何? ケンカ? やる気? いいぜ買ってやんよ!!」


「待てって琉斗! めんどくせぇから、とっととどっか行こうぜ! ここには透もいるんだし……」


「チッ! 雅司が言うから、ここは引き下がるけどよぉ! クソッ!!」


 俺はケンカになりそうな雰囲気の琉斗をおさえて、どこか別のところを行くことを提案し、琉斗は渋々了承した。

 相手は3人だが、こっちには喧嘩なんて出来ない透がいたからだ。

 俺達は移動するために自分達の荷物を片付けようとする。


「フンッ! カスが! こんなしょうもねぇ奴、連れてイキがってんからこうなんだよ! オラァ!!」


「ふぐぅっ!?」


 突然、透の近くにいた男が叫びながら透に対して蹴り飛ばす。


「テメェ! ゴラァ! 透に……何手ぇ出してやがる! よくも俺の弟分にヤリやがったなぁ!! ヲイッ!!」


 瞬間、俺は透を攻撃した男に殴り掛かる。

 走りながら奴に向かいステップしてふところに入り顔面に右拳を当て、自身を回転させなが相手の足を刈る。その際に相手の腕をつかみつつ倒れたところですかさず顔面を蹴り飛ばし、掴んだ腕を木片を折る要領で相手の肘にむかい力強く勢いに乗せて踏みつけて腕を折る。


「うがあぁぁぁぁ!!」


「るっせえ!!」


 気分を高揚こうようさせるようで、だけれども不快になるようなを聞き、俺は再び、顔面に蹴りを入れ、首を踏みつけ、再度、顔面に拳をぶつける。


「ハハッ! そうこなくっちゃなぁ、雅司! オイ! テメェら俺と雅司の二人で残りの奴、相手してやんよ!」


「あ~あ……透に手を出したら雅司はガチギレして止まんないからなぁ。あと俺も戦闘要員じゃねぇし……二人ともこっち来させないでよ!」


 俺が即座に相手の一人をボコしたのを見て、相手側が呆気にとられてるいると、この光景に慣れている琉斗は戦意をたかぶらせて相手に挑発をする。

 義之も慣れてはいるが本人が言ったように喧嘩は苦手なので、そのことを俺達にアピールして透の介抱をしている。


「あっ……オイ!? いつまでウチの奴をヤッてんだ!」


「テメェらいい加減にしろよ!」


 ようやく状況を理解した相手側は俺達二人に対して文句を吐き捨て立ち向かってくる。


「雅司どっちとヤリたい? 俺はさっき最初に絡んできた奴、ヤリてぇんだけど?」


 琉斗が俺に尋ねてきたが、透をヤッタ奴は既に潰した後だったので残りの二人に対しては興味がなかったので……少ししか……


「別にかまいやしねぇよ。ただ……そもそもアイツが絡んでこなきゃあ、こんなんなってねぇからよぉ、徹底的に完膚なきまでに後悔するよう潰せよ?」


「へっ……上等! 任せろや!!」


 俺達は握りしめた拳を互いの手の甲を合わせる俺達流の鼓舞をしあい、お互いの相手に立ち向う。


「もう雅司は俺を止めねぇからよぉ! 覚悟しやがれ!!」


「テメェの方こそ俺達の仲間ヤっといて、いい気になってんじゃねぞ死ね! クソ野郎がっ!!」


「「ぶっ殺す!!」」


 先に相対した琉斗の方が喧嘩を始めるのを横目に見て、俺の方も相手と向かい合う。


「俺は山中さんちゅうの近藤っていうんだ。テメェは坂中さかちゅうのなんだよ?」


「俺はテメェら、みてぇいなヤンキーとは生きる世界がちげぇからよぉ!教えてやる義理はぇよ」


「ザケンじゃねぇ! テメェぶっ殺すぞ!」


「ザケてんのはテメェらの方だろうがよぉ!! バァタレがぁ! それに俺を殺すだと? 俺は殺すとか死ねとかいう言葉がきれぇいなんだ! だから自分では言わねぇけどよぉ! 言ってきた奴はタダじゃおかねぇって決めてんだ!! テメェだけはゼッテェに許さねぇ! とことんヤッテヤルから覚悟しやがれぃ!!!!」


 俺はヤンキーではなく、どちらかといえば優等生の方だと思っているので、いきなり相手がヤンキーの流儀を行い、その上、俺の嫌いな言葉を吐き捨てたことに対して俺はさらに頭に血が上って相手に怒鳴り付ける。

 互いのボルテージが上がったところで俺達の方も喧嘩を始める。


 先に仕掛けたのは俺の方だ。近藤の前に相手をした奴のときと同様に走りながら途中で予備動作なしのステップ踏み懐に入り込もうとする。

 以前によく漫画などにある古武術の縮地をネットで調べ、いろんな動画を観ては練習して素人だが俺なりに使えるようにした自慢の技だからだ。

 これで決められるのは大体6割弱、その辺の雑魚ヤンキーなら、これで決められるが先に見せてしまったのがいけなかったのか近藤は俺がステップを踏む位置に来ると間合いの外だというのに前蹴り、俺らのいうところの喧嘩キックをする。

 だが、引っ掛からない奴がいるのも想定済みの為、この縮地擬しゅくちもどきを習得する際にステップを踏み込む際に軌道変更する練習をして、ある程度、変えられるようにはできている。

 俺は直ぐ様、近藤の横に移動するようにして軌道変更をして喧嘩キックをかわす。


「クソがぁ!」


 こうなると、普通の殴る蹴る、あとは授業でやった柔道ぐらい等のやり方しか出来ない俺は思わず悪態をつく。ここからは自ら率先して傷つき気合いと気合いのぶつかり合いの喧嘩をする事を心に決め集中する。


「オラァ! どうした? かかってこいやぁ!」


 近藤が俺に対して挑発をするが、そんなもの関係なしに先程、心に決めた通りにしようと俺は自分と相手の間合いを詰めるようにして近づく。


 お互いに腕を伸ばせば届く距離に近づいたとき、俺達は同時に相手の顔面に向かいパンチを放つ。


 衝撃に耐え、拳にぶつかる感触で俺の一撃も相手に入ったことを理解すると、俺はそのまま相手の腹に向かって一撃を放つ……が、これは相手の腕によって阻まれ、俺の横っ面よこっつらに衝撃が走る。


 俺はたまらず、蹴りを放ちバックステップで距離をとる。


「チッ……あぁ~ダメだ……」


 まだ、俺は余計なことを考えてやがる。相手の攻撃を貰うことに集中しすぎて自分の攻撃が遅い。気合いが足りねぇ。意思が弱い。アイツをぶちのめす思いが足りない。何が自分が傷つくことを覚悟してだ。喰らうことを前提とした軟弱な思考は捨てろ。奴をぶちのめすことだけを考えろ。


「ヨッシャァ! いくぞ!!」


「かかってこいやぁ! カスがぁ!!」






 雅司と近藤が戦っているところを遠目にみて眺めていた二人は雅司の微妙な変化に気づいた。


「あっ!? 雅司が本当のガチギレモードに入った……」


 一番古い幼馴染みである透が静かに呟くと。


「お前と違って、小学校に入って雅司の、あのキレ方を初めて見たときは正直ひいたなぁ。特にあの目付き、最初のキレたときの目から、さらにギラついた目になるときが怖いし嫌なんだよなぁ……」


 義之は本当に嫌そうな顔で雅司の変化についての思いを口にする。


「ヨッちゃん……ボク達も何かした方がいいのかなぁ?」


「は? 止めとけよ。特にお前はイジメられっ子気質なんだからアイツらが、もし、負けたらひどいことになるぞ?」


 雅司達の喧嘩の様子をみて、心配になった透が義之に助勢じょせいの提案をするが、義之はそれを否定し、透を諭すように続けざまに話す。


「アイツらは負けた時のことも想定していて、俺らが酷いことにならないように率先して喧嘩しているのに、俺らが加わっちゃ駄目だろう? 今回は、お前が最初にヤラレタから雅司がやってるけど、いつも琉斗が率先してやるのはアイツが喧嘩ぱっやいって、こともあるけど俺達に被害が加わらない為にやってんだし……俺らは見てるだけで負けたら謝ればいいんだよ」


「……うん。わかったよ……」


 義之が言ったことに対して、どこか拗ねたようなそれでいて憮然とした様子で透は返事をし、再度、雅司達の喧嘩を眺める。


 殴っては殴られ、殴られたら殴る。そんな光景が繰り返されるなかで変化が起きる。


 近藤の放つ左ストレートが雅司に触れる直前に雅司は右アッパーで近藤の腕を打ち、これを弾く。

 そのまま直ぐに体勢を低くし近藤のボディーを狙った渾身の左アッパーを叩き込むが近藤は身体に触れる直前で腕をいれ、雅司の渾身の一撃を防ぐ。

 すかさず雅司は近藤に喧嘩キックを決め、その反動を利用して後ろに下がり距離をとると、近藤は雅司を掴もうとしたタックルを仕掛ける。

 迫り来る近藤のタックル、腕が雅司を掴む前に、雅司は近藤の脇に腕を入れ、身体をひねりながら背中を押し出すようにして近藤を投げ飛ばす。

 地面に倒れた近藤を体勢が整う前に雅司は追い討ちをかける。


「オリャ!チッ……あめえ!!ヤッベ!?シクッ……クァハッ!」


 近藤に走りながら近づいた雅司はそのまま近藤の目の前できて蹴り上げるが相手に足を抱え込むようにして掴まれる…………だが、舌打ちをしつつも、その状態を無視した雅司は残る足でその場で跳ねて近藤の顔面を狙うがこれも掴まれ、近藤に両足を引かれ背中から地面に叩きつけられる。


「はぁはぁ……これで……ッ!オメェも……はぁっ……シメェだ!」


 雅司を馬乗りにして近藤が殴り続ける。


「雅司!?うぉっ!グッ……テッ……メェ……邪魔すんじゃねぇ!」


 異変に気づいた琉斗が雅司に駆け寄ろうとするが田所がそれを許さず、後ろからチョークスリーパーをかける…………が、とっさに首が締まる直前に相手の腕の中に自分の片腕を入れ込んだことによって完全にきまるのを防ぐ琉斗。


「へへっ……行かせるかよ! さっさと落ちやがれ!」


 なんとか脱出しようと試みる琉斗だが振りほどけずいる。


「どどどどうしよう!! ヨッちゃん!? 琉斗君も雅司も、どっちもヤバいんだけど!?」


 二人のピンチに動揺した透は義之にどうするべきか判断を伺う。


「チッ……こうなったらしょうがないから俺がいくよ! 透は大人しくしてろよ?」


 先程は大人しくしていると言っていた義之だっが二人がやられているのをみるのは気分が良いわけでもないので、透を引き留めて喧嘩に赴こうとするが……


「待ってヨッちゃん! みんながヤラレルのをみて僕だけ無事なのは後味悪いし、やっぱり僕も行くよ!」


 透は一人で助太刀しようとする義之の要求を拒否し、自分も喧嘩に参加することを伝える。


 義之は透の目をみて少し考えてから返事をする。


「……わかった。二人で行こう! もしかしたら二人なら、なんとかなるかもしれないし…………あっ!?」


 二人で喧嘩に参加することを決め、助太刀に向かおうとしたところで義之が何かに気づく。


「舐めんじゃねぇ!! この程度のことで俺がヤラレルかぁぁ!」


「ぐふっ!?」


 馬乗りになって殴られ続けられている雅司だったが、突然、近藤の腕を掴み取り、片方の腕で脇を殴り脱出する。


「オラ! 喰らえ!!」


 体勢を整えた雅司は近藤の顎を殴り、そのまま顔面を殴り次いで頭を掴んで膝蹴りを叩き込み、近藤は鼻と口から血を吐き出しながら倒れる。


「なっ!? こんどーう!! うわっ!!」


 琉斗を抑えていた田所だったが近藤が倒れたことにより驚き、ちからを少し緩めてしまう。それを琉斗は見逃さず、その場で跳ね上がり、まるで首を支点にして腕で逆上がりをするような、もしくは至近距離にいる人が突然に空バクをきめるような動きをする。すると、突然に目の前に蹴りが飛んでくるように見えた田所は驚き、咄嗟とっさにその場を離れてしまう。


「くたばれ!」


「ゴホッ!! ォオ゛オ゛……ブヘッ!!」


 着地した琉斗は未だに驚愕から覚めないでいる田所に渾身のアッパーをボディーに叩き込み、横っ面を殴る。


「あぁぁクソがっ! テメェよくもやりやがったな! 死ね! 死ね! 死ね!!」


 余程、許せなかったのだろうか、琉斗は苦しんでいる田所の足を蹴り地面に倒し、続けざまに腹や顔を蹴り続ける。


「おい、もうめろよ琉斗……」


 田所が蹴られ続けている状況をみかねた義之が肩を掴み琉斗をめる。


「チッ……今日はこのへんで見逃してやんよ!! 二度とそのツラみせんじゃねぇぞ!! ぺっ……」


 琉斗は田所に唾を吐き捨て、義之と共に透のいる方へと向かう。






「よぉ! 雅司! けっこうギリギリだったじゃんか!」


「お前の方こそヤバかったじゃねか」


「あれはいきなり雅司がピンチになったからいけないんだぜ? 驚いて助けにいこうとしたから、ああなったんだし……マッ! 雅司ならなんとかするって信じてたけどね」


「俺も琉斗のその異常な身体能力を信じてたから大丈夫だと思ってたよ」


「やっぱ俺と雅司が組めば最強だぜっ!」


 全員が集まると雅司と琉斗が話をして、二人で笑いあう。


「なんですぐにそんな笑えるの? 二人がピンチになったとき僕ら凄く焦ったんだけど……」


「マジそれ! 俺達、お前ら助けようとして覚悟決めたんからね……気分悪いし、もう、どっか行って遊ぼうぜ!!」


「そうだね早く行こう! ほら、琉斗君も雅司も早く荷物を取りに行って!」


 透と義之は本当に嫌そうにそれでいて疲れた顔をして、先程の喧嘩の感想を述べる。無理をしないで解散して家で休めばいいのに、やはり四人でいるのが居心地が良く楽しいのか引き続き、別の場所で遊ぶことを提案し、雅司と琉斗を移動させようとかす。


「おう! そうだな! そうすっか! どーせならゲーセン行こうぜ!」


「おっいいねぇ雅司! そうと決まれば早く行って、またUFOキャッチャーでいろいろ取り巻くろうぜ! ……ん? なんだ……アレ?」


 喧嘩の際に、全員の荷物がバラバラの位置に捨て置かれた状態になっているため、それぞれ自分の物を回収しようかというときに琉斗が何かに気づく。


「うん? どうした?」


「雅司、アレどう思うよ? 気味が悪い……」


 そう言って琉斗が指を指す方をみると、琉斗の荷物の近くで無様に倒れた近藤と雅司が最初に倒した男の間に『黒いモヤのような塊』が浮かんでいた。


「黒い煙が集まって、偶々たまたまそう見えるとかかな? ……いや、火とか燃やしてねぇし、わかんねぇな」


「俺の方はなんか変な模様が光ってんだけど……」


 何を言っているのかと雅司は義之の荷物がある方へと目を向けると確かに地面に線が入っていて光を放っていた。

 その光は義之の荷物と近くにいる田所を囲むようにして線で描かれている。


「俺、あの中にはいるの嫌なんだけど…」


「俺もアレの近くに行って荷物取りに行きたくないんだけど……」


「だったら、ダッシュで取りに行って、早くここから離れんぞっ」


 雅司が合図を送ると各々、自分の荷物に向かって駆け出す。


 先に荷物を手にした雅司が仲間達の様子を見守ると、次に荷物を手にした琉斗が突然に


「は?」


「うわぁぁぁ!!」


 突如、消えた琉斗に理解が追い付かずにいる雅司の耳に絶叫が入る。


 そちらに目を向けると義之の全身が光に包まれていた。


「なんなんだよ! これぇ!? どうなってんだよぉ!」


「義之!!」


 慌てて雅司は義之の元へと駆け足で向かおうとするが突然、光が強くなり義之の身体が弾けてとなって消える。


「どうなってやがる!? クソッォォ!」


「雅司!?」


 今度はなんだと、雅司は透のいる方に振り返ると淡いのようなものに入って叩いている透を目にする。


「どうしよう雅司!? 出られない! ここから出られないんだよぉぉ!!」


「ザッケンナァァ!! 透! すぐにそっから出してやる!」


 雅司は透が捕まっている筒に向かって肩から突っ込む。


「うぉぉお!! でやっ!! 壊れろ! 壊れろ! 壊れろ! 壊れろよおおおおお!」


 雅司は何度もタックルしては蹴り飛ばしたりするがはびくともしない。焦る雅司の目にとても怯えた目で諦めた顔をした透がいる。


「ハッアア!! 砕け散れぇぇい!」


 雅司が全力でに殴り込む。


 今度は今までと違い先程まであった手応えが感じられない。空振ったかのようになり、勢いをつけていた為に雅司は前のめりになる。


「うぉっと!? ……は?」


 倒れそうな身体を踏ん張って耐え、慌てて顔を上げると、そこに姿はなかった。

 かわりに雅司の目に写ったものは……


「どうなってんだよ? これは……ここはどこなんだよ? ……みんなはどこに消えちまった?」


 見知らぬ木が立ち並び、コンクリートのない土を踏みしめ立っている自分。


 先程までいたコンクリートて覆われた高架下ではなく見知らぬ大自然の中にいた。


よっ? 意味がわかんねぇ……」


 空にはが妖しい光を放ち大地に降り注いでいた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る