第59話 合宿訓練と潜む影③
「よーっし。皆揃ってるな」
出発の朝、冒険者ギルドの近くにある広場に集まった合宿訓練参加者と一人一人挨拶を交わしながら本人確認を行った
「今から合宿施設へ移動するので、それぞれのパーティに別れて移動を開始して欲しい」
宿舎の子供達を乗せた荷物運搬用の馬車の
「ねえねえ、夜ご飯のお肉狩ってくるねー」
メゾリカの街の東門を抜けるまで
「ああ、了解。確か、メルは狩ったお肉をギルドに持ち込んで解体してから合宿施設に来るんだったな」
あの日の夜、遠くに肉狩りに行くと出掛けたメルはカガルと言う珍しい魔獣の肉を持って帰って来たのだった。
メルにとってはこだわりのあるお肉だそうで、
「うんうん。日が暮れるまでには帰るからねー」
メルはそう言い残すと、
ああ見えてメルは意外と常識人であり、魔が差さない限り、間違えてポプリしか居ない宿舎に戻ることはないだろう……と
ややあって、メルが馬車から降りて空いた
「どうした? 乗り物酔いでもしたか?」
現在、
「大丈夫ですよ。ラーファが外の景色が見たいって……お邪魔でしたか?」
今回、冒険者ギルドが
「いいや、全然」
合宿訓練施設に到着した二組のパーティーの冒険者達が最初に行う訓練は、施設内の安全確認である。
これは山小屋の定期点検の依頼業務と同じ内容になっていて、施設内に設置された魔物除けの魔法結界が正常に稼働しているかの確認と、施設に不備が発生していないかの確認、更には敷地内に危険な生物が入り込んでいないかなどを確認する訓練だ。
「A班異常なし」
「B班異常なし」
今回は二組のパーティーが合宿に参加しているので、合宿訓練施設を二つに分け、それぞれのパーティーで施設内の安全確認を行い
「安全確認、お疲れ様。次は野営の準備に入ろうか」
合宿訓練施設には宿泊施設も完備されているのだが、駆け出しの冒険者達は施設敷地内の森で野営を行うことになっている。
二組のパーティは各自で話し合い、決められた範囲内で適切だと思う場所を選んで野営の準備を行い、最後に
「ここは魔物除けの魔法結界で保護されている敷地内だけど、実際に森の中で野宿していると考えて気を抜くことがないようにな」
安全だからと言って気を抜いてしまえば訓練の意味がない。
「この辺りは魔素も薄いので大きな魔獣は生息していないが、イレギュラーな事態は常に発生するので気を緩めないように」
冒険者達はそれぞれのパーティーに別れて散開すると、魔獣狩りを開始するのだった。
「懐かしいな……」
「そういえば、俺はメルと一緒に狩りをしてたから、ボアとかが普通の魔獣だと思い込んでたっけ……」
「当時は猪みたいな魔獣だったからそんなもんだろうなと思っていたけど、いざ冒険者ギルドで登録してみると大きなネズミや角の生えた
当時は酷くショックを受けたものだが、今となっては良い思い出。
結局のところ、メルは自分が食べたかった魔獣を狩っていただけと言うオチなのだが、コルレットの性格を全く理解していなかった
「
平凡で基本に忠実なA班のパーティーが罠を仕掛けて
「そう言えばB班はまだ狩りをしてるのか?」
――ミアは予言する。
B班の冒険者達は個々の能力が高いが
「始めて見る魔獣が居るわっ」
B班の魔法使いであるリメスは、大樹の奥に黒いヘラジカのような魔獣が佇んで居るのを発見し指を差す。
「本当だ、これは仕留めたらポイント高いんじゃないか?」
B班のリーダーを務める剣士ラニアスは
「ドリ、弓で狙ってみるから仕留めきれなかったらよろしくな」
ムンは細身の体に似つかわしくない大きな弓を軽々と構えると、黒いヘラジカのような魔獣へ照準を合わせる。
「任せろっ。お前がヘマして
ドリはウルノにも劣らない恵まれた
「こいつを仕留めて、角兎の巣穴に罠仕掛けてたA班の奴らの度肝を抜いてやろうぜ」
ムンはそう吐き捨てると、黒いヘラジカのような魔獣へ向かって矢を撃ち放つ。
「ふっ、もらったなっ!」
ムンが撃ち放った矢は一直線に黒いヘラジカのような魔獣目掛けて飛んでいく。
しかし、黒いヘラジカのような魔獣は
「何が『ふっ、もらったなっ!』だよ。避けられてるじゃねーか」
ラニアスはムンに対して
リメスとドリも、ムンに対して鼻で笑うとラニアスの後に続き、口惜しそうにしたムンも遅れて後を追うのだった……
黒いヘラジカのような魔獣はラニアス達を誘い込むように森の奥に逃げていく。
冒険者としての経験が浅いラニアス達は合宿訓練施設付近であるという安心感もあったのだろう、自分達が黒いヘラジカのような魔獣によって誘い込まれていることに全く気付く様子もなく、自分達が狩る者の立場だと勘違いしたまま黒いヘラジカのような魔獣を追いかけていく。
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