第52話 スタオッド伯爵との面謁③
スタオッド伯爵と別れの挨拶を交わして謁見の間から退室した
馬車の中では宿舎へ迎えに来た初老の紳士が自らの身分を明かし、何代にも渡りスタオッド家に支えてきた騎士である事を
「こちらはスタオッド様から預かって参りました紹介状でございます」
馬車が宿舎に到着すると、オゼロと名乗った初老の紳士はスタオッド伯爵家の
「スタオッド家より商業ギルドへは事前に連絡が入っておりますので、その紹介状を持参し商業ギルドを訪ねていただければ宜しいかと」
「ツクっち、おかえりっす」
今日も当然のように子供達に紛れておやつを食べるコルレットの言葉を聞いて、
「ただいま。取り敢えず着替えてくる」
「ちゃんとおやつ食べてるか?」
ケトルに生活魔法で作り出した水を入れて火に掛けたところで、いつもの指定席で読書にふけるポプリからの訴えるような視線に気付いた
「なあ、おっさん」
ポプリのテーブルに紅茶を届け、空いてる席に座ってティータイムに入った
「ルウツ、お兄さんな」
出会った時から白狼族の兄弟であるルウツとホッツは
確かに中身は中年のおっさんではあるが、この世界では二十代のお兄さんである。
「おっさん、森に行きたいんだけど駄目か?」
子供達が宿舎にやって来た時の約束事の一つに、当分の間、
それは決して悪意があっての言い付けではなく、当時はまだ東の森から大勢の避難民がメゾリカの街に流れて来ていたこともあり、もしもの事態に備え子供達の安全の確保を最優先にしたのだが、事情を知らない子供達にとっては
「お兄さんな。ルウツは森に何か用事でもあるのか?」
「別にないよ」
要するに、ルウツは森の中で遊びたいのだろう。
「手続きをすれば通行証は手に入るけど、今はまだ難しいと思う」
「そっか……」
ルウツは事情を知ると残念そうな顔をする。
「でもお兄さんと一緒なら通行証が無くても街の外へ行けるから、これからは時間を見つけて東の森に一緒に遊びに行くのもいいかもな」
「おっさん、それ本当か?」
ホッツのお兄さんと言ってもまだ子供であるルウツは、とにかく感情が顔に出やすい。
「ああ、エッヘンの街に行くまでまだ時間があるから、天気のいい日にでも皆で一緒に出掛けような」
特に義務が生じているわけでもないのだが、冒険者ギルドがスタオッド伯爵との
「あら、
冒険者ギルド一階にある受付けに用件を伝えようとしたところ、
「ミアさん、こんにちは」
「失礼します」
ミアはゾッホの執務室の扉を四回ノックして部屋に入って行く。
「書類をお持ちしました。後、
ゾッホは書類の山の上に追加される書類を見て頭皮まで青ざめると、後から入ってきた
「おお、
ゾッホは
「あっ、スタオッド伯爵様との
「あっ、
カリアナはカウンター上に広げていた書類を手に取り
「これはまた、積極的なお誘いだな」
「私、情熱的な女の子なので」
カリアナは
「今日は蜂蜜酒じゃないのか?」
「今日は大事な日なのでお酒は我慢してるんですよ……ところで、この前の約束覚えてます?」
カリアナの言う約束とは、以前請け負った依頼の最中に
「ええ、覚えてますよ。確か、時間が合った時に一緒に素材採取に付き合うって約束でしたよね」
「そうです、それです。
カリアナは期待に満ちた眼差しで
「空いてなくはないけど、
夜になったからと言って街の外の生態系が変わるわけではないが、この世界に街灯が整備されているはずもなく、暗闇の中での素材採取は余りにも条件が悪い。
「はい、その通りです。採取したい素材が夜に咲く花なので夜じゃないと採取ができないのですよ」
カリアナはそう言うと、先ほどカウンター上に広げていた書類の中から、夜に咲く花について記載されている羊皮紙を一枚抜き取って
「この花は
更に咲いている花を摘み取ってしまうと抽出する成分が壊れてしまい効果が無くなってしまうので、抽出には特殊な錬金魔法を用いて現地で行わなければならない。
「その知らせが届いたのが今日の昼過ぎで、慌ててギルドへ依頼申請しに来たんですけど……」
当日、しかも夜となると依頼を請け負ってくれる冒険者が現れる可能性は絶望的と言わざる得ないだろう。
「……でも、さすがに
切羽詰まった状況とは言え、
「その話だと野宿する準備が必要になるな」
「後、夜の採取の護衛となるとメルの力も必要だな」
カリアナの話では
「どちらにしても一度宿舎に戻って準備をしないといけないから、準備が出来次第カリアナの工房に集合でいいか?」
誰が見たって無茶だと分かる要求を、あっさりと受け入れた
「
「ん? 良いも何も、あの時約束したからな」
「ありがとうございます。急いで準備して工房で待ってます」
カリアナは深々と頭を下げると、小走りで立ち去るのだった。
「ちょっと格好つけ過ぎたかな……」
照れ隠しと言えど、柄にもない
「いいえ、そんな事ないと思いますよ」
「……!?」
思いも寄らない奇襲に声を失って驚く
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