第53話 月下草と夜の森①
「おっ、夜の森、いいねー」
メルは
「メル、ありがとう。美味しい夜食も考えないとね」
「おっさん、今森の話してなかったか?」
何処から嗅ぎ付けたのか、ルウツがホッツと一緒にカウンター席の上に乗り、両手を突いて身を乗り出しながら会話に割り込んでくる。
「お兄さんな。ルウツ危ないぞ、ホッツが真似してるじゃないか……」
「おっさん、森の話してただろ?」
「お兄さんな。急な依頼が入って、今夜東の森に素材採取の護衛をすることになったんだ」
「本当? 俺も行きたいっ」
ルウツはカウンター席に座ったまま身を乗り出す。
「うーん……遊びじゃないんだけどな……」
夜の森と言っても場所は東の森でそこまで魔素が濃い地域でもない。
メルが同行すれば安全面では問題はないのだが、夜、子供を連れ出すことに対して
「なあ、俺、大人しくするからさー」
子供の言う「大人しくする」発言ほど信じられない物はないことを
「
ルウツは両手を顔の前で合わせて必死にお願いを重ねる。
「こういう時だけお兄さんとか……」
「あの、
「おっ、ホズミか、どうした?」
「その……森に行かれるのなら私達も連れて行ってもらえませんか?」
ホズミの言う、私達とはシェイラも含むということだろう。
「ホズミ達は森に何か用事でもあるのか?」
「はい……シェイラはエルフ族なので、時々森の魔素を体内に取り入れさせてあげたいと思いまして」
「その森の魔素の取り入れって言うのは、何か特別なことでもするのか?」
「いえ、特に儀式のようなものではありません……強いて言うのなら、森の中で呼吸をして森の空気を体内に取り入れる感じでしょうか……」
ホズミの説明を聞いた
「結構な荷物になるな……」
そう遠くない採取地だとしても、森の中に荷車を引いて行くことは不可能である。
「はい、はーいっ。俺が荷物持ちに立候補するっ」
放置されて頬を膨らませていたルウツが、ここぞとばかりに売り込みを仕掛ける。
「……仕方ないな……でもな、ルウツ。言う事聞かなかったり横着したら二度と森には連れて行かないからな。約束できるか?」
根負けした
「ああ、約束する。俺、大人しくする」
本日二回目の「大人しくする」に
「そうと決まれば、
「夕食を食べてる時間はないから、夜ご飯は森の中でな」
「うんうん。急いで食べないとね」
いつもメルは手ぶらなので特に用意する物もないらしく、
「エトラとミルル、明日の朝には帰ると思うから宜しく頼む」
この世界の夜は街中でも暗い。
「あっ、
「カリアナ、待たせたな。少々大所帯になったけど問題ないか?」
カリアナは
「私も弟子を連れて行くので問題ないですよ。一先ず中に入ってください」
「あと少しで準備終わるから、適当に座って待ってて」
カリアナは
簡単に自己紹介を済ませカリアナの工房を出発した
街道と違い整備がされていないものの、日常的に人々の
「ホッツ、大丈夫か?」
シェイラはホズミに抱き抱えられているので心配する必要はないが、ホッツは
「おっちゃん、俺は大丈夫だぜっ」
ホッツは涼しい顔をして返事をする。この辺りはさすが身体能力に優れた白狼族である。
「お兄さんな。もうすぐ目的地だけど、疲れたら我慢せずに言うんだぞ」
「
ミアから冒険者ギルドで起きた出来事を一部始終聞いていたカリアナは、
「俺まだ二十代なんだけど……」
「おー、綺麗だねー」
先頭を歩いていたメルが目的地に到着すると、
メゾリカの街から徒歩で一時間ほどの場所に群生する
「おっ、この光の元が特効薬になるのか……」
「それはちょっと違いますけどね。あの光が空気中の魔素と反応して生成される成分が特効薬の元になるんですよ」
弟子達に指示を出し終えたカリアナが、
「それでは
カリアナは
「ああ任された。キャンプの設置もしておくよ」
「おっ、はっけーんっ。お肉狩って来るねー」
お肉の気配を察知したメルはそう宣言すると、
「おっさん、俺達も何か手伝うぜ」
近くで体を動かして遊んでいたルウツとホッツは、
「お兄さんな。ここは俺一人で大丈夫だから、ホズミとシェイラの護衛をお願い」
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