第44話 土筆と厄介なはぐれモノ⑩
しかし、幻と言えどもこの世界に具現化している以上、その身に受けたダメージは蓄積し、ウルノ達によって繰り出された攻撃は最終的に黒炎を纏った狼の体力を全て削り取ったのである。
悪魔によって囚われていた
蓄積したダメージが致死に至った悪魔は具現化した姿を維持することができず、
黒炎を纏った狼が悪魔だと知らないウルノ達は、その不思議な光景をただただ眺めているのだった……
悪魔の消滅を確認した後、再び気を失った
魔物の亡骸を野晒しにしておくと、腐臭を好む魔物や死霊悪霊など招かざる客を招く事態になり兼ねない。
そして、最後に不要となった魔物の亡骸を一ヶ所に集め、薪を
日が変わり、
昨夜、この村に住む凄腕の錬金術師が詰所を訪れ、村を守ってくれたお礼にと特製の回復薬を調合してくれたお陰で土筆の体調もほぼ万全の状態にまで回復し、国王軍も今日中にはボルダ村に到着する予定となっていて
「
詰所の待機室で待機当番をしていたヤノが
「ああ、お陰様で。昨日は迷惑かけたな」
「エッヘンの方は相変わらず大変な状況っぽいな……」
「防衛業務も最終日ですな」
ヤノとブリッフから待機当番を引き継いだウルノが
「ああ。後は何事もなく国王軍へ引き継げることを願うだけだな」
昨日魔物の群れを先導していたのは間違いなく悪魔なのだが、あの黒炎を纏った狼は自身で考えて行動する知能は持ち合わせていなかった。
それは背後に命令を下したモノが存在することを意味し、そのモノは考える知能を有し、何か目的を達成するために黒炎を纏った狼を利用したことになる。
「それには同感ですな。冒険者の私が言うのも何だが、平和が一番ですわい」
ウルノは朝食のパンを口に放り込むと、豪快に笑い声を上げるのだった……
――しかし、
今日到着予定である国王軍への引継ぎ作業を進めていた
風妖精シフィーによりもたらされた情報を解析して一つの結論に辿り着いた
「これは……確かに
彼女の索敵スキルでは魔力量を感知することは出来ても、その対象が何であるのかは調べられない。
「これは
南側の代表を務める老人が
「はい、今からお話させて頂きます」
「な、なんと……なんと言うことだ……」
さすがにこの時ばかりは南北両方の住民が一体となってざわつく。
それもそのはず、この世界での地竜は動く
「そこで、皆さんにはこの村から至急退避してもらいたいと思います」
領主の命を受けてこの村に住んでいる一部の住人が眉をひそめる。
「
今まで友好的だった南側の代表を務める老人が険しい表情で答えると、北側の代表も同じ様に拒否の姿勢を取る。
この村の内情を鑑みれば、
「分かりました。この村に残りたいと希望する方を無理やり退避させることはしません……が、退避を希望される方は冒険者が安全な場所まで護衛しますので、直に準備をお願いします」
この村の住人全てが領主の命を受けている訳ではない。
その際に籠城を決め込んだ住人を説得して逃がすには、できる限りその数を減らす必要があるのだった。
「この村に残られる方はできるだけ村の西門近くの建物に避難してください。一ヶ所にとは言いませんが、できる限り集まるようにしてください。命に危険が迫った時は、冒険者の指示に従って村の外へ退避してもらいます」
「そうですな……その時は我ら
南北それぞれの代表の決断に従い、街の外へ退避する者と、西門近くの北側、南側それぞれの領地に避難する者に別れ、村の外へ退避する住民には見張り担当の冒険者が護衛として付き添うことになった。
「それでは、退避する住民をお願いします。西へ街道沿いに進めば国王軍と何処かで合流できますから、地竜について報告をお願いします」
この村に残る決断をした住人達は西門近くの南北それぞれの建物に集まってもらい、詰所で待機業務を行っていたウルノ達を二手に分けて護衛することをお願いする。
「分かり申した、彼らの事はお任せくだされ。それで貴方はどうするのですか?」
「俺? 俺は地竜と話し合いにでも行こうかと思う」
「竜族は人族の言葉を理解できる者も多いし、俺なら精霊魔法で会話も可能だからね」
「そ、それは危険過ぎますぞ。もし仮にその地竜が人族の言葉を理解できなかった場合は取り返しが付きませぬ」
さすがのウルノも
「その時は国王軍が到着するまでの時間稼ぎでもするさ」
ウルノが本気で身を案じてくれているのが嬉しい土筆であったが、ここは譲ることができなかった。
「昨日の黒炎を纏った狼の討伐では美味しいところを全部ウルノ達に持ってかれたからね。ここは俺に譲って欲しい」
ウルノほどの
ウルノは
「分かり申した。国王軍がここに到着したら私も直ぐに駆け付ける故、それまでの間、宜しくお頼み申す」
そう言って突き出された拳に
「なーに、ヤバくなったら無理せず逃げ帰ってくるさ。その時は村人と一緒に国王軍のところまで競争だ」
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