第39話 土筆と厄介なはぐれモノ⑤
村を取り囲む立派な外壁には南側と北側が競い合うようにして建てたと思われる見張り塔が設置されているのだが、使われているような形跡はなく、至る所に埃が積もっている。
エッヘンで進行する魔物の大群と防衛軍が衝突すれば、渋滞を引き起こした魔物の群れの後方が列からはぐれ、ボルダ村方面に流れて来る可能性を否定できない。
「エッヘンからの距離を考えれば確率的には高くないかも知れないけど、だからと言って警戒を怠って良いことにはならないからね」
南北二つの見張り塔を巡った
「
「ヤノ、ブリッフ、ただいま。エッヘンから送られてきた手紙は読んだ?」
「はい、ウルノさんから手紙を引き継ぎました」
「了解。なら特に伝えることはないかな? これから仮眠に入るので後は宜しく」
ヤノとブリッフに見送られながら
詰所での待機業務は二人一組で六時間交代でローテーションを組んでいる。
当然、問題が発生した場合は休憩時間中でも職務に復帰することになるが、この世界に詳細な時間と言う概念がないので、交代時間も体内時計が基準となる。
昨日の夜、ヤノとブリッフへ待機業務を受け渡した
どんよりとした空気の中で目を覚ました
ボルダ村は昨日に引き続き分厚い雨雲が空を覆い、唯でさえギスギスしている村の雰囲気を更に重くする。
村を囲い込んでいる外壁と比べると、村の中はとても質素な造りになっていて、ボルダ村を分断している東西に貫く大通りの周辺以外は
村を囲む外壁の内側を反時計回りに一周した
「おや? これはこれは
「これは幸運ですな。実は私共、
モストン商会の主の表情を見る限り、良い商談に巡り合えたようである。
「おおっと、いけません」
モストン商会の主は話の途中に何かを思い出したようで、軽く手を叩いて話を中断する。
「例の物を……」
モストン商会の主に命令された従者が抱えていた小箱を
「これはなんですか?」
「はい、これはマジックポーションで御座います」
マジックポーションとは錬金術で生成する魔力回復薬である。
「今回、商談をさせて頂いた方の中に、凄腕の錬金術師様がいらっしゃいまして……」
モストン商会の主は
「私のスキルで鑑定したところ、とても素晴らしい品質なのですが……」
モストン商会の主は取り出したマジックポーションに鑑定のスキルを発動する。
「この容器が残念な品質でマジックポーションの劣化速度が早すぎましてな」
モストン商会の主は取り出したマジックポーションを小箱に戻すと蓋を閉じる。
「このまま埋もれさせてしまうのも勿体ないと思いまして、このマジックポーションに見合う容器をご用意させて頂くことにしたので御座います」
モストン商会の主の話では、お近づきの印としてマジックポーションを購入したものの、今回連れてきた御者の中に必要とする者が居なかったため、防衛業務に当たっている
「この容器ですと一週間程度で低品質のマジックポーションと同等になりますのでご注意を……」
これが村人からの賄賂であれば受け取りを拒否するのだが、話を聞く限り、これはモストン商会からの厚意であると判断した
「いえいえ。我が商会としても良い商談に巡り合わせて頂きましたので、感謝の気持ちで一杯で御座います」
モストン商会の主は
「
詰所二階の仮眠室から出てきたヤノは、
「やあ、ヤノ、ただいま。モストン商会の主から使ってくれってマジックポーションを受け取ったんだけど……」
「箱ごとですか?」
高額なマジックポーションを見たヤノの声が裏返る。
「ああ。容器に問題があって日持ちしないから防衛任務で使ってくれって」
難ありだと聞いたヤノは納得するように何度も軽く頷く。
「日持ちしないと厳しいですね。そうでなくてもポーションは冒険毎の使い捨てですから」
薬師の薬草と違い錬金術師の生成するポーションは即効性があり冒険者には必須のアイテムではあるが、保存期間中にどんどん効果が弱くなるため買い溜めや次回冒険への使い回しができないのである。
「どちらにしても、うちらは接近戦メインなのでマジックポーションは不要ですけどね」
ヤノが言うように、この詰所で待機しているのは魔物が現れた時に討伐する実戦メンバーなので、そもそも魔法回復の必要がない。
「そうだよな。見張り担当の冒険者も索敵や検索スキルしか使ってないからマジックポーションなんて飲まないよね」
この世界での
「厚意で受け取った物だから、使わないなら使わないでもいいからね。一応、夕方にでも欲しい人居るか聞いてみるよ」
防衛業務二日目となるこの日、昼過ぎに東の森から魔物が何回か現れて討伐したものの、それ以降、特に問題は起きなかった。
しかし、この日の夜から南北それぞれから提供を受けた宿泊用の建物や見張り塔にて、南北それぞれの住民から袖の下と思われるような接待を受けたとの報告が入るのだった。
「やはりこういう展開になりますな」
エッヘンからの定時連絡を受け取るために席を外していた
冒険者達が請け負った依頼内容に記載されている規程ではないので、
「国王軍が到着するまでの繋ぎでしかない俺達を懐柔する意味なんて全くないけどね」
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