第37話 土筆と厄介なはぐれモノ③
窓から見える景色が夕焼けに染まり、夜を待ちきれなかった虫達が音色を奏で始める頃、
「
冒険者ギルドの一階窓口で依頼書に承諾を意味する署名を行った
「いえいえ、条件も良かったのでこちらとしても指名して頂いて有難いです」
「依頼ですか?」
所属する冒険者からの依頼自体は珍しくないものの、
「はい、依頼中は外泊になるので、その間宿舎に食材を届けてもらおうと思いまして……」
「そうでしたか……それなら毎日、ギルド職員が宿舎まで必要な物をお届けしましょうか?」
ミアは
「それは有難い申し出ですけど、良いのですか?」
思い掛け無いミアの提案に、今度は
「はい、大丈夫です。今回の案件は非常に規模が大きくなっておりまして、参加される冒険者の皆さまに対しては、ある程度の裁量が認められていますので」
ミアは事務的な回答を行った後、一呼吸置いて言葉を続ける。
「それに、
ミアは土筆の耳元でそう
「ギルドの方が届けてくれるなら安心です。可能であれば是非お願いしたいです」
ミアは
「内容は以上でよろしいでしょうか?」
契約の署名を前に、ミアが
「はい、問題ないです」
「いえいえ、これもお仕事ですから……それでは明日、記載された集合場所へお願いします。お疲れ様でした」
ミアは事務的に話をまとめると、深々と頭を下げて
翌朝、どんよりと曇った空を見て、
集合場所となっているメゾリカの街の北門に
「
相変らずの円熟した深い営業スマイルは、今日のような曇り空でも衰えることはない。
「こちらこそ、その節はありがとうございました。」
「……ハッハッハッ、左様で御座いますか……おっと失礼、皆さまお揃いになりましたようで御座いますな」
モストン商会の主はそう言って
「皆さま、ごきげんよう。この度、我がモストン商会では冒険者ギルド様より皆様をボルダ村までお送りする依頼を受けております。ボルダ村での防衛業務を請け負っている冒険者の方は、どうぞ我がモストン商会が用意致しました馬車へとご乗車下さいませ」
モストン商会の主の言葉を合図に、待機していた馬車五台が横付けされる。
「ささっ、
モストン商会の主は依頼された全ての冒険者が馬車に乗り込んだ事を確認すると、自身は
「まさか、店主自らが
「ハッハッハッ、折角ボルダ村まで足を延ばすのですから、空の馬車で戻ってくるなんて味気ないでは御座いませんか」
モストン商会の主は振り向いてそう答えると、円熟した深い営業スマイルを見せ、馬車を出発させるのだった……
ここからボルダの村までの道のりは、メゾリカの街の北門からエッヘンまで延びる街道を北上し、途中で交差している街道を東に曲がりメゾリカの街の東側を流れている川の上流に架かる橋を渡った先となる。
「こうして
モストン商会の主は爽快に
この世界では街道でも
「もう少し先に集落がありますので、そこで休憩と致しましょう」
馬車の進行方向に薄っすらと見え始めた集落を指差したモストン商会の主は、後ろを振り向きながら報告を行うのだった……
モストン商会の主の指差していた集落は、王都方面からボルダの村に伸びる街道との交差点付近に点在している農家が経営している小さな休憩所だ。
休憩所には行商人や旅人達が安全に宿泊することができる簡易宿所のほか、馬車などを駐車するための繋ぎ場なども備えている。
「それでは、私は少し用事が御座いますので失礼します」
モストン商会の主は
「間違いなく商談に行ったな……」
金の匂いを嗅ぎ付けたのか、揉み手をしながら去って行くモストン商会の主を見送った
「こんにちは。今回、依頼の指揮をギルドから任された
挨拶を交わした冒険者の中には、先日ギルド内でゾッホと論戦を繰り広げていた現場を見ていた人も多く、
冒険者ギルド・メゾリカ支店の主要な戦力がエッヘンの街へ送り込まれていることを考慮すれば仕方がない事であるが、メンバー構成を考える限り、有事の際は自分達で打開するのではなく、王国軍が到着するまで耐え凌ぐ戦法を選ばざる得ないだろう。
「皆さま、そろそろ出発すると致しましょう」
気の知れた仲間であれば突っ込むべき場面なのだが、モストン商会の主と
「おや? これは随分と打ち解けていらっしゃるご様子で。お互い良い休憩時間を過ごせたようで何よりで御座います」
モストン商会の主はそう
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