第36話 土筆と厄介なはぐれモノ②
思わぬ形で求めていた情報を得ることに成功した
宿舎の出入り口に隣接するロビーでは、今日もコルレットが年少組の子供達と遊び戯れている。
「……」
宿舎の入り口で立ち止まった
「ますたー、おかえりなたい」
二人の愛らしい仕草に目を細めた
「あっ。ツクっち、ロリコンっすか?」
コルレットは自分達への視線とシェイラとラーファへの対応の落差に不満を漏らす。
「あっ、おっさんだ。おかえり」
今までコルレットの背中に乗っていたホッツは
「痛いっす」
コルレットはうつむけに倒れると、踏み台にされる形で蹴られ赤くなった背中を擦る。
子供達全員が揃ったところで、メゾリカの街の中で一番評判が良いパン屋で購入した蜂蜜パンを配り、おやつの時間にするのであった。
「あれれ、ツクっち。また随分と買い込んだっすねー」
コルレットは
「ツクっち。もしかして家事に疲れちゃったっすか?」
この世界の時事に精通しているコルレットが長期保存可能な食料を買い溜めした理由を知らないはずもなく、これはコルレット的には戯れ
「バレたかー。コルレットと毎日会う事に疲れちゃってさ、ちょっと旅に出ようと……ねっ」
「そうっすかー、それは悲しいっす。でもボルダ村には温泉も観光地も何もないっすよー」
やはりコルレットは
「毎回思うんだが、何処で情報仕入れて来るんだ?」
「それは女の子の秘密っすよー」
コルレットは
「
珍しい組み合わせに
「ん、どうした?」
「その……私達三人で家事を取り回すことはできるので、もしお仕事で不在になったとしても心配は要りませんから」
ホズミとミトラとミルルの向こう側には、にんまりとほくそ笑むコルレットの姿が確認できる。
余分なことを仕出かしてくれたコルレットには後でお灸を据えるとして、ホズミ達の気持ちは素直に嬉しい。
「そうか、ありがとな。でも、どうして突然そんな事言い出したんだ?」
(コルレットへのお灸の量倍増し確定だな)
窓から見える景色が夕焼けに備え始める頃、持ち運び用の葉っぱに包まれた肉を抱えたメルが宿舎に戻ってきた。
「たっだいまー」
メルは勢いよく宿舎の出入り口の扉を開けると、カウンターの上に今日の成果を置く。
「メル、おかえり。今日は何の肉?」
「今日はウッガーだよ。焼き鳥食べたいなー」
先日試しに料理したウッガーの焼き鳥風がいたく気に入ったメルは、最近ウッガーを狩りに行く頻度が増えているのだった。
「了解。今日はウッガーの焼き鳥風で決まりだな」
「うんうん、決まりだねっ」
メルは尻尾を揺らしながら
「あっ、そうだ」
暫くの間、
「そういえば、さっき冒険者ギルドで指名依頼受けてきたよ」
唐突なメルの発言に、料理をする
「そうなんだ。どんな依頼?」
「えっと……確か、エッヘンとか言う街で食い倒れ放題って言ってた気がする」
本来”食い倒れ”と言うのは、贅沢な飲食をして全財産を使い込むことを意味する言葉であるが、メルの言う”食い倒れ”とは文字通り”倒れるまで食べる”ことを意味する。
話せば長くなるので割愛するが、コルレットが何処からか仕入れてきた地球の
「なんだよそれ……仕事要素ないんだけど?」
「あれれ? 言われてみれば確かにそうだ」
メルも笑いのツボにはまったらしく、ケラケラと声を出しながら笑い出す。
「はい、これ。もらった書類」
お腹を抱えて笑うメルから依頼書を受け取った
「そう言う事か……ゾッホに付いてエッヘンに行けば、依頼中の食事は好きなだけ食べることができて、その代金は全額ギルドの経費で負担するって条件なんだな」
概ねミアの差し金だとは思うが、メルの特徴を良く捉えた素晴らしい依頼内容である。
「そうそう、そんな感じだったと思う」
メルはまだ笑いのツボから抜け出せない様子で、ケタケタと思い出し笑いを繰り返しているのだった。
メルが請け負った依頼の内容は
「それにしてもギルドも思い切った事するな……」
今回の依頼を請け負いエッヘンへ派遣される冒険者達の生存率を考えれば、ギルドがメルの力を求めるのは当然のことだろうが、メルを食欲で釣り上げた代償は計り知れないだろう。
更に、指名依頼なので他の冒険者達と報酬が同じとは限らないが、少なく見積もってもユダリルム辺境伯からの依頼についてギルドが収支を黒字に持っていくとは不可能である。
今回の依頼で冒険者ギルドが欲しているのは目先の利益ではなくユダリルム辺境伯との人脈なのは容易に推測できるが、辺境伯がそれを計算に入れて派遣要請をしたのならば、ユダリルム辺境伯は噂にたがわぬ人傑であると見て良さそうだ。
「エッヘンは初めて行くからね。楽しみ楽しみだよー」
今回のメルの請け負った依頼は、魔物の群れに飛び込んでいく非常に危険な業務なのだが、例え数百数千の魔物が襲ってこようとメルにかすり傷すら与える事はできないだろう。
悪魔から呪いを受け、聖白な天使の翼を失い獣人化してしまったメルであっても、メル=トリト=アルトレイと言う少女の戦闘能力は一騎当千などと言う軽々しい言葉では表しきれないのだ。
「そうだな、ゾッホの頭の産毛まで全部毟り取ってやれ」
「それだと何も食べられないじゃんっ」
危険な依頼を前にしても
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