第34話 土筆と八人の孤児⑥
朝食後、手伝いをしたいと申し出てきたホッツとネゾンを連れて買い出しに出掛けた
「そうか、それは大変だったな。でも、そんなに生傷付けて帰ったら怒られるんじゃないか?」
「そりゃ、もう、こっぴどく怒られたさ」
「ルウツなんて、
「なっ、ネゾンお前だって、次の日頭に大きなたん瘤作ってエトラの母ちゃんに薬塗ってもらってただろう?」
八人の子供達の中でもホッツとネゾンは小さな頃から
彼らの両親は皆、獣人のみで構成されているビスケス傭兵団の団員だったようで、六人の子供達は幼いころから同じ開拓村で過ごし、ホッツとネゾンの話から察すれば六人の繋がりや開拓村がどのような所だったかも大方把握する事ができる。
「そんな事になってたっすか?」
コルレットも始祖の魔素が及ぼす影響については全く予想していなかったらしく、
「ポプリちゃんの言う通りっす。大気中に混ざっている濃度がこの程度であれば、影響は限定的っすよ」
コルレットはそう言うと、昼食後にゴトッフ達の元へ赴いて異常がないか調べることを約束する。
「それと、雌のゴトッフ達は魔素の影響で乳が張ってるらしくって、
今日作る予定のおやつの材料用にと市場でミルクの代用品は購入したのだが、できれば新鮮なミルクを使用したい。
「調べてみないと分からないっすけど、多分大丈夫だと思うっすよ。始祖の魔力自体は極めて神聖っすから」
コルレットの話では、宿舎中庭の井戸の底で結界を張り直した際に井戸水の安全性も確認していたらしく、
「でも、短期間に大量の井戸水を摂取すると体内で濃縮されて害を及ぼす可能性もあるっすから、飲みすぎ注意っすよ」
ちなみに
宿舎で生活する全員が揃って昼食を済ました後、
子供達が生活していた開拓村でもゴトッフを放し飼いしていたらしく、
「ツクっち。コルレットちゃんは先にゴトッフを調べるっすね」
コルレットはそう言うと、神力を解放してモーリスを含めた全てのゴトッフの魔力回路と体内の様子を調べ始める。
「これは
タッツの姿を一目見たホズミが唸るように言葉を漏らすのだが、他の子供達にとっては可愛らしい妖精としか映らないらしく、わいわいと騒がしいのを嫌がったタッツが
「ツクっち、この子達は皆健康っすよー。
「コルレット、雌のゴトッフ達の乳は一時的なものなの?」
「あくまで推測の域っすけど、雌ゴトッフの変化が始祖の魔素によるものなら継続的になると思うっすよ」
コルレットが先ほど神力で調べた結果によると、ゴットフ達が取り込んだ始祖の魔素は体内に留まることなく排出されているようである。
魔素自体は一定時間経過すれば自然に還るので、これ以上この地域で始祖の魔素が濃くなることもないらしい。
「まあ、気の遠くなるような年月を経ると予想外のことが起きる可能性はあるっすけど、彼らの寿命を考えればそれも有り得ないっす」
心なしか遠い目をしたコルレットはそう言うと、胸元から片眼鏡のような道具を取り出して
「これは眼鏡越しに見た食材の安全性を知る事ができる魔道具っす」
定期的に雌のゴトッフから
「他の食材にも使えるっすから、冒険のお供にも最適っす」
子供達による
後はテーブル上にセットした冒険者向けの野外調理用魔道具を使って弱火を起こし、その上に鉄板を敷いて市場で購入したバターを落とし、ホットケーキを焼き上げていく。
「ツクっち? これが噂のホットケーキっすか?」
相変らず何処で仕入れた知識なのか分からないが、コルレットは地球の情報に精通している。
「ああそうだよ。土根から作った砂糖の味見を兼ねて作ってみた」
砂糖が焼ける甘い香りに誘われて、子供達の腹の虫が一斉に鳴き始める。
「熱いから気を付けて食べなよ」
この世界ではヴィーと言う蜜蜂の習性を持つ魔物の養蜂が行われているので、蜂蜜の品質は地球の物よりも高い。
「まだまだ沢山焼くから慌てなくてもいいからな」
「これは新鮮ね」
食べ過ぎて部屋に戻っていった子供達と入れ替わりでやって来たポプリは、残り物のホットケーキを口にすると、ホットケーキの食感に思わず言葉を漏らす。
「この世界にはスイーツってあんまりないからね」
「私達には食事が必要ないと思っていたけど、考えを改めないといけないわね」
ポプリは宿舎に来た当初、コルレットの命令で食事を共にしていたのだが、最近は多少なりとも楽しみにしてくれているようだ。
「砂糖が自給自足できるなら、もっと色々なスイーツを作れるから、楽しみにしてくれると嬉しいな」
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