第14話 引っ越し二日目の夜
冒険者ギルドを後にした
「そう言えば、あの依頼いつやるの?」
沈み行く夕日を浴びて、茜色に染まったメルが道すがら
「そうだな……とりあえず明日は注文した荷物が届く予定だから、明後日以降で天気が良い日だな」
「うんうん、天気大切だよねー……楽しみだなー」
メルは屈託のない笑顔を見せると、宿舎に向かって走り出すのだった……
宿舎に帰宅した
歓迎会と言っても中身は食事会、身も蓋もない言い方をすればちょっと豪華な夕食なのだが、それでも新しい仲間を迎え入れる気持ちはどの世界でも同じである。
一区切りついたのを見計らって退席したポプリを見送った
揺すっても、尻尾を握っても、獣耳をもふもふしても、頬っぺたをツンツンしても一向に起きなかったメルを毛布で包んだままお姫様抱っこして寝室まで運んだ
「やっべ……部屋の片付けやってなかった」
よくよく考えてみれば、
冒険者であればアンデットや悪霊などとも対峙する機会は少なくないので、窓越しに幽霊が微笑んで手を振っていても何の不思議もないのだが、どれだけ経験を積んでいたとしても不意を突かれれば背筋が凍るのは避けられない。
「ん?」
透明度の低い宿舎の窓ガラスに映る見覚えのあるシルエットに確信を覚えた
「……何やってんだよ」
「ちわっす。コルレットちゃん来たっすよー」
窓の外には
コルレットは悪びれる様子もなく窓から
「用事があって来てみたっすけど、一階の明かりが消えてたから困ってたっすよー」
コルレットは浮かんだまま胡坐をかくと、
「……それで、その用事ってのは何?」
「そうっす。水精霊ディネちゃんとの魔力回路が正常かどうか調べに来たっすよ」
コルレットが言うには、今朝行った名付け契約がイレギュラーな形で行われた為、念のために精密な検査を行おうと道具を持参したみたいである。
「ツクっちのような複数の妖精や精霊と契約を結ぶ人は繊細な魔力回路が形成されるっすから、イレギュラーな契約をそのまま放置するのは危険なんっすよー」
コルレットは持参したという検査用の魔道具を空間から取り出して
「このアイテムを使えば、現在契約している魔力回路の状態を詳細に調べる事ができるっす。その他にも契約した妖精精霊の特徴や、名付け契約で発現したユニークスキルの情報も確認できるっすよー」
コルレットは控えめな胸部を精一杯張りながら検査用の魔道具を掲げて見せるのだった。
コルレットは
突っ込んだ指先にねっとりとした魔力が絡むと、
それを確認したコルレットは
「これでオッケーっす。解析結果は明日の午後には出るっすから、その時に水精霊ディネちゃんの能力も試すっすよー」
コルレットはそう言うと検査用の魔道具を空間に仕舞い込んだ。
「では、検査結果が出るまで寝るっすよー」
コルレットは
「おい、こらっ」
「ツクっちどうしたんすか? コルレットちゃん、全然気にしないっすよー」
コルレットは横に向きになると、にたにたと笑みを浮かべながら更に誘惑するように、こっちにおいでと指を波打たせる。
「いっ、痛いっすよー」
予想を遥かに超える大きな音を響かせながら、コルレットの額が見る見る赤く染まっていく。コルレットは半べそをかきながら両手で額をさするのだった。
「ツクっち酷いっす。コルレットちゃん傷物になっちゃったじゃないっすかー」
猛抗議するコルレットに対し、
「ぐっ、ツクっちがその気ならコルレットちゃんにも考えがあるっすよ」
そう言うとコルレットは素早く立ち上がって身構えるのだった。
「……一つ忠告をしたいのだが?」
「なっ、なんすか……」
コルレットは
「早く帰った方がいい」
「……なっ、何をいってるっすかー。コルレットちゃんはおでこの恨みを晴らすまで帰らないっすよー」
コルレットは両手を上下に振りながら、身を乗り出すような姿勢で抗議する。
「そうか……一応忠告はしたからな……」
「何をやってるのかなぁ?」
そこには、安眠を妨害されたメルが不機嫌オーラ全開で仁王立ちしているのだった。
コルレットは一歩二歩と流されるようにメルの前に歩み寄る。
「悪いな、起こしちゃったか?」
「えっ、ツクっちどういう事?」
コルレットは
次の瞬間、メルは流れるようにコルレットの関節を極めると容赦なく締め上げるのだった。
宿舎へ引っ越した二日目は、コルレットの苦しみ悶える悲鳴と共に更けていくのだった……
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