第15話 魔女っ子と女騎士
東の地平線から光が顔を覗かせる頃、運動着に着替えた
了解を意味する拳の突き上げをしながら去って行くドニを見送った
その広大な土地はメゾリカの街の南外壁を底辺とした二等辺三角形の形をしており、底辺となるメゾリカの街の南外壁は東西に約二キロメートル、南北に限っては東西に流れる川が合流する地点まで最長で四キロメートルにも及ぶ。
言うまでもなく、
しかし、冒険者として生きている
冒険者にとっての活動の場は主に街の外の世界であり、手付かずの自然に囲まれたこの世界では地ならしされた場所なんて殆ど存在しないからだ。
依頼遂行中に森の中で運悪く魔物と遭遇し、戦闘の最中に足が取られでもすれば、それこそ命に係わる大惨事になり兼ねない。
冒険者にとって体幹を鍛える事は、生き残るために最も重要視されるものなのである。
例えるならトレイルランニングそのものであるが、何の手も加えられていない足場に加え、この世界では標準となっている革靴を履いているのでスポーツ競技のそれとは比較にならないほど難易度は高くなっている。
時間にして九十分ほどで宿舎に戻って来た
様々な条件が課せられている中で真っ先に対応すべきは、メゾリカの街の南外壁付近に生い茂る雑草の処理である。
外壁には一定間隔毎に見張り所が設置されていて、騎士団の隊員が交代で見張り業務を行っている。
メゾリカの街の南側は陸の孤島になっているので北側に比べて重要度は低いのだが、街の取り決めにより外壁から一定距離内の除草が義務付けられている。
土筆が購入するまでは、この街を納める領主が各ギルドへ依頼していたのだが、今年からは
「後でテイムする作戦を考えないとな」
午前中は部屋の片付けや昨日購入した商品の受け取りなどで瞬く間に過ぎ去り、午後になって
「ちわーっす。コルレットちゃん来たっすよー」
「メル先輩こんにちわっす」
コルレットは屈託のない笑顔で、満腹後のうとうとモードに入ったメルに挨拶をする。
「……あれポプリちゃんは居ないっすか?」
周りを見渡したコルレットが
「ポプリに用事があるなら先に済ませてこれば?」
今日やるべき予定は午前中に終えているので、特に時間を急ぐ理由もない。
「あっ、いいっす、いいっすー。特に用事があった訳じゃないっすからー」
「ご馳走様っす。では水精霊ディネちゃんの能力を確認しに行くっすよー」
メルはコルレットに合わせて立ち上がった
「あれ? ……コルレットだ。何処か行くの?」
「ああ、昨日契約した水精霊ディネの能力を試しにちょっと外まで行ってくる。一緒に来るか?」
メルはまだウトウトモード継続中なのか、ゆっくりと時間が流れている様子だ。
「うーん……やる事あるし今日はいいや。」
メルは眠気が覚めて来たのか、椅子に座ったまま両腕を天に伸ばして大きく伸びをする。
「やる事? 何か言ってたっけ?」
メルは
「昨日見付けちゃったんだよねー、あの大きな窯をっ」
「あの大きさだったら、丸焼きが出来ると思うの」
付き合いの長い
「だから、お肉を狩ってくるんだよ」
メルは目を輝かせながら立ち上がるのだった。
「そうか、なら今日の晩飯は肉だな。付け合わせを考えておくよ」
「うん、任せたっ」
メルは拳で胸部を叩くと満足そうな表情をする。
「そう言えば昨日リエーザさんが干し肉の原料欲しいって言ってたっけ? 食べきれない分はギルドに引き取って貰えば一石二鳥だな」
メルの性格を知り尽くしている土筆は、さりげなく言葉を添える。
「そんな事言ってたねー。ついでにギルドの分も狩ってくるねっ」
メルの能力を考えれば、天変地異でも起きない限り怪我をする事はないだろう。
それよりも心配なのは、食べ切れない量のウッガーを持ち帰ってくる事である。
帰り道に冒険者ギルドに寄って引き取って貰えれば、対価としてお金も稼げるし、食べきれなかった分を処理する手間も省ける。
「きっとリエーザも喜ぶよ」
「ここなら大丈夫じゃないっすか?」
コルレットは精霊魔法の的にするのに適した岩を指差して
「何故に魔女っ子?」
膝丈の黒いローブに赤いリボンがアクセントになっている黒色のとんがり帽子、ちょっと大きめの銀縁眼鏡で魔女を意識しているのが一目でわかる装いである。
「魔女っ子じゃないっすよっ! 魅惑の美魔女っす」
コルレットは身をくねくねさせて魅惑のポーズを決めるのだが、その言葉を聞いた
「コルレット……美魔女って言うのは、年齢を重ねても若々しくて美しさを保っている女性って意味だぞ」
「くっ……くっ殺っす」
何処で覚えて来たのか、女騎士の決め
「その
しかし、勘違いしていたのは
「黒歴史は滅せなければっす……ツクっち、記憶をちょこっとだけ消去するっすよ」
コルレットはそう小声で呟くと、どす黒いオーラを纏った拳を振り上げる。
「おっ、おい、コルレット?」
「コルレットちゃんは本気っすよー」
冗談なのか本気なのか分からないが、コルレットの猛攻は暫くの間続くのだった……
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