第11話 ポプリ画伯
「あっ、お帰りなさーい」
用事を済ませた
「おっといけないっす。忘れる前にツクっちの土地に結界を張って来るっすねー」
コルレットの気配を感じて我に戻ったポプリが憎悪に満ちた眼差しで睨んでいる事に気付いたのか、コルレットはこの場から逃げるように宿舎の外へ出て行くのだった。
「監視対象を確認してくるわ」
コルレットが宿舎から出て行くのを睨み続けていたポプリも、
「そう言えば、今日はどうすんのかな?」
コルレットとポプリが居なくなった後、流し台で朝食に使った食器を洗っていた土筆に対し、メルが皿の上に残っていたパンを頬張りながら尋ねる。
「ん? そうだな……引き続き宿舎の片付けと昨日行けなかった買い出し……後は、昨日の仕事の報告でギルドかな?」
「
メルはテーブルの上に上半身を乗せて尻尾を揺らしながら、ふにゃふにゃな姿勢で他人事のように言う。
「何言ってるんだよ? 宿舎の片付けはメルの仕事だぞ」
「えーっ、メルさん昨日頑張ったんだけどなー」
「どの辺を?」
「どの辺だろー?」
メルは言っていて楽しくなったのか、ケタケタと笑っている。
「……」
メルの性格を考えれば、おやつを食べた後のお昼寝が爆睡へと繋がったのは想像に難くなく、
「メルさんや。せめてベッドで寝たいと思わないのかい?」
「おっ、ベッドでゴロゴロしたいねー」
「なら寝室の片付けをしないとね」
「ぶー」
メルはまた口を尖らせてぶう垂れたかと思うと、突然立ち上がり、閃いたと言わんばかりに手を打つ。
「あっ、ポプリちゃんの部屋も用意しないとねっ」
先程までとは打って変わってやる気になったメルは、メラメラとやるぞのポーズを取って見せるのだった。
「……そう言えば、ポプリってどんな感じで井戸の監視するんだろうか?」
「よっ、井戸の確認は終わったか?」
「問題ないわ」
ポプリは素っ気なく答えると空を見上げる。
「ん? 空に何かあるのか?」
「結界、張り終わったみたい」
「わかんないや……」
「そう」
ポプリはやはり素っ気なく答えるのだった。
「…………」
ポプリはまるで
「井戸の結界の監視って、どうやるの?」
「今やってる最中よ」
どうやら土筆の問い掛けには答えてくれるらしい。
「今やってるって……もしかして、ずっと
「そうよ」
てっきりコルレットのような緩い感じで監視を行うと思っていた
「それって、この場所で監視しなければいけないのか?」
「特に決まりはないわ」
どうやら、このポプリと言う天使は良くも悪くも生真面目な性格のようである。
真面目過ぎるが故に融通が利かず、自身が持っている能力を十分に発揮する事が出来ないでいるのだ。
しかし、ちょっとした切っ掛けで一気に開花する可能性を秘めているのも事実。
幸運な事に、前世で会社勤めをしていた
「そっか……でも監視者って言うのは、井戸を見張るだけじゃない気もするけどな……」
「何が言いたいの?」
ポプリは
「だってそうだろ? ポプリに与えられた監視と言う任務は、井戸の中の結界を見守るだけじゃなくて、結界に害が及ぶのを未然に防ぐのが目的なんだろう?」
「……」
ポプリは黙り込んで考え始めると、僅かな時間で結論まで辿り着く。
「一理あるわね」
その後、解放した神力が範囲内に浸透するのを確認するとゆっくりと降下し、着地後に再び神力を発動させ動物の姿を模した数体の魔法生物を創造する。
「頼んだわよ」
ポプリが”意味ある言葉”で命令を下すと、創造された魔法生物達はそれぞれの役目を果たすために移動を開始するのだった。
「今のは造形魔法なのか?」
「そうよ」
魔力媒体を使わずに、複数の魔法生物を同時に生成するという離れ業を平然とやって退けるポプリの能力に、
「あれは天界に生息している生き物か何かなの?」
「違うわよ」
ポプリは乱れた髪を手櫛で整えながら答える。
「分かった! 神話とかに登場する伝説上の生き物だっ」
「違うわよ」
「……」
鳥や蝶やモグラなどの特徴を持ちつつも、斬新で独特なフォルムを有する動物達を見た
「どう?」
ポプリは
「予想以上で返す言葉もないよ」
ポプリは白旗を掲げた
「よしっ……これでポプリが井戸に張り付く必要もなくなっただろ?」
「ええ、そうよ。何かあったら彼らが知らせてくれるわ」
「なら彼らが知らせてくれるまでの間、ポプリが待機できる場所が必要だな」
「……」
賢明なポプリは
「ここなら中庭に直接出られるし、窓から宿舎の外も確認する事ができるんじゃないか?」
その部屋は北棟の一番西側にある角部屋で、中庭から階段を利用して直接入る事ができる。
更に、部屋の西側と北側には窓があり、外の様子を窺い見ることも可能だ。
「確か……モストン商会の主が料理長の家族が住んでたって言ってたなぁ」
少々不満そうな顔をしていたポプリは痛かったのか手首を擦りながらため息を吐くと、チラリと部屋を見渡す。
「強引ね……でも、ここの所有者命令には従うわ」
「掃除もまだしてなくて申し訳ないけど、好きにしてくれていいからね」
「……」
ポプリは
「……やっぱ、ツクっちは面白いっすねー」
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