第9話 水精霊のディネ
昨夜、
「あっ、そうだ!」
そんな
「そうそう、あの後コルレットが戻って来てね、何か言ってたんだったけど……」
メルはそこまで言って言葉を詰まらせる。
「……なんだっけ?」
メルの誇るパッシブスキル【度忘れ】が見事に発動しているようだ。
メルは右に左にへと首を傾げながら頭の上にいくつものクエスチョンマークを浮かび上がらせて難しい顔をしている。
その姿を見た
二人にとってはもはやお馴染みとなっている
「ちわーっす。コルレットちゃん来たっすよー」
昨日に引き続き、所有者の許可を得ることもなく無遠慮に入って来るコルレットに対して、
「あれ? 鍵、掛かってなかったっけ?」
「ん? やだなぁーツクっち……乙女には色々と秘密があるっすよー」
コルレットは全く可愛気のない乙女チックなポーズを決めて見せる。
「どうやって開けたんだ?」
宿舎の扉はこじ開けられた形跡もなく、自然に開錠された状態だった。
「それは……っすねー……魔法でちょいちょいって感じだったり……っす」
「……悪かったっす。もうしないっす。そんな目で見ないで欲しいっす」
コルレットはその場の空気に耐えられず、涙を浮かべながら土下寝を披露するのだった。
「…………」
コルレットは気まずい空気が落ち着くのを見計らい、チラリと土筆を見上げる。
「あれ? ツクっち、随分と顔色が悪いっすねー……どうしたんっすか?」
コルレットは言葉巧みに話題を逸らすと、土下寝から正座へと姿勢を変える。
「あぁ……昨日魔力切れ起こしてから気怠さが抜けなくってな」
「……気怠さっすか?」
顎に手を当てて話を聞くコルレットに対して
「……それって、その子が原因じゃないっすか?」
「その子って?」
「だからその子っす」
コルレットは立ち上がると
「……」
しかし
「あれ? ツクっちには見えないっすか? ……おかしいっすね。この水精霊、確かにツクっちから魔力の供給を受けてるみたいっすけど……」
普段の行いを考えれば、コルレットが土筆をからかっている可能性もなくはないのだが、今回に限っては珍しく、コルレットは真面目な表情をしているのだった。
「……ツクっち。その目はコルレットちゃんを疑ってるっすね?」
コルレットの表情から真意を読み取ろうとする
「わかったっす……メル先輩、ちょっと来てくださいっす」
コルレットは関わりたくなさそうに椅子に座っているメルの名を呼ぶと、強引にメルの腕を引っ張って土筆の元へ連れて行く。
「メル先輩、これ見えるっすよね?」
コルレットはメルの顔を両手で挟むと、
「凄く小っちゃいけど、確かに居るねー。水のお人形さんかな?」
メルは目を凝らすように見つめると、見たままの感想を漏らす。
メルの証言を得たコルレットはそれ見たことかと唇を尖らせ、抗議の眼差しで
「わかったよ……俺が悪かったよ……」
「うんうん、分かればいいっすよ。コルレットちゃんは全然気にしてないっすから」
謝罪を聞いたコルレットは、疑われた事を思いっきり気にしている様子で話に区切りを付けると、更に言葉を続けるのだった。
「でもこの子……かなり弱ってるみたいっすけど、このまま放置するんすか?」
精霊とは妖精が吸収した魔力が蓄積され一定条件を満たすことによって進化する存在である。
コルレットの見立てでは、この水精霊は進化したばかりの子で、既に
しかし、正式な契約に必要な名付けが行われていない為、魔力の供給が弱く時間と共に衰弱しているのだそうだ。
「このまま放置したら消滅してしまうんだろ?」
コルレットは
「なら答えは一つだ」
「見た感じ、ツクっちの魔力が回復しきってないようっすから、足りない分はコルレットちゃんが補ってあげるっす」
コルレットはスキルを使って
「……」
「……あれ? ツクっちどうしたんすか? 遠慮はいらないっすよ」
反応が無い事を不思議に思ったコルレットは、片目を開け状況を確認すると何かに気付いたような仕草を見せる。
「あっ! ツクっちはこっち派だったんっすね……申し訳ないっす」
そう言うと、コルレットは何を勘違いしたのか、今度はキス顔を作って
「何をやってるのかなー?」
青筋を立てたメルが
「……先輩、ギブっす。ギブっす」
全身の関節が悲鳴を上げ、苦しそうにコルレットがタップをすると、メルは勇ましげに尻尾を一振りして技を解く。
こればかりはコルレットも堪えたのか、そのまま力なく崩れ落ちるのだった……
その後、涙目のコルレットが
「それではツクっち、行くっすよ」
コルレットが目を閉じて意識を集中すると、繋いだ手を通して
「繋がったっす。契約を始めるっす」
「我、汝との契約を求めんとする者なり……」
やがて
「……我、汝をディネと命名し契約を求めん」
水妖精は
「上手く行ったみたいっすね」
コルレットは
「あぁ……コルレットのお陰でなんとかね……ありがとう」
「えへへっ。水のお人形さん元気になって良かったねー」
水精霊ディネとの契約が無事に終わり、契約による魔力の消費や供給に問題がないかコルレットに一通り調べてもらった頃には、メルと水精霊ディネは完全に打ち解けている様子だった。
「一先ず、ツクっちの魔力容量もディネちゃんへの供給も問題ないっす」
妖精よりも高位の存在である精霊との契約で、
「ツクっちとディネちゃんの相性最高っす。全く損失が無いっすよ」
術者と妖精や精霊との契約では、相性により必要とされる魔力の供給量が大きく変わる。
そのため、魔王の呪いにより魔力量が制限されている
「これだけ相性が良いと、常に召喚してる状態でも問題ないっすよ」
そう言われてみれば、昨日から
「うひひ……これは運命の出会いかもしれないっすねー」
コルレットはからかうように
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