とてつもなく大きな絵

遥香は上へ上へと目指した。

実際に登るとよくわかる。

私たちの日常と空気が違う。きっと誰もがそう思う。ここは死者を葬る巨大な墓であり、生きる者の世界とは違うのだ。


登り切ると、木々に囲まれた平地に出た。

いくつかの石のベンチと、何か文字が刻まれた石碑が立っている。


シュークリームは石碑を指し示す。

遥香は石碑の前に立ち、トントンとノックした。すると石碑は半分に割れる。割れた間には地下へと続く階段が伸びていた。


30段ほどの階段を下りる。

そこから真っ直ぐに道が伸びている。

岩肌で囲まれた岩の道をひたすら歩く。


しばらく歩くと、歩く感触が変わる。

足下を見ると、木の床に赤い絨毯が敷かれていた。


そして遥香の目の前には大きな1枚の絵画が飾られていた。どれくらい大きいか?それは、誰も見たことがないぐらい大きな絵画だった。


「座礁する船」とタイトルがあり、その下に油彩と書かれている。黒い帆船が荒波の中で座礁している。帆船は7つの帆を持っているが、もはや船を進めるだけの力も残されていない。


その帆船が見つめる先には、荒狂う海の上に浮かぶ小さな一つの光だけだった。座礁した帆船はその光に助けを求めているように見える。でも光は助けない。


少し絵から離れて、もう一度絵を見直す。 すると別の印象を抱く。

この小さな光がこの荒狂う海を作り上げたのではないか。帆船は光によって座礁させられたのではないか。

光こそが諸悪の根源。そのような印象を抱いてしまう。


絵の中の光に向かって遥香は手を伸ばす。

光は善であり、そして悪でもある。

そんな光に手を伸ばす。


そして絵の中の光に指先が触れた時、絵は消えてしまう。消えた絵の向こうには、一つ扉が姿を表した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る