第19話 アリオジェマの結婚

 聖女認定の儀が終わり、次期大聖女と指名を受けたイシルは、意識を失って倒れた。

 ふらりと体を傾けたイシルにアリオジェマは駆け寄り、肩を抱いて受け止めた。

 イシルが気を失っているのに気づいて、アリオジェマは膝の裏に腕を入れてイシルを抱き上げ、そのまま部屋へと連れ帰った。

 レザールさまとミリアムは、その後ろをにこにこしながら付いていった。


 イシルをベッドに横にしてそのまま離れないアリオジェマを、

「こういうときは女性がついているものよ」

と、ミリアムは追い出した。


 やがてミリアムに付き添われて部屋から出てきたイシルに、アリオジェマは駆け寄った。

「大丈夫ですか?」

そのまま肩を抱くようにイシルを導きソファーに座らせると、アリオジェマはその隣に腰掛けた。

 そして手を握ってその冷たさに驚き、慌てて腰を上げて、お茶を入れようとした。


「お茶は今ミリアムが用意してくれています。アリオはもっと近づいてイシルを暖めてあげてください」

レザールさまの言葉は、本気とも冗談ともとれるものだった。

 その言葉をわざと真に受けたように、アリオジェマはイシルの腰を抱いてぴたりとくっついた。


 イシルはその状態で、三人からおめでとうの言葉を聞いたのだった。



 * * *



 ルルーたちがレティオール神殿に帰ってから、アリオジェマはイシルと結婚の約束をしたことをレザールさまとミリアムに告げた。


「がんばったわね、アリオ。いつ告白するかと思っていたけれど、考えていたより早かったわ」

「やっと気持ちを通じ合えたのですね。おめでとうございます」

 二人の祝福に、イシルもアリオジェマも真っ赤になりながらも嬉しそうにしていた。


「式はフルプレヌ神殿に帰ったらすぐと考えていたが……、読めなくなったな」

 イシル以外の三人は、困った顔をしていた。イシルはこれからどうなるのか全然想像もつかなく、ずっと戸惑ったままだった。


「イシルはこれから大聖女の修行をすることになる。

 この大神殿にいたいか? それともフルプレヌにいたいか?」

アリオジェマが心を決めたように、イシルに聞いた。

「フルプレヌにいることもできるのですか?」

「イシルが望めば、そうできるように私たちががんばる」

レザールさまもミリアムも、アリオジェマの言葉にうなずいていた。


「私はフルプレヌ町とコトー村が好きです。できればそこにいたいです」

「わかった」

アリオジェマは力強く言った。

「まかせて」

とミリアムは笑い、

「あとはすべて私たちが進めますからね。

 しばらくは大神殿にいることになってしまいますが、イシルは気にせず修行に励んでくださいね」

とレザールさまが言った。


「式の日取りについても、任せて欲しい。すまないな」

アリオジェマに申し訳なさそうに言われて、イシルはいいえと首を振った。


「アリオは、わたしの人生を、わたしが考えているよりもずっとすばらしいものにしてくれると、わかっていますから。

 あのつらい家から救い出してくれた人ですから」


 その言葉にアリオジェマは思わずイシルを抱きしめた。

 イシルはその状態で、二人からおめでとうの言葉を聞いたのだった。



 * * *



 フルプレヌ小神殿が神殿になり、コトー別館もできた。

 イシルの生家は一回り大きく整えられ、家族だけでなく侍女や側人、護衛なども住めるようにした。

 そこがアリオジェマとイシルの新婚家庭となった。



 フルプレヌ神殿コトー別館の鐘が、特別な日を告げるために薄霞のかかった空に響いた。


「綺麗だ、私の花嫁さん」

いくら見ても見足りないというように、アリオはずっとイシルを見ている。


 イシルは大聖女エリアに贈られた花嫁衣装に身を包んでいた。

 ふわふわとした真っ白な生地が幾重にも腰から下をおおった様は、まるでイシルの清浄な気を表しているようだった。喉元から腰までは、繊細なレースでできている。

「次期大聖女にふさわしいドレスですね」

支度をしてくれたジュリアも誇らしげだ。


「最後に仕上げに」

 アリオジェマが、イシルの首に真珠のネックレスをかけ、イヤリングをつけた。彼からのプレゼントだった。

 白の表面にさまざまな光が浮かぶ真珠は、イシルをより神秘的に見せた。


「こんなに綺麗な人と結婚できるなんて、私はなんて幸せなんだろう。

 しかも内面はもっとすばらしい人を」

 そんなアリオジェマの言葉を、周りで聞いている人たちは「はいはい」といつものことと流していた。



 二柱を中心とした神々の御前で、アリオジェマとイシルは絆を結んだ。神々が二人を祝福し、その証の光が二人に降り注いだ。イシルの白いドレスが、様々な色に染まった。

 光に照らし出された夫婦の顔は、とても晴れやかな表情だった。



 その夜、やっと二人きりになったとき、アリオジェマはイシルをぎゅっと抱きしめた。

 まるでそこにいるのを確かめるように、アリオジェマの手がイシルの髪を、背中を、優しくなでた。


「やっと私のものになる。そして私はあなたのものだよ」

 アリオジェマの声は、イシルの耳元で小さく響いた。

「ずっと一緒にいてくれ。私はあなたから離れない」

「はい」

「愛しているよ、イシル」

「はい。

 アリオ。愛しています」


 二人は愛の言葉を紡ぎ合い、お互いの存在を確認し合い、静かで熱い夜を過ごした。



 ~ 番外編2 終わり ~

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