第13話 エピローグ

「ただいまぁ」

 イシルはコトー村の大好きな川のほとりの柳の下にいた。見えない友だちのソールとリュイが、キラキラと光っていた。


 今のイシルには、二人の姿が見えるようになっていた。

 ソールは柳の枝に座る少年の姿に見え、リュイは川面に浮かぶ髪の長い女性に見えた。声も以前よりはっきりと聞こえる。


「お帰りなさい」

再会した二人はとても嬉しそうだった。



 聖女認定の儀から半年後、イシルはフルプレヌ町に戻ってきた。

 ラッティ神官が侍女としてフルプレヌ神殿にもついてきた。彼女はこれからどこでも、イシルの側に付き従うことになった。



 次期大聖女を見出した功績を称えて、フルプレヌ小神殿は神官を複数抱えるようになり、フルプレヌ神殿と言われるようになった。


 コトー村のイシルの生家と土地は、両親のプレリア夫婦から大神殿が買い上げ、次期大聖女であるイシルに下げ渡された。そこを借りていた者にそのまま管理をまかせ、収益はイシル個人のものになった。

 生家は改築されてイシルの住居となった。


 イシルの希望で、生家の近くに小さな神殿が建てられ、フルプレヌ神殿コトー別館と呼ばれた。

 やがてそこには治療を得意とする神官たちが住み、治療院として入院患者を受け入れ、多くの人々を救うようになる。


 ノブルム神官とオネット神官は、聖女認定の儀の直後から大神官の指示を受けてこれらの采配をし、半年後にイシルを迎えたのだった。

 ノブルム神官はフルプレヌ神殿の神官長となり、オネット神官もフルプレヌ神殿の所属になった。


 あと何名か神官を抱えて、中程度の大きさの神殿になることがすでに決まっていた。いままでノブルム神官の元で見習いとして修行した神官たちが、フルプレヌ神殿に戻りたいと手を挙げている。



 イシルはフルプレヌ神殿と大神殿を行ったり来たりすることになった。フルプレヌ町やコトー村から離れるのをイシルが嫌がったためだった。

 大聖女になるまでは、フルプレヌ神殿の聖女として活動しつつ、大神殿に赴き次期大聖女としての修行をすることになった。


 そのために転移陣がフルプレヌ神殿に置かれた。

 そして転移陣はコトー別館にも置かれた。イシルが家に住むのに便利なようにだった。

 護衛だけで守るには広すぎたため、イシルの土地には結界が張られた。もちろんイシル自身がそれを張った。



 * * *



 イシルがフルプレヌ町に戻ってきたある日、まだ新築の木の香りが漂うフルプレヌ神殿コトー別館で結婚式が行われた。


 大神殿から送られた男女の神の像の前で、ノブルム神官長の導きにより、イシルとオネット神官は絆を結んだ。

 そのとき、色ガラスを通して窓から入る光が二人の上に降り注ぎ、参列した人々は皆、神の加護を体感した。


 イシルはイシル・プレリア・オネットとなり、イシルの希望により、イシル・オネット聖女と名乗ることになった。


 参列したデザラ夫妻をはじめとしたフルプレヌ町の人たちは、幸せなイシルの姿に号泣した。

 こっそりと参列したプレザンヌ大神官夫妻とラフィネ大聖女夫妻、参列する権利をもぎ取った大神殿の神官たちは、イシルとオネット神官の仲の良すぎる様子に、目を潤ませながら頬を緩めた。


 お祝いとして配られたデザラ菓子店の焼き菓子は、大神殿の神官の間でも話題になった。



 * * *



 数年経ち、コトー村のイシルの家にはイシルとアリオ夫婦と小さな子どもたちが住んでいた。

 一緒に住むラッティ神官は、子どもたちからジュリアと呼ばれ懐かれていた。



 子どもたちの顔を見るために、大神殿から大聖女と夫君がちょくちょく訪ねてきた。

「ここにも転移陣を置いて正解だったわ。来たいと思ったらすぐ来られるもの。

 うちの子たちの小さい頃もかわいかったけれど、この子たちも天使ね」

大聖女はそう言いながら、イシルの子たちを抱きしめて頬を寄せるのだった。



 子どもたちは、デザラ菓子店のお菓子が大好物だった。

 イシルは子どもたちの手を引いてフルプレヌ町に行ったときは、必ずデザラ菓子店に寄った。シュクルもファリーヌも、いつも大歓迎をしてくれた。



 デザラ菓子店のクッキーにたまに聖女作のものが混じるのは、常連の間だけの秘密になっていた。イシルが、お客様への感謝の気持ちと趣味とを兼ねて、引き続きやらせてくれとシュクルに頼んだのだ。

 常連客たちは、きっと今日はあるはずだ、これだ、いやこっちだと、イシル製のクッキの当てっこをも楽しんでいた。

 実は、効果は聖女作よりは落ちるが、シュクルの焼いた焼き菓子もまた、イシルのクッキーのような働きがあった。イシルが菓子店の厨房を使うので、厨房自体にイシルの加護が染み込んでいるからだった。



 ソールやリュイも、遊んで泥だらけになった子どもたちが会いに行くと、大喜びをしてくれた。

 子どもたちは、キラキラを追いかけてはしゃぎまわり、たまに小川に落ちた。それを回収するイシルもまた、口を大きく開けて笑っていた。



 子どもたちが成人する頃、イシルは家を離れて大神殿に住まいを移し、大聖女となる。夫であるオネット神官も、イシルとともに大神殿に移った。

 やがて次の次期大聖女が成長し、その人に大聖女の位を譲り、イシルはまたコトー村に戻ってくるだろう。


 そのときにもきっと、ソールやリュイは今の場所で「お帰り」と言ってくれるだろう。



「この世はキラキラと輝いているのよ。

 この輝く世界を忘れなければ、人は誰でも輝いていられるの」

イシルは子どもたちに、いつもそう言っていた。

 その言葉通り、子どもたちの世界もまた、ずっとキラキラと輝いていた。




 ~ 本編 終わり ~


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