第4話 神殿からの使者

 そんなある日、レティオールという大きな街の神殿から神官が二人やって来た。


 自分の家に突き当たる小道を跳ねるように進む馬車を見て、イシルと父親はあわてて家に戻った。

 畑の土で汚れた顔と手を清めたとき、家の扉が叩かれ、家で家事をしていた母親がそれに応えた。


 神官はナバロガンとオネットと名乗った。大きな腹を揺らして立派な衣装を着ている年配の神官がナバロガン神官で、その後ろに控えるように立つ、背が高くて若いのがオネット神官だった。

 オネット神官はそのあたりでは見かけない垢抜けた顔をしていた。黙ってそこにいるだけで女性にもてそうだ。



 応接間に両親と神官たちが座って、イシルがお茶が振る舞い応接間を出てから、オネット神官が話を切り出した。


「こちらのプレリア家の次女のルルー嬢が、他の人が見えないものを見ることができるという話を聞きました。

 それで、人の死期や危険な人物がわかるとか」

 イシルの父セーヴは、額の汗を拭い拭い肯定し、ルルーがまだ学校から帰っていないことを詫びた。


「先程の方は、ルルー嬢ではないのですか」

オネットと言った若い神官がセーヴに聞いた。

「あれは、姉のイシルです。なんの特技もない子でして」

そんなセーヴの言葉に、オネット神官は心持ち目を見開き何か言いたそうな表情をして口を開きかけたが、それはすぐに閉じられた。

 横では、ふんぞりかえったナバロガン神官が、なぜいないのだと言いたげにむすっとしていた。


 ルルー本人を確認する必要があるため、翌日学校があるフルプレヌ町の小神殿に、両親がルルーを連れて出向くことになった。


 神官が旅をするときは、その地域の神殿か小神殿に泊まる。そのため、神官が一人しかいない小神殿でも、数人が宿泊したり客を呼ぶための設備は整っていた。

 この二人も、フルプレヌ小神殿に泊まっていた。



 応接間を出て、外に控えていたイシルに向かって、

「あなたも来てくださるのですよね」

と、オネット神官は言った。

 セーヴは、その言葉を聞いて口を挟んだ。

「これはダメ姉でして。

 明日も畑仕事は休めませんから、この子にさせます」


 玄関に向かっていたナバロガン神官は、

「そんなダメ姉と親が言う娘に構う暇はない。

 ふん、無駄足だったな。戻るぞ」

そう言って、どかどかと馬車に戻っていった。


 オネット神官は、眉をひそめた。

「そうですか。それではこんどフルプレヌに行ったときに、フルプレヌ小神殿に顔を出してぜひ神官に会ってください。

 オネットに言われたと、そう言ってくださればわかるようにしておきます」

彼は、イシルにだけ聞こえるようにそう言った。


 オネット神官は外に出て、家の周りに咲いている花や広がっている畑を見回した。

「気持ち良い場所ですね」

 そうささやいてから、ナバロガン神官に急かされて馬車に乗り、去った。


「まさかルルーに神殿からお呼びがかかるとは。レティオールと言ったら大きな街だぞ。

 おい、明日来ていく服を用意しろ。恥ずかしくない格好をしていかないと」

「はいはい。ルルーもめいっぱい綺麗にしていかないと。今でも綺麗な子だけれども。

 ルルーは我が家の誉だわ」


 イシルの両親は、盛り上がって畑のことはすっかり忘れているようだった。イシルは黙って畑に出て、途中で放り出した作業を続けた。



 イシルの目には、オネット神官がキラキラしているように見えた。身体の内にある光が溢れ出しているような感じだ。

 それは見えない友人のソールやリュイのキラキラと同じだった。


 キラキラしている人をイシルはたまに見た。イシルのお友だちもそうだ。学校の先生の何人かや町の優しくしてくれる人の中にもそういう人がいる。

 オネット神官のキラキラは量が全然違った。見えない友人たちと同じようだ。


 一方、年配のナバロガン神官には全然キラキラがなかった。逆にイシルには嫌な感じがした。

『ナバロガン神官とは一緒にいたいと思わないけれど、オネット神官がお側にいたら、見守られている感じで安心するでしょうね』

 イシルは畑に水を撒きながら、そう考えていた。



 その日も遅く帰ってきたルルーは、夜が更けても両親と甲高い声で話し続けていた。

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