第75話 アカどものコラボ③(with 政木)

 一つ目のシチュエーションは審議の結果、水都の勝ちとなった。


「ちくしょう……納得いかねえぜ……」

「あなたのも大概でしたけどね、月日」

「これはもう余裕だね」

「水都さんもそんなに威張れるほど余裕勝ちじゃ無かったですよ」


 醜い女の争いも後半戦になる。『もうどっちも負けでいいよ』『もっといい女探しをしないか?(名案)』『俺たちの政木が……』とリスナーも踏ん張りどころだ。


「それでは次のお題を発表しましょうか」


 そして次のお題が発表される。


『待ち合わせ場所に待っていた彼氏に、遅れてきた彼女がやってきたところ』


 お題に対して林檎から補足説明をする。


「あなたと政木さんは付き合って1ヶ月のカップルです。そして政木さんは待ち合わせ場所でデートの待ち合わせをしていました。そこに女性陣が遅れてやってくる、という設定です」

「うっ……なんか嫌な思い出が蘇るな……」


 説明を聞いて夕暮が顔をしかめた。

 彼女は昔、遅れたことを理由に待ち合わせ場所でフラれたことがある。


「まあ、今回は相手が政木さんなので、た、たぶんボロクソに言われることはないですよ……たぶん」

「おいなんでそこハッキリ断言しないんだオラ」

「…………じゃあ最初は月日からやってもらいましょうかねー」

「質問に答えんかワレェ!」


 言葉を濁した林檎に詰め寄る夕暮。


 それを遠くから見ていた水都が他人事のように言う。


「まーさっきのアレを見てたら何を言われても不思議じゃないよね。あの温厚な有馬を持ってしても、暴言の一つや二つくらい出るかも」

「言わないもん! 政木くんはそんなこと言わないもん! もうさっさと始めるぞ!」


 これ以上の口論は夕暮には不利だと考えたのか、すぐにスタートすることを決めた。


「じゃあ参りましょうか、それではよろしくお願いします」


 林檎の合図で、再びファンシーな音楽が流れ始めた。





『待ち合わせ場所に着いた月日。彼氏に気がつき声を掛ける』


「お、おーい、ま、政木くーん」


 やはりこちらも先ほどの政木のようにぎこちない演技から始まった。


「あ、夕暮さん。こんにちは、大丈夫でしたか?」

「え? あ、うん、ちょっと準備に時間がかかっちゃって……うん、はい……ごめんなさい」

「大丈夫ですよ。そこまで待ったわけじゃないですから」


 代わりに政木から積極的に話を振っていく。

 政木の方は一つ目のお題をこなして多少は慣れていたため余裕があった。


 そして頃合いを見て林檎からお題のようなものがアナウンスされる。


『彼氏は彼女の服を見て褒めてください』


「あーえっと、その……とても素敵ですね。すごく格好が似合ってると、そう思います……!」

「あ、あざす……!」


「なんで体育会系の返事してるのあの女」


 賑やかしの水都がツッコミを入れると夕暮が顔を赤くして黙り込む。


「はは……それじゃあ行きましょうか」

「う、うん! あっ、ちょっと待ってっ」

「どうしました?」


 夕暮が待ったをかける。


「あの……その……遅れておいてなんだけど、きょ、今日のデートは私に、その、つ、付いてきてほしいの……!」

「夕暮さんに、ですか?」


 政木が意外そうな反応を示す。

 先ほどまで演技がぎこちなかった夕暮からそんな話題が出ると思わなかったからだ。


「本当に遅れたのに図々しいですねこの女」

「みかんは黙ってて」


 林檎は呆れた顔をしていた。

 しかし政木の方は、驚きながらも首を縦に振った。


「もちろん、いいですよ。むしろ夕暮さんがどういったお店に連れていってくださるのか、僕も気になります!」

「ほ、ほんと⁉︎ じゃ、じゃあ、そのぉ、いこっ……か」

「はい!」


 なんだかいい感じの雰囲気。

 これには水都も「ちっ」と舌打ちをする。


『なんか思ったより頑張ってんじゃん非リア暮さん』『ここまではオーケー』とコメントも肯定的なものが多い。


 そして場面転換。二人がやってきた場所は……。


「ほら、着いたよ。ここが行きたかった映画館!」

「映画館、ですか」


 夕暮の紹介によると、どうやら着いたのは映画館らしい。

 映画館といえば、カップルが行く鉄板のデートスポットだ。


「ベタですねえ」

「てっきり変なところに連れていくかと思ったのに、意外だね夕暮先輩」


 林檎と水都も、夕暮が普通の選択をとることに意外さを感じていた。


「いや、実は昔っから、ずっと彼氏と映画館デートするのが夢で……」


 二人と政木に対してまるで言い訳をするかのように、夕暮が小さい声で話す。


「映画館デートが夢だったんですか?」

「うん……昔好きだった漫画でそんなシーンがあって、ずっと憧れてたんだけど……あいにくと機会がなかったものです……あはは」


 自嘲気味に笑う夕暮。

 それは自分の恋愛経験の少なさを卑下ひげしたものだった。


「たしかに、映画館デートくらいみんな一度はやったことありますよね」


 林檎の発言にリスナーも『まあ中学生高校生とかには鉄板ネタだしな』『あるある』『大人になってもたまにやるけどな』と理解を示す。


 それくらい映画館デートというのは、経験がある人の方が多い。


「だから、政木くんを使ってそれを実現したかったってわけ……まあ実現はしてないんだけどさ」


 これは演技。実際に待ち合わせたわけでも映画館に来たわけでもない。


「ごめんね、巻き込んじゃって。私の負けでいいから、ちょっとでもやった気分になれて、しかも相手は政木くんだし。うん、私は幸せだぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」


 最後はいつもの調子で叫ぶ夕暮。

 しかし、それはいつもの夕暮ではなかった。


「いえ、僕も楽しかったですよ。夕暮さんの手助けができたなら幸いです」

「あざす、政木くん。あざすあざす」


 そんな夕暮に政木は笑顔で返す。

 政木にはそれくらいしかできなかった。


 ただ、そこに爆弾発言をぶち込んだ女がいた。


「じゃあ実際にやってみます? 政木さんとの映画館デート」

「————はぁ?」


『Vtuberの着火剤』の異名を持つ彼女は、今日も今日とで平常運転だった。




 ————————————




 世紀末レベルに更新が遅くて本当に申し訳ないです…。


 あとここからもいつもどおりガツガツ話が進んでいきますが、終わるフラグではないです。完結するにはあと50万文字は書かなければなりません。今の更新ペースから考えると10年と5ヶ月かかります。


 ……さすがにもう少し更新ペースを上げます(上げろアホ)

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