第73話 アカどものコラボ①(with 政木)

 水都と夕暮のコラボが決まってからは、早かった。


「はいみなさんこんばんは〜『わんだふるらんど』の世界平和担当、林檎みかんです」

「すっごい大層なものを担当してるなお前」


 暦の上では秋に入ってもまだまだ暑さが残る頃、早速と言わんばかりにコラボが組まれた。


「うい〜『スタバ』のAPE○担当、夕暮月日でーす」

「はいよろしくお願いします〜」


 もちろんいつものメンバーはいる。林檎、夕暮だ。


 コメントもその安心からか『お前この前AP○X配信で下手すぎてコメント欄荒れてただろ』『よくそんな普通に嘘つけるよな』『コラボ配信なんだからもう少しちゃんとしてくれ……』などといつもの反応を示す。


 そしてもはや定番になってきたメンバーも一人。


「こ、こんばんは……。『トリミングV』所属の政木有馬です。えっと、事務所では、なんだろう、真面目担当ですかね……と、とにかくよろしくお願いします!」

「よろしくお願いします。政木さんはたぶんあの事務所の月日担当だと思いますね」

「え、政木くんがワシの嫁になるって話?」

「いえ、誰もそんな話はしてないです」

「わ、わし……」


 政木も三人でのコラボになるともちろんまだまだ新入り感はあるが、今回のように他にゲストがいると迎え入れる側になる。

 政木と夕暮の絡みもいつも通りだ。『夫じゃなくて嫁かい』『お前に政木はやらん』『シンプルに引っ込め』などとリスナーも流れるようにコメントをする。


 そして今回のゲストにはもちろん。


「それではゲストの方をお呼びしましょうか。どうぞ」

「『トリミングV』の有馬親衛隊担当、水都灯です。よろしくお願いします」

「つまんな。ネットのアカウント名かよ」

「ちょ、ちょっと夕暮さん……」


 水都は丁寧に自己紹介をする。それに対していきなり突っかかったのは夕暮の方だった。


 もちろん、険悪な雰囲気になる。


「この配信臭いですね〜。あ、夕暮先輩がいるからか」

「あーぶっ○そう」

「負けてる。月日負けてるから。先にプッチンしてるって」

「水都さんまで……」


 いがみあう夕暮・水都。林檎の立場としては、なんとか企画まで持っていきたい。

 そして政木は本気で配信のことを心配していた。


「今日はよろしくお願いします。林檎先輩も、有馬も」

「あー出た出た呼び方を変えて親密度をアピールする奴。漫画とかでもちょっと仲良くなってきたら下の名前にしたり『さん』とか『くん』取ったりして、ほんと気持ち悪ぃ」

「それは本気で多方面に迷惑がいくのでやめてくださいね月日?」


 夕暮をけしかけるような発言をどんどんしていく水都。それに乗る夕暮。


 もともと喧嘩をすることが多い夕暮だったが、最初から露骨に行われている。リスナーも『これ大丈夫? 配信になる?』『やけに解像度の高いツッコミで草』『夕暮さんっていまだに呼ばれてることへの負け惜しみにしか聞こえねえ……』などと不安に思う声が多い。


 だがしかし、そんな喧嘩を一瞬で終わらせる人間がここには一人いた。


「いい加減にしてください二人とも。聞いていて気分のいいものじゃないですよ」


 政木だ。


「水都さんは言い過ぎ。夕暮さんを怒らせるようなこと言ってどうするの。夕暮さんも喧嘩を買わないでください。あとあんまり強い言葉は言っちゃダメですよ」

「は、はい……」「ごめん有馬……」


 政木の言葉に対しては従順な二人。

 惚れた弱みというやつなのだろうか。それともそもそも政木が怒らないからからだろうか。


 落ち着いたところを見て、林檎が進行を始めた。


「というわけでですね。本来は政木さんを呼ぶ予定はなかったんですが、このようなことになると思って政木さんにも同席していただいてます」


 政木が呼ばれた理由は二人の仲裁役だった。


 林檎ではどうしても夕暮寄りに見えてしまうこともあるだろうし、政木の言葉なら二人とも従うだろうと思っての配役である。

 結果的には大成功だったが、政木の今日の仕事量はいつもの倍以上になるだろう。


「さて、では企画の説明の方に入りますのでね、一度月日さんと水都さんにはミュートになっていただきます」

「容赦なくゲストでもミュートにするんですね……」


 そして企画の進行に邪魔になる場合は林檎の権限でミュートになる。

 どれだけ犬猿の仲にある二人でも、北極と南極に分かれてしまえば問題はない。


「今回はですね、色々と考えたんですが……やはりお二方とも政木さんのことが好きだということなので、勝負はこれにします」


 林檎は静かになった配信上で、高らかに宣言した。


「勝負は、『どちらの方がより政木さんの好みを理解しているのか』にしました」

「僕の……好み?」


 こうして負けられない女の戦いは始まった。

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