第67話 #まさぐれの地獄コラボ(初配信編)③
「さて、これでなんとか終わりましたね……」
夕暮の初配信は3人のメンタルポイントを削り切るには十分すぎるものだった。
いちいち鼻につく受け答え、清楚を装うばかり歯切れの悪い回答、そして現在の彼女とのギャップに対する疲労感。
どれもこれも馬鹿にならないダメージを、3人に絶えず与え続けた夕暮(清楚のすがた)だった。
「はぁ。では、今回はこれくらいで終わりましょう……」
「おいまて、みかん」
だからこそここでの配信終了は誰もが望むものだったはず……なのだが。
ここで待ったをかけるのが夕暮だった。
「自分だけ逃げようなんて、そんなアホみたいな考えは持ってないよな?」
「あ、あの、まさかとは思いますが……」
「お前の初配信も見るに決まってんだろ‼︎ こっちだけ政木くんの前で辱めを受けて、リスナーに『誰こいつ?』とかボロクソ言われて黙ってるわけねえだろ!」
「それは貴女のせいでしょ……」
林檎からしてみると、別に初配信を晒されることはそこまで問題ではない。初配信から安心安全の林檎クオリティで配信を届けているし、夕暮れのように初期の頃は無理なキャラ付けをしていたわけでもない。
ただ夕暮の初配信で疲れてしまったことと、多少は今と異なる部分があるところを見られるのに抵抗があるだけである。
「でももう時間も時間ですし……そうだ、政木さんに決めてもらいましょう。どうです、政木さん? もう終わりたくないですか?」
ここで林檎が目をつけたのは政木。
彼は自分と同じように夕暮によって状態異常にさせられた仲間である。政木も林檎と同じように「終わりたい」と思っているはずだと予測。
だがしかし、政木も配信者を始めて既に2年になろうとしている。
根付いた配信者魂は、ここで中途半端に配信を終わらせることをよしとはしなかった。
「見ましょう。ここまで来たら……もう同じようなものです……っ!」
「政木さん⁉」
予想外の裏切りに林檎は困惑。一方の夕暮は、まるでゾンビのように手を伸ばす。
「うおぉおおおおお、見せてもらうぞ、貴様の黒歴史を‼」
そうして無理やりな形で林檎の初配信を見る時間が生まれたのだった。
『好きな飲み物ですか? そうですね、あんまり炭酸は飲まないので――水、ですかね』
「「……………………」」
林檎の初配信は、いい意味で言えば今とさほど変わりがなかった。
初配信特有の緊張であったり話し慣れていないところはあれど、夕暮のように変なキャラ付けをしていたりということはない。
だが話している内容は虚偽のものが少し含まれていた。
『お酒だろ』『お酒だな』『水(アルコール分40パーセント』『堂々と嘘ついてて草』などとリスナーからも総ツッコミを受けている。
「林檎くん? 何か申し開きはあるかい?」
「このときはまだ22とかだったので、お酒の美味しさとか知らなかったんです」
「あ、そうなんですね」
「政木くん騙されるなこいつは嘘をついている!」
「ちっ、バレましたか」
「嘘だったんですか⁉」
全く意味のない会話が繰り広げられる。それほどに3人は限界に達していた。
『好きな食べ物は、そうですね――味の濃いものでしょうか』
「お酒のおつまみになるから、だろ‼」
「なんでこういうところは正直に言ったんですかね私」
『アニメですか? あんまりそういうのは詳しくなくて……』
「あれ、林檎さんってBL好きじゃなかったでしたっけ? アニメのようなサブカルチャーにも詳しいと思ってました!」
「……ここは嘘をついたんですね私」
「ツッコミどころが多すぎんか? あと自分の初配信だよな? 記憶は酒と一緒に飛ばしたんか?」
日ごろはツッコミ役の林檎がボケ属性を全開にしているので、夕暮が過労死寸前である。
『林檎もやっぱりバケモンなんだな、って』『こいつ夕暮のかげに隠れてやべえな』『この時は、ちゃんとした社会人をイメージしてたんだけどな……』『感情ないやんこいつ』とリスナーも林檎の異常性について再確認をした。
『好きな男性のタイプ? そういうのあんまりないですね……』
「3次元の男なんかに興味ないですからね」
「そう訳すのが正解とか、無理ゲーにもほどがある」
「嘘は言ってないですけど、思っていたのとは違うような……?」
結局この配信から分かったこととしては、林檎みかんというVtuberには謎が多いということと、林檎みかんという人間の実態はいまだに謎に包まれているということだった。
「まああれですね、私の初配信もあんまり面白みがなかったですかね」
「ツッコミどころでいけばお前が一番多かったけどな~」
「貴女が言う?」「夕暮さんが言いますか……」
「?」
結局、3人ともがそれぞれ個性を見せた初配信となった。
なお、夕暮の初配信には多数の低評価がついたらしい。
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