第55話 ホワイトデーコラボ②

「それじゃあまず、チョコの方を見ていきましょう。今回は○○というお店のチョコから見ていこうと思ってます」

「お、有名どころじゃん。てか俺がCMやってるのと関係あるそれ?」

「ある」

「だよな」


 何気なくすごい会話をしている2人に視聴者は唖然とする。

『俺がCMやってるって、俺も言ってみたい』『言ってることがやばいんよ』『友人のCMしてるところから選ぶって発想がないんだよな』などとコメントしている。


「ちなみに女の子はどういうチョコが好きなの?」

「そんなん人それぞれに決まってるだろ」

「すーちゃんの彼女は?」

「甘いもの嫌い」

「あ、そうなのね……」


 初めから企画倒れ感がある会話ではあるが、政木は気を取り直して会話を進める。


「それでも高校時代はいっぱいチョコもらってたでしょ?」

「まあ……多少は、な」

「というわけですーちゃん。どれがいいと思う?」


 政木がチョコ店のホームページであれこれ探してみる。


「値段とかってどのくらいがいいの?」

「まあできるならそんなに高くないものの方がいいだろうな。値段聞いて恐縮させたり、でも安っぽいって思われないあたりがいいんじゃないか?」

「難しい……」


 浅川の言うことはもっともではあるのだが、それを実行するのはかなり難しい。


 金銭感覚というのは女性によって違うだろうし、人によっては高いものだと変な気にさせてしまうこともある。


「じゃあ最低限どれくらいのがいいの。リスナーさんも参考にしたいと思ってるだろうし、それくらい教えてよ」

「うーん、そうだな……いろんな人に配ってる人だったら1000円、個人で渡されたのなら2000円くらいかな」

「ほう、なるほどなるほど」


 真面目な顔でメモをする政木。そんな彼を見て、浅川は悪戯っぽく笑った。


「ちなみに政木がもらった相手って、政木にとってどんな人なんだ? 好きなのか?」

「は……はぁ――⁉」


 動揺する政木。それを見て浅川は笑う。


「あれ、図星なのか? 図星だろ図星」

「違うでしょ……。いい? すーちゃん。ネットでそうやってすぐに色恋と結びつけるとね、炎上っていうのするんだよ。分かる?」


 珍しく怒りっぽい口調の政木。

『彼女持ちのノーガード攻撃こわいよ』『おいおい、冗談キツイぜ。政木と夕暮なんてあるわけないだろ』『政木の驚き方、結構マジっぽくてよかった』『夕暮ワンちゃん?』などとリスナーも盛り上がる。


「あーそういや俺も彼女がいるって言った時はちょっとそういうことがあったかもな」

「学習しなよ……」

「でも相手のことを考えるのは大事だぞ? 値段とか形とか、そういうのはもちろん大事だけどさ。それよりも相手のことを考えて選ばなきゃダメだろ」

「…………たしかに」


 ふざけていたはずの浅川が、政木に説教をする。

 それを不服に政木は感じたが、言っていることはたしかに自分が気づいていない大事なことだった。


「ほら、相手のことを想像して」

「うん」

「どんな人だ?」

「優しくて、素を見せてくれる人……」


 浅川の優しい語りかけに、政木は目を瞑って今までのことを思い出す。

 静かに、ゆっくりと。


「今までその人はどんなことをしていた?」

「連絡先を人質にされたり、罰ゲームでボイスドラマを録らされたり、運が悪すぎて深夜までゲームしたり……」

「……………………」


 だがしかし、政木の言っている内容があまりにもバイオレンスで浅川は絶句した。

『最低の女じゃねえかそいつ』『罪状かな?』『夕暮見てんだろ。反省しろ』とリスナーも政木の正直さに爆笑していた。


「ま、まあとにかくお世話になったんだよな、ほら、大体どういうチョコを買えばいいか、分かっただろ?」

「ごめん、分からなかった」

「だよな、そうだよな」


 あまりにも思い出したことが最悪すぎて、一気に思考が邪魔をされた政木。

 邪悪にげははと笑う夕暮を想起してしまっては、真面目に考えることもできない。


「あ、でも」

「おっなんだ?」

「いろんな種類が入ったやつが良さそう」

「その心は」

「夕暮さん、1つのものよりもいっぱいあった方が喜びそうだから」

「お前はその人のことをどう思ってるんだ?」


 思わずツッコミを入れてしまった浅川。

『単細胞だと思われてて草』『子ども扱いされてるやん』『政木、しれっと酷いことを言うの巻』とリスナーも夕暮を不憫に思うコメントを残す。


「あっ、違う違う! 夕暮さん、たぶん色んなものを試したいタイプだと思うからさ! ほら、好奇心強いし」

「まあ、そういうことにしとくか……」


 政木の必死のフォロー。だがそれもむなしく、夕暮に対する浅川の警戒心が上がっただけだった。


 そして夕暮に渡すチョコを決めた2人の会話は、ここから恋バナに移っていく……。


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