第54話 ホワイトデーコラボ①
3月14日はホワイトデーと呼ばれ、バレンタインデーでチョコをもらった選ばれし者がチョコを返すという日である。
そんな日に、政木のチャンネルでは放送開始前から10万人を越える人が集まるという、大事件が起きていた。
「えっ、じゅ、10万人⁉ ま、まずい……緊張が」
配信開始とともに、政木がそんな声を出してしまうのも仕方がないことではある。
いつもなら多くても2,3万人。それをはるかに越える数に政木も声が少し震えていた。
「すごいな、すーちゃんの人気は……」
それでもなお増える視聴者数を見て、改めて親友の凄さを実感する政木。
配信タイトルは『浅川昴さんと一緒に、ホワイトデーの恋話!』というタイトルだ。
そう、つまり政木の親友であり、俳優として今まさに注目を浴び始めている浅川昴と一緒に配信をするという内容だった。
「み、皆さんこんばんは! えっと、Vtuberをやっています、政木有馬と申します! すーちゃ……浅川さんのファンも多いとは思いますが、お手柔らかにお願いしますっ」
緊張で忘れていた挨拶をして、さっそくゲストを呼ぶ。
「はい。細かい挨拶はやめておきましょう。早速ゲストをお呼びします。私の高校時代の友達で、かつ今売れに売れている俳優の浅川昴さんです!」
「えーあ、ここに喋ればいいのか? はい、えーとこんばんはー。浅川昴です」
「はいぱちぱち!」
配信不慣れな浅川はいま、政木の家にいる。
2人で肩を並べてマイクに向かって話しているという形だ。
芸能界からの来客にリスナーも沸く。
『うぇっ、まじもんだ⁉』『わーすごーい、あの人テレビで見たことある人の声だよー』『なにこのカオスな状況……』と政木のファンが2割、『きゃー昴さま―っ‼』『Vtuberと友人だって本当だったのか浅川くん』『顔出しはなしかー残念。でも声が聞けるだけでOKです』という浅川のファンが8割と言ったところだろうか。
自分の畑であるはずの政木の配信に政木以上のリスナーを連れてきた浅川がすごいのか、はたまた芸能人に対して一矢報いている政木がすごいと見るか。
どちらにしても、いいバランスでコメントが流れていた。
「うええ、マジ緊張する」
「すーちゃんでも緊張するの?」
「慣れてないからな。なにかやらかさないといいけど……」
「大丈夫大丈夫。フォローするから!」
2人の親しい間柄を見て、リスナーは2人が元からの仲良しであることを改めて実感する。
「それより本題に入るね。えーと、まずコラボに至った経緯なんですけど、僕からお願いしました」
「お願いされました。事務所がすごい悩んでました」
「よくVtuberとのコラボを許そうと思ったよね、すーちゃんの事務所も……。まあそれでその理由なんですけど、実はチョコ選びを手伝ってほしくて」
「チョコ選びとな」
「そう。実はすごくお世話になってるVtuberさんにバレンタインで頂いたので、そのお返しをしなくちゃなんだよ」
この時点で政木リスナーは『なんとか暮さんね』『あの化け物ね』『適当に10円くらいのチョコでええやろ』と察する声が多くあった。
ちなみに浅川リスナーは『昴くん、お返しには慣れてそう』『今年はちゃんと彼女からもらえたのかな』と浅川についてのコメントが多かった。ちなみに浅川が彼女の尻に敷かれていることは、ファンの間では共通認識である。
「それでまぁ……僕はあんまりお返しとかしたことないから、すーちゃんにお願いしようかと思って」
「はあ……俺としても全く自信がないんだがな……」
「というわけで、すーちゃんとチョコを選びながら雑談をしていく予定です。すーちゃんの恋愛事情とかも触れられたらなぁと思ったり」
つまりチョコ選びをしながら、お互いの恋話をするという簡潔な内容の配信だ。
「すーちゃんファンのためにもね、ちゃんと過去を暴いていくから!」
「あ、言っとくけど俺は容赦しないからな。うちのマネージャーがお前のファンだからさ。いろいろ聞いてこいって言われたんだ。よろしく」
「…………ひどいよすーちゃん」
「酷くなんかないだろ‼⁉」
和気あいあいとした、勝手知ったる2人の会話。
一人のリスナーが書いた『なにこの幸せな空間』というコメントに、政木リスナーも浅川リスナーも大半が頷いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます