第49話 #まさぐれの地獄コラボ(ギャルゲー編)③

 ゲームを始めてから1時間ほど。

 仲良くなった女子がある程度絞られてきて、最終的に2人になった。


 ギャルと委員長である。


「やっぱり政木くんがギャルっ子を好きになるのは意外だったな~。花水ちゃんはどんなところがいいの?」

「うーんそうですね。やっぱり、デートを重ねていく中で主人公に対する優しさみたいなものが見えてきて……そこから芋づる式に、実はいい性格だってわかるところですかね……?」

「たしかに意外と性格いいんだよな~」

「分かります。私も今回の政木さんのプレイしているところを見て、結構好きになりました」


 政木の答えに同意を見せる2人。

『いやあ、こんなにかわいい子がいたとは……』『わかる、花水ちゃんめっちゃいい子』『政木も女の子の内面までよう見とる』と賛成するリスナーの声も大きかった。


「では政木さん、委員長ちゃんの方はどうですか?」

「沢屋さんは……そうですね。ありがちかもしれないんですが、恋愛に奥手なところがドキドキします。僕も恋愛経験が豊富な方ではないので、同じペースで歩いてくれる感じがします」

「たしかにそれも分かりますね。ぶっちゃけ私はこっちの委員長ちゃんの方が好みですが……」

「ふーん」


 こちらも政木の反応に、林檎が共感を示す。


 しかしその一方で、夕暮はあまり政木の意見を支持しなかった。

 それを意外に思ったのは林檎。


「珍しいですね。月日が興味なさそうですけど」

「だってさぁ恋愛経験のない女なんて、めんどくさいだけだよ」

「それ、月日が言います?」


 林檎が当然のようにツッコんだが、夕暮は思ったよりも真剣な声色で返事を返す。


「いやほんとほんと。こういう男慣れしてない女って一見清楚でいいように見えるけど、ほんと大変だから。どんくさくて全然言いたいこと言ってこないし、恋愛経験がないことをいいことに男に責任を押し付けてきたり、恋愛的な常識を全く知らないからイライラさせられると思うよ?」

「そ、そういうものなんです……か?」

「うん。はっきり言って二次元の中だといいけど、三次元――つまり現実ではこういう女は絶対に彼女にしないほうがいいから」


 夕暮らしからぬ真面目な発言。そこに、彼女のトラウマのような、それに近い何かを感じ取ることができた。

 そんな夕暮にリスナーも『夕暮さん、真面目な話をしてる』『珍しいわね』『あんた誰よ』『まあでもちょっと言いたいことは分かるな』とからかうことはしなかった。


「…………まっ、こういう女を『俺色に染めるぜ!』って調教するのは、最高にコーフンするけどな。がはははははははっ」

「月日……」

「調教…………?」


 冷めた目で夕暮を見る林檎。さすがにあの話の後だったのでミュートにされることはなかったが、一回くらいは夕暮が所属する『Studio Virtual』にクレームを入れるべきかと考えるほどだった。


「それじゃあ気を取り直して。そろそろ政木さんにはどちらの女がいいか決めてもらいましょう。というか、もう決めてますか?」

「じゃ、じゃあ最初に仲良くなった花水さんに告白してみようと思います」

「はい。じゃあまたその女の子をデートに誘ってください」


 林檎の指示に従って、政木は花水をデートに誘う。デート先は花火大会だ。


「いいねえ。高校生の恋愛って感じ」

「政木さんは彼女がいたころ、こういうお祭りには行きましたか?」

「みかん、えげつねえこと聞くな……」

「行ったことはありますね。いやでも、あの時は結構仲良かったので、楽しい思い出ですね」

「そういう楽しい思い出がある方が辛いと思うんだが? 政木くん、お主もしかして鋼の心を持っているのか?」


 通常はいい思い出がある方が『あんなこともあったのにな』という寂しい気持ちが強くなるはずだが、政木にとっては思い出は思い出という感覚らしい。


「はいじゃあ告白をしましょう。このゲームは変わっていてですね、告白文を自分で考えることができるんです」

「ええ⁉」

「ほら、相手がわたしだと思って、告白の内容を考えてみようっ!」

「えええっ⁉」

「月日、余計なこと言わない」


 このゲームはプレイヤーが自分で好きなように告白をすることができる。


 告白が成功するかどうかは好感度で決まるため、システム的にはどのような告白をしたとしても結果は変わらないが……ある程度は主人公になり切ることで告白に成功したときの満足感を増やすことができる。


「ほれ、政木くん。頑張って告白をするんだ!」

「うーん、うーん……」


 悩んでなかなか手が動かない政木。


 それを見越して、林檎が助け舟を出す。


「一応テンプレートを持ってきたので、参考にして下さい。なお都合上、相手の名前は月日になっています」

「はいナイスーみかん」

「『政木有馬は、夕暮月日のことを、世界で一番愛しています』『俺の人生の半分やるから、お前の人生の半分くれ』『だったら俺でいいじゃん』などなど……」

「聞いたことがあるような……」

「やべえ、みかんのボイスっていうのが残念で仕方ねえ……」

「やかましいですね」

「一回、一回でいいから政木くん言ってみてっ‼ お願い‼ お願いします!」

「お前、次のコラボ配信ずっとミュートにするからな」


 こうしてギャルゲー編は終わりを告げた。


 政木の考えた告白のセリフは、『僕があなたを幸せにします』だった。

 リスナーからは『これって高校生の恋愛だよな?』『重い、重いんだが……』『政木に恋は難しい』などといろいろと言われていた。

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