第48話 #まさぐれの地獄コラボ(ギャルゲー編)②

 5分経って夕暮が帰ってきたころには、新たに2人のヒロインと出会っていた。


 片方は金髪のギャル。クラスのカースト上位に君臨しており、まさき(主人公)にもよく話しかけている。

 もう一人はクラスの委員長。黒髪で清楚漂う彼女は、恋愛からは一歩引いた立場でヒロインを演じている。


「さて政木さん。今のところどの子が好みですか?」

「うーん、決めきれないですかね……。始めに会った山内さんはすごく親切にしてくれますし、明るい髪色の花水さんは素の自分を見せてくれますし、委員長の沢屋さんは真面目そうなところに共感を覚えますし……」

「つまり優柔不断のハーレム主人公ですね」

「いやっ、もちろん一人には決めようと思ってますっ!」

「夕暮はいかがですかー? 夕暮、今なら空いてますよー? 夕暮、夕暮はいかがですかー?」

「月日は戻ってきてたのね」

「追放されても自然に会話に入られるんですね……」


 ちゃっかり自分を売り込もうとする夕暮に『お前は呼んでねえ』『甲子園の売り子か』『政木に対する林檎氏の評価もなかなかだな』とリスナーもコメント。


「ただ政木さん。ここでまずは攻略対象を決めて、その子に好かれるように努力しないとですよ」

「あ、そうなんですか」


 このゲームはターン制となっていて、1ターンの間にできることは主に2つ。自分磨きをするか女の子をデートに誘うかである。


「自分磨きだったら、落としたい女の子に合わせてパラメータを上げていかないといけません。たとえば委員長ちゃんと仲良くなりたいんだったら、学力を上げるみたいな感じですかね」

「みかんと仲良くなりたかったら酒を知る、みたいな感じだね。リアルっぽいでしょ」

「たしかに…………」

「あの、政木さん?」

「ああ、すみません。つい納得しちゃって」


 つまり、パラメータを上げることで女の子からの好感度が上がりやすくなるという仕組みだ。


「気を取り直して……こほん。ただ、パラメータだけ上げてても女の子と仲良くなれません。ある程度ステータスが伸びてきたら、女の子とデートをしていくんですね。最終的にはこれを繰り返して女の子との好感度を上げます」

「ちなみにこういう委員長ちゃんは、意外とラブホ〇ルに連れていくといい感じに……」

「月日、もう一回シベリア送りにされたいんですか?」

「ずみまぜん」


 つまりパラメータをそこそこ上げた段階でデートに誘うというのがこのゲームの主な攻略法である。ステータスが高い方が好感度を上げる効率が良く、スムーズに女の子を攻略できるからだ。


 ただ実際は、バレンタインやクリスマスなど決まったタイミングでイベントがあるので、それまでに何回かはデートをしておく必要があるというのが難易度を絶妙に調節している。


「はい、じゃあまず女の子を選びましょう。とりあえずどなたでもいいので」

「じゃあこの金髪の花水さんで」

「お、意外ですね。政木さんは委員長ちゃんみたいな子がタイプかと思いましたが」


 大方の予想を裏切って、政木は決断よくギャルを指名。

 これにはリスナーも『おっとぉ?』『意外だ、清楚じゃなくてもいいのか』『俺も最初この子を選んだなぁ』『政木くんこういうタイプが好きなのね(メモメモ)』と驚きの反応を見せている。


「理由は聞いても?」

「最初の子はあまりにも性格が良すぎるのでちょっと裏があるんじゃないかって思っちゃうんですよね。あと委員長さんみたいな真面目な人は、元カノと同じタイプなので……」

「あっなるほどー了解しました先へどうぞ―!」

「一瞬地雷を踏みかけたな、みかん」

「うるさい月日、お前ミュートにするぞ?」

「独裁者やんけ……」


 バトルしている夕暮と林檎を置いて、政木はゲームを進めていく。


 ギャルと仲良くなるためにカラオケで歌唱練習。これまたツッコミどころのあるような内容だが。


「そういえば政木くん、最近ボイトレに通いだしたんだって~?」

「あ、そうですそうです。歌枠とかあんまりやってなかったんですけど、リスナーさんから最近それについての指摘をメッセージでたくさんいただきまして……。もう逃げられないなと」

「でも忙しいんじゃない? 毎日配信もしてるしさぁ」

「ぶっちゃけかなり忙しいですが……人気があるうちが華なので、やれるだけ頑張ります」

「体壊さないようにね~」


 そんな雑談も交えながら、政木はギャルとの一回目のデート。


「行き先の選択肢が3つありますね。『遊園地』『海』『水族館』と」

「ギャルのくせに結構普通だなー」

「政木さんどれにします?」

「そうですね…………じゃあ遊園地にします!」

「ほうほう、政木くんは遊園地派なんだね」


 夕暮が何か頭にインプットするような仕草を見せたが、林檎と政木は気にしない。


 遊園地に来たまさき(主人公)とギャルは、アトラクションを周っていく中で徐々に距離が近づいていく。


 そして夜になったところで、建物の陰に隠れてイチャコラしているカップルに遭遇。


 ここで選択肢が現れる。


「『花水とキスをする? しない?』って出てきたんですけど、こ、これってどうすればいいんですか林檎さんっ」

「えーお任せしますよー。その目の前にあるピンク色の唇を奪いたいと思ったなら『する』に。まだ早いと思ったら『しない』にすればいいんじゃないですかね」

「『花水と』じゃなくて『夕暮と』に読み替えてもらってもいいよ政木くん」

「どんどん『しない』の選択肢に絞ってくるじゃないですか2人とも……。その流れで『する』にしたら炎上するんですが…………」

「じゃあ『キスをする』じゃなくて『せっく』」

「おい月日、そこまでだ。またあっちへ行ってこい」

「あっ、ちょっと、あっ!」

「はい、さらば」


 そして再び5分間、ミュートにされた夕暮だった。


 ちなみに政木は『しない』を選択し、リスナーから『ヘタレ』と言われていた。

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