第40話 #まさぐれ+みかんの地獄コラボ(裁判編)②

「……政木くん、かっこよかった?」

「「「…………」」」


 夕暮の一言で静まり返る場。さっきまでまくしたてるように追及していたのが嘘のようである。


「え、え?」


 そして当人はどさくさに紛れて質問をしたという感覚だったので、この反応は予想外で対応ができない。

 リスナーからは『面白すぎる』『結局林檎のことより政木の方が大事』『情緒のジェットコースター』『嘘みたいだろ……これでシラフなんだぜ』と爆笑した様子がコメントからわかる。


「あの……だな、夕暮君。君は林檎君を炎上させたかったのではないのか?」

「こうして言葉にされると、最低な望みですけどね」

「いやそうなんだけど……まあ、一応? いちおー聞いておかないと、っていう感じ?」

「一応と言いながらなかなか本命っぽい質問の仕方だったけどな」


 緑先の冷静なツッコミに、夕暮も「うっ、別にそんなことないですし?」と虚勢を張った。が、『いま『うっ』って言ったよな』『よくそれで誤魔化せると思ってるよな』『やはりアホ暮さんなのか……』とリスナーからも総ツッコミ。


「ええいうるさい! いいから答えろ被告人‼」

「まあそうですね……」


 林檎としてはさっさと答えたほうがいいという判断で、思い浮かべたことを挙げてみる。


「まず身長が高かったですね」

「高身長、と(メモメモ)」

「爽やかな感じでした」

「爽やか、と(メモメモ)」

「細かい気遣いも丁寧で、優しかったですね」

「優しい、と(メモメモ)」


 もはやこれは何の配信なのか……夕暮の私利私欲を満たすための裁判なのか? そもそも裁判なのか……? と多くのクエスチョンマークが頭に浮かぶ。


『俺たちは何を見せられてるんだ……』『政木が爽やか高身長なのは解釈一致』『メモしてる図がアホすぎる』とリスナーからも困惑の声が漏れ出る。


「あの、それ以上は……」

「マサキチ君、法廷では許可なく喋ってはいけないよ」

「一応まだ法廷なんですね……」


 政木が恥ずかしさのあまり止めようとしたが、これは緑先に止められる。こんなところで話を中断させるわけにはいかない。


「他に、他に特徴はなかったのかね」

「私個人の感想ですが、結構おしゃれだな~と思いました。簡素で狙いすぎていないというか。女性が好む服装ですね」

「おしゃれ、と(メモメモ)」

「もしかしたら彼女に選んでもらったのかもしれません」

「ボキィィィイイイイイイイ‼‼‼‼‼」


 林檎のささやかな仕返し。見事に夕暮が反応した。


「おい腐れ林檎。どうしたらそういう発想になるんだボケ」

「いやだって、ああいう服装を選ぶ人って大抵女性に選んでもらってますよ。男子からしたら女性がどんな服装が好みかなんて分からないじゃないですか。ファッション誌にもあまりああいう着こなしは載ってないですし。だから彼女がいて、その人に選んでもらったんじゃないかなあと思って」

「そんなことがあるわけ☆〇△おgはんごれいあhがえrぽgkじゃえおrgn」

「呪詛になってる、呪詛になってるぞ夕暮君」


 言葉と心が追いついていないのか、意味をなさない音を発する夕暮。


『夕暮さんには耐えられない事実……』『特級呪物になってて草』『林檎、夕暮を殺しにかかってるやん』『政木、お前ついに浮気の呪いから解放されたのか……?』とリスナーも思い思いのつぶやきをする。


「政木くぅん‼‼ がのじょがいるっでいうのばぼんどうなのがいぃぃぃ位⁉」

「落ち着いてください夕暮さん、いないですから! いないですから!」


 夕暮を正気の戻そうとしている政木。しかし夕暮は「う゛あぁあぁああああああああ……ノウ、ガ、ヤラレル……』と廃人になっていて、もはや手が付けられない。


 しかしこの悲しきモンスターに対抗しうる手段を持っている人間が、この場に一人だけ存在していた。


「なら月日……今度月日も”オフコラボ”してみます?」

「えっ……?」


 林檎の提案にピタリと動きを止める夕暮。政木も「止まった…………」と驚きの声をこぼす。


「ほら、そんなに彼女になりたいっていうのなら、会ってみないと始まらないじゃないですか。ね、そうでしょう?」

「い、いやぁ……それはちょっと話が違うんじゃないかなぁ……?」


 分かりやすく動揺する夕暮。しかし林檎の言っていることにはどこにも間違いがない。


 そう。そこまで言うなら会えばいいのだ。いくらオンライン化が進んだ世の中とはいえ、彼氏彼女の関係になるためには会わないと始まらない。

 林檎の提案は、夕暮の希望に従うなら当然の話だ。


「ほら、恥ずかしいとかそんなこと言ってないでさ。大丈夫、炎上したときは責任もって私が供養するから」

「炎上しない保証がほしいんだけど……てゆーか、恥ずかしいとかじゃないから…………」

「恥ずかしくないんだったらなんなの?」

「だってほらぁ…………会ってみたらかわいくなかったわ、とか思われたらやじゃん……」

「「「…………」」」


 思ったよりも乙女で、思ったよりもビビりなこの発言でこの地獄コラボは終わった。


 オフコラボの日はまだ遠い。


 後日談だが、林檎に対する判決は『1ヶ月の禁酒』だった。

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