第32話 #まさぐれの地獄コラボ(クリスマス編)③
シンキングタイムが始まり、2人は思考の海に沈む。
「…………」
「2人ともすごい集中力……よほど見せられない答えらしいですね」
「…………」
「あの、配信中なのに黙るのはどうなんです……?」
何も答えない2人に『ガチで草』『政木もマジだ』『夕暮の肩にのしかかっている重圧を見ろ』『あいつ、あんなに大きなものを背負って戦ってるっていうのか……?』などと応援する声が増えた。
「ちなみに視聴者アンケートの結果は、政木さんは『2人』と回答した人が最も多く、月日さんは『0人』と答えた人が一番多かったです」
「おい視聴者ぶっとばすぞ」
「そこだけは反応するんだ……」
そしてそれから1分ほど。答えが出そろった。
「ではまず、政木さんの月日さんに対する予想人数はこちら。『2人』とのことです。理由を聞かせていただいてもよろしいですか?」
「夕暮さんは素直な人ですから、モテると思うんです。ただ、ちょっと暴走しがちというか、話し慣れてないところがあるので、そこを踏まえるとこれくらいかなと……」
「え、好き」
「つまりモテそうだけど陰キャだからそこまでいかないかもなーって感じですか?」
「は、はい……」
「いいこと言ってたのに、なんでみかんくんはちょっとニュアンスを悪くするのかな? わたしのこと嫌いなのかな?」
政木が自信なさそうにうなずき、夕暮はギロリと林檎を睨む。既にバチバチと火花が散っている。
『意外と多く見積もったな』『0と書かないところに政木の優しさを感じる』と
「さて続いて月日さんの政木さんに対する予想ですが……こちらも同じく『2人』とありました。さて、こちらはどういった理由でしょうか月日さん」
「まあ理由は2つっすね。政木くんが愛すべき童貞であることと、もうひとつは結構自分の解答をバレるのが嫌そうだったんで意外に少ないかなって。でもまあ1人ってこともないだろうから、2人かなって」
「意外と論理的な理由ですね。しかも先ほどの政木さんの様子を見てそれも判断材料にしたという。そして愛すべき童貞というパワーワード」
「なんでこういうときは頭が回るんだ夕暮さん……」
政木が焦っているような呆れているような、どちらともいえない反応を見せている。
ちなみに林檎は感心した様子。
リスナーもまさか夕暮から知的な発言が出るとは思わず、『お前そんな頭良かったか?』『窮地で本領を発揮する女、夕暮』『インテリ暮さんいいね』などというコメントが流れていった。
お互いにコメントの反応は『妥当だな』という雰囲気。両者ともよく考えて出した答えであることがよくわかる。
「さあて、それでは勝者の方を発表していくことにしますかね」
「――っ」
「ではいきます。予想が最も近かった人は」
「――――さあ今こそ戦いの時だ‼ 勝つか、負けるか! わたしと政木くん、どっちが社会的に死ぬのか、今こそ白黒つける時がきたのだ! さあ、選べ!」
一番の山場。『映画の予告で草』『もうすでに社会的に死んでるやつが1人いて草』『いやどっちも社会的には既に死んでて草』『脊髄コメント草』などとコメントも最高の盛り上がりを見せている。
「結果はこちら! どんっ!」
「どっちだ……⁉」
「より正解に近かったのは……夕暮月日さんです!」
「……やった、勝った‼ 勝ったぞぉぉぉぉおおおおおお!」
「う、うそ………………」
大はしゃぎの夕暮。しょんぼり顔の政木。
結果的にはリスナーが見たかった構図になった。
「僕が…………負けた?」
「そんな闇落ちしたかつての仲間みたいな言い方しなくても、政木さん」
「お前の敗因は『絆』を軽く見たことさ。たしかにお前の方が強かった。でもオレには
「月日の方は主人公……しかも言ってることは意味不明」
どうみても茶番の結末。
そして感動的っぽい結末にしているのは、どう考えても前回のコラボと同じ流れ。
なのにリスナーも『うおおぉぉぉん、政木が負けたぁああああ』『泣ける、これは長編映画まったなし』『心を失った政木というシチュエーションでボイスドラマお願いします』と感動の渦に引き込まれていた。
「…………さて、では負けてしまった政木さんの、今までに付き合った人の数を暴露しましょうか」
「あ、やっぱり忘れてないですよね~…………許していただけたり、とかは…………?」
「配信がシラけるのでなしです。はいではこちら、どどーん」
「あぁ……」
配信画面には大きく『1人』と書かれていた。
「…………政木くん」
「初めてできた彼女だったんです…………それまで勉強と部活ばかりで」
「分かる分かる。それでそのショックから、他の女の子と付き合えない期間が続いたんだよな。分かる分かる」
「…………ううぅ」
「大丈夫政木くん。今わたしやリスナーたちもキュンキュンしてるから。政木くんの泣き顔に。あとわたしは浮気しないからな、安心して嫁にしていいからな」
「えげつないことを言った後に、さらっと自分を押し売りしていくその卑しい心」
夕暮の慰めているのか私利私欲に溺れているのか分からない発言にドン引きする林檎。
『バケモンで草』『これが恋愛モンスターか』『※ちなみに発端は林檎氏です』とさすがにドン引きしているリスナーも多い。
「それではこれで今年のまさぐれコラボは終わりです。また来年もこの3人をよろしくお願いします」
こうして年内最後のまさぐれコラボが終わった。
ちなみに配信後のツイッターでは、『夕暮0人説』がまことしやかに広まったとか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます