第24話 #まさぐれ+みかんの地獄コラボ(学力検査編)③

「さて最後は英語」


 長かったテスト返しも、もう大詰め。


「英語は、まあ出来て当然だよな。このぐろぅばるな社会に順応するためには、英語は重要だからな」

「グローバルの発音の慣れてない感じがマズいですよ先輩」

「台本読んでますね先生……」


 ちなみに人のことを責めているが、夕暮も『グローバル』という言葉を発したのはこれが人生で初めてである。


 その経験からして、英語の点数もお察しなのだが……。


「さて恒例の珍解答紹介に行こうか。まずはこれ。『shake』を日本語にしなさい」

「まさかこれでしゃけって書いたりはしないですよね、月日?」

「………………」

「夕暮君の解答はこちら。『サーモン』」

「……鮭をさらに英語にするという……すごい、夕暮さん」

「政木さん、それ月日にダメージ入ってるから。たぶんいま、ぐさっていったから」

「――――ぐふっ」

「もう死んでる……⁉」


『日本語訳にしろで英語にするのさすがすぎる』『たぶん解答したときはドヤ顔だったんだろうなあ』『政木、まさかの追撃』など、楽しそうにコメント欄も発言をしている。


「ちなみに正解は『振る』とか『揺らす』だね。マサキチ君と林檎君はもちろん正解」

「政木くんはほんと何でもできるんだねぇ……。おじさん感心しちゃったよ」

「おじさん、義務教育からやり直してこようか?」

「いや、他の解答は自信あるから!」

「その自信はどこから出てくるんですか……」


『何回間違えてもくじけない女』『自信と結果が伴わない女』などとコメントされているが、夕暮は気にしない。


「任せろり‼ わしが政木くんにボイスを出させちゃる!」

「ボイスへの執念がすごい」

「…………絶対に負けませんから」

「ボイスを出したくないという意志もすごい」


 お互いに負けられない理由を持つ者の戦い。

 そしてそこに巻き込まれる林檎。


 数点を争う戦い。手に汗を握る男と、ボイスの内容を妄想している女。そんな戦いだ。


「よし、解答紹介はこれが最後にしよう。『Mikan ate curry and rice last night」を日本語に直しなさい」

「あ、これ! 絶対できたやつだ!」

「じゃあ夕暮さんの解答を見ていきましょう。『みかんは最後の夜にカレーライスを食べた』」

「どうだ!」

「私の最後の晩餐ばんさんはカレーなんですか……」


 もちろん不正解である。正解は『みかんはカレーライスを食べた』である。


 しかし意外にも惜しい解答にコメント欄は『夕暮、できる子⁉』『な、あの夕暮が……』『夕暮さん、英語できるってマジ?』と感覚がマヒしたコメントがいくつか見受けられた。


「うわーっおしい‼ おまけで3点くらいあってもいいよね⁉」

「たしかに、今までの解答に比べたらほとんど合ってる……」

「先生。私からもお願いします。月日さんはこの日のために……いっしょうけんめいっ、勉強して……っ! 先生っ、お願いしますっ‼」


 涙ながらに緑先へ懇願する林檎。だいぶ夜が更けてきたこともあって、彼女も深夜テンションになりつつある。


『感動シーンで草』『赤点ラインで先生に土下座した記憶が蘇ってきたわ』『がんばれ、夕暮‼』などコメント欄も少しずつ夕暮寄りになってきた。


「な、これは……?」

「しょうがない、おまけで3点くれてやろう!」

「み、緑先さん⁉」

「やったー‼‼ ありがとうございます先輩‼」


 どうしてか、感動のラストを迎える学力検査。ちなみに誰もこの現状が理解できていない。


「先生も、夕暮君がここまで成長してくれて嬉しいぞ……。よし、それでは結果の発表をしようか」


 そしてここからが本番。ボイスを出すのは政木なのか、夕暮チームなのか。


「まずは英語の得点だが……マサキチ君100点、林檎君85点、夕暮君33点だ」

「政木さんは満点ですか……それでもこっちは118点です」

「どっちだ……どっちが勝ったんだ……?」


 ごくり、と息を呑む音が聞こえる。


「結果は……マサキチ君485点、夕暮君チーム488点。勝者は、夕暮君チーム‼」

「や、やった~~~~~‼‼‼」

「ま、負けた…………」


 耳についたイヤリングを揺らして喜ぶ夕暮。

 政木は分かりやすくトーンダウンしている。


「本当はさっきのおまけの点数がなければ同点になって、どっちも罰ゲームになる予定だったんだがな。まあこれも運ということで」

「勝ったっ、勝ったっ、勝ったっ、うおぉぉぉおおお‼」

「ふぅ……何とか勝てましたね」

「ぼ、ボイス……。本当に出さないといけないの……か」


『よくやった夕暮』『というかよくやった林檎』『お前のおかげだ林檎』とコメントも大喜びである。


「というわけでマサキチ君のボイスが2週間後に出る予定だ。もうマサキチ君の事務所には確認を取ったので、そのつもりでよろしく頼む」

「は、はい……」

「大丈夫だマサキチ君。原稿は夕暮君が考えてくれるから。はっはっは。頑張りたまえ」

「任せろ政木くん‼ おいらにかかれば、最高のボイスドラマができるぞ!」

「理不尽の上にさらに重ねてくる災難。政木さん本気でかわいそうですね……」


 こうして無事に学力検査は終了。政木の負けとなった。


「あ、言い忘れていたが夕暮君の得点は98点と100点にも届いていなかったので、これから1週間ツイッターの名前を『夕暮月日@学力テスト最下位』という名前にしてもらうからね」

「あっ、はい」

「500点満点で98点って……どうやったら取れるんですか」


 後日、夕暮の紹介がされているwikipediaに『勉強はできない』という文が追加された。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る