第25話 雑談

 夕暮たちとのコラボが終わって2週間ほど。時期はもう冬が見えてきたころ。


 政木の家に、いつものように長良がやってきていた。


「お疲れ様でーす!」

「よく来たな、上がってくれ」


 長良の服も寒さに備えた格好になっている。

 真っ白のもこもことしたマフラーに、ふわふわと毛皮でできたこちらも真っ白の耳当て。


 政木のパッと思った感想は、「ハムスターみたいだな」だった。


「あーまた散らかして。先輩はお掃除ができませんね……」

「最近ちょっと忙しくてね。適当にどかして座ってくれ」

「先週も同じ言い訳でしたけど~! まあ片付けるためという名目で来てるので、綺麗にされたら困りますけどっ」


 言いながら、長良はてきぱきとモノを片付けていく。


「昼ご飯まだだったら食べてくか?」

「食べます! ありがとうございます!」

「こっちも一緒に食べる相手がいた方がいいからな」


 政木が料理をする間に長良が片づけをする。ルーティン化された流れに、お互い慣れた様子だ。


「そういえば課長の様子はどうだ? 僕が抜けてから結構経つけど、またいつものように怒ってるのか?」

「いえ、最近は精力的に仕事をしていますよ~。何でも社長から定期的に仕事内容をチェックされているらしくて、必死な感じです」

「社長自らか……それだけ社長も思うところがあったってことか」

「私からしてみれば、『もっと早くやれー!』って感じですけどね」


 長良は政木と一緒に働いていたころは毎日のようにご立腹だったが、今はそんなこともなく楽しそうに仕事をしている。

 それは政木にとっても嬉しいことだった。


「それより先輩」

「どうした?」

「引っ越しを考えてるんですか?」


 長良が机の上にあるパソコンを指さして、政木に尋ねる。


「ああ、そうそう。ちょうど物件を探してたところで」

「そういえば、前に『物件探す時間がない』って言ってましたもんね」

「そうそう。防音室とかあれば、夜中でも気にせず配信できるしさ」


 政木が考えているのは、防音室と呼ばれる中の音が外に漏れにくくなる部屋がついている家への引っ越しだ。


「それってマンションとかにもあるんですか?」

「あるある。まあ他の部屋も広くなったりして家賃はかなり高くなるんだけど、ちょうど最近お金に余裕が出てきたからさ」

「言ってたあのボイスドラマってやつですね‼ 私も聞きましたよ~!」

「知り合いに聞かれるのはかなり恥ずかしいんだけど……」

「最高でした!」


 ちなみに政木が出したボイスドラマは、政木が教師でリスナーを生徒という場面で政木が厳しく言葉責めをするというものだった。

 これでいいのかと夕暮に聞いたところ「ゴチになりました……いえ、ナニもしてませんよ?」と吐息といき交じりの言葉が返ってきたので大丈夫だとは思っていたが、長良もお気に召したようだ。


「これで引っ越したら、長良に掃除してもらわなくても済むかもな」

「そんなことないですよ。むしろ広くなればなるほど片づけが適当になるんです。引っ越してからもしっかりお世話しますから!」

「後輩に世話される先輩とか、世間体が悪すぎるけどな」

「細かいことは気にしない‼」


 そしてご飯を食べた後は、2人で物件を探す。


「長良はどういうところがいいと思う?」

「お風呂とトイレは別がいいですね~。あとはセキュリティがちゃんとしたところも大事!」

「住む場所は? どこが近いといいんだろうな」

「山手線の通ってるところ‼ 理由は私が通いやすいから‼」

「あはは……毎回こんなところまで来てもらって悪いな」

「そのぶん次は交通の便がいいところにしてくださいっ。あ、もちろんお金のことはあると思うので、先輩の無理のない範囲でですが!」

「おっけおっけ。分かってるよ」


 どう見ても同棲を控えたカップルの会話だった。




 ―――――――――――――――――――



『いけないじゃないか、こんな点数を取って。お仕置きが必要だな?』

「きゃっ♡ はぅんっ、うひょっ。もっといじめて、政木きゅん……!」

『ほら、こうだ。(ぺしっ、ぺしっ)どうだ、足りないか?』

「もっとぉ、もっとぉっ♡ はぅん、あ、そこそこ……っ」

『「私は勉強もできないダメな子です」って言ってみろ。ほら』

「わたしはぁ、べんきょうもできない、ダメな雌豚ですぅ……♡」

「…………なんで月日と一緒にボイス鑑賞しないといけないんでしょうか」


 ボイスは夕暮が美味しくいただいていた。


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