第17話 #まさぐれの地獄コラボ(2人きり編)③

 配信開始から3時間。

 既に地獄の一片が見え隠れしていた。


「ま、まさかこんなにもダイアが出ないとは……」


 リスナーの有識者を頼りに進めているので、掘っているところが間違っているということはあり得ない。

 単純に、夕暮も政木も運に見放されていただけだ。


「もうそろそろ日付変わっちゃうし、みかんに言って終わりにしてもらう?」

「リスナーさんが許せば……ですけど」

「…………こいつら、マジで人の心ってものがないんじゃないか」


『ダメです』『逃げるのか夕暮』『耐久配信キター!』


「…………仕方ないです……。見つけるまでやるしか」

「あの腹黒柑橘かんきつ類、何考えてんだか……。そろそろ終わりにしてくれてもええやろがい!」

『林檎寝てるぞ』『みかん氏、酒を飲んで気持ちよさそうにスヤスヤ』『こっちも地獄です』

「はぁ⁉ 寝てる⁉ おい、誰が配信止めるんだよ」

「…………林檎さんには申し訳ないですけど、早くダイアモンドを見つけて僕たちだけでも終わらないと……」

「いや、それが正しいわ。寝落ち配信でトレンドに乗るがいいわ‼」


 夕暮と政木は共通の敵ができたことで、モチベーションが回復。


 気を取り直して、採掘を再開した。


「そういえば夕暮さんって林檎さんとすごく仲がいいですけど、知り合ってからどれくらいが経つんですか?」

「わたしとみかん? うーん、どうだろう……1年ちょっとかな?」

「1年……結構長いですね」

「この業界がまだ2,3年だからね~。そう考えると長いよね」


 Vtuberという業界が生まれたのは2016年のあたり。始めの2,3年はマニアックなファンだけが知るというという状態だったから、実際にVtuberが広まったのはここ3年ほどである。


「きっかけは何だったんですか?」

「きっかけねえ……なんだっけ」


 夕暮はリスナーに尋ねる。


 すると誰かが『対談コラボが初めてでは?』と返事をした。


「あ、そうだそうだ。わたし1年前って、炎上してたのよ」

「そんな気軽に……」

「結構ガチなやつね。清楚で売ってたのが剥がれて、それでわたしを清楚だと思って見に来てた人がブチ切れたの。それで炎上」

「夕暮さんらしいエピソードだった……」


 ただこれはかなり有名なエピソードで、政木も知っていた。


 政木がちょうどVtuberになると決まったあたりで、『Vtuberはこんなに怖いところなのか……』と炎上の怖さを目の当たりにした事件だった。


「それでさ。炎上中だから誰もコラボとかしてくんないんだけど、そういう中で『コラボしませんか?』って言ってきたのがみかん」

「すごい度胸というか、すごいセンスというか……。みかんさんっぽいなというか……」

「わたしもさすがにびっくりしてさ。それで話してみたら、結構話しやすくて。それで仲良くなったってわけ」


 大人気Vtuberの馴れ初めは、そのずば抜けた個性に負けないエピソードだった。


「いつも悪口を言い合ってますけど、やっぱり仲良いですよね」

「まあね~。事務所の先輩後輩とももちろん仲いいけど、他事務所ならみかんが一番話しやすい」

「素敵な方ですもんね。話の進行が上手いですし、適度に毒もあって」

「政木くん政木くん」

「なんですか?」

「あいつのこと嫌いになったわ」

「なんで⁉」


 さっきまでいい話だったのにいきなりどん底に落とす夕暮。まるで「あいつと趣味合わないわー」みたいなテンションで言われたから、さすがに政木も驚く。


一方で『嫉妬で草』『林檎の方がいい女だもんな~』『最も政木に近い女はみかんだった……?』などとコメントは夕暮を煽っていた。


「いやいや政木くん。あいつ寝るときはへそ出して寝るし、酒カスでいっつも酒ばっかり飲んでるし、普通に暴言とか吐くからね?」

「そんな悪いところを羅列されても…………」

「やめた方がいいよあいつは。うん、やめたほうがいい」


『お前も暴言吐くだろ』『さっきまでの友情はどこへ……』『政木はお前みたいにだれかれ構わず恋愛対象にしてるわけじゃないがな』


「うっせえ! 友情なんてくそくらえだ‼」

「ゲーム……進めましょうか……」


より一層ギアを上げた夕暮が、勢いよく採掘を再開した。





 3時間後。


「……ああ、あったーダイアモンドだー」

「よ、ようやくです……ね…………」

「うぇーい、終わったぜー。寝よ」


 政木の属性が「不憫」から「不運」へ。


 こうして第3回目の地獄コラボは、配信時間6時間42分という長時間配信になって終わりを告げたのだった。


「あのクソみかん、この企画考えたこと覚えとけよなーあはははは」









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