第15話 #まさぐれの地獄コラボ(2人きり編)①
「さてやって参りました。第3回まさぐれ地獄コラボ~。はいどんどんパフパフ。エントリーナンバーワン、ゆうぐれ~つ・き・ひ~」
「恋愛ライト級の夕暮月日です。よろしくお願いします」
「たしかに、恋愛経験ゼロですもんね」
「ぜ、ゼロじゃないやいっ!」
前回のコラボから2か月。このコラボを待ち遠しく思っていたリスナーも多い。
『たしかにライト級』『いやでも重い女だからヘヴィー級』『軽い女』などコメント欄もすでに多くのリスナーが駆けつけている。
「そして続いてエントリーナンバーツー、まさき~あ・り・ま」
「ボクシングは怖いのであんまり見たことがないです。政木有馬です、よろしくお願いします」
「わたしと恋のボクシングしようやぁ‼」
「はい、意味不明な人は置いといて企画説明に行きましょうか」
相変わらずのスルースキルを誇る林檎に、涙目の夕暮。そして「スルーしていいのだろうか……」という不安がいまだに湧きおこる政木。
この3人でコラボはスタートする。
「今回の企画なんですが、なんと。事前の打ち合わせでは2人には何も教えていません」
「言われてない……ですね」
「なにすんのー?」
「そんな本日の企画は、こちら!」
林檎の声に合わせて配信画面に大きくテロップが出される。
「名付けて、『まさぐれを2人きりにしたら一体どうなるのか!』という検証配信です」
「……どういうこと?」
夕暮がいまいち内容を掴めないようで、質問をする。
「はいはい、詳しくルール説明させていただきますよ。その前にまず、今までの『まさぐれコラボ』の中でこんな声が上がっていたことはご存じでしょうか?」
「どんな声だよ」
「どんな声です?」
「……………………『林檎いらんやろ』という声です」
「かっかっか! 間違いないなァ! 我と政木くんの仲を邪魔しおってからに、当然の意見じゃ‼」
夕暮が嬉しそうに言う。
これには林檎もにっこり。
「なのでそういったリスナーさんの要望に応えることにしました。今回は”私抜き”で会話をしてもらおうと思います」
「…………?」
「林檎さん、今日はいない……?」
「かわいい小動物みたいな人がひとりいましたが、私は心を鬼にして言います。今日は2人きりでお願いします」
「ふ、ふ、ふ、ふたりきり⁉」
林檎の企画説明の中で顔色が明らかに悪くなったのは夕暮の方だ。
「ちょ、ちょ、ちょっと待てよ、みかん。そんな、いきなりひどくない?」
「さっき喜んでたっぽいですけど」
「や、ヤダナー。本気にしないデヨ」
「まあどっちでもいいです。今日の企画は変わらないので」
バッサリと夕暮の懇願を叩き切る林檎。これには視聴者も『いいぞもっとやれ』『夕暮はこれくらいがちょうどいい』『甘やかすな』と涙のメッセージを送っている。
「ただ私もそこまで鬼ではないので、ひとつだけ特別ルールを設けます」
「特別ルール?」
「はい。どうしても会話が続かない……となったときは『ヘルプ!』と叫んでください。運がよければ助けに入ります」
「運がよければってなんですか⁉」
「そこは確定で会話に入ってくれる流れじゃないの⁉」
「あんまりアテにされても困るので」
さて、と林檎は前置きをひとつ入れてから、声を作り直して宣言。
「それでは私は会話から抜けます。お疲れさまでした~」
「お前ほんとに会話に入ってくる気があるんだろうな‼ お疲れさまでしたってなんだよ‼」
夕暮の言葉が言い終わる前に、ぶるぅんという音とともに林檎は自分の声をミュートにした。
『はい、ここからは視聴者さんにだけ私の声が聞こえています。ここからはさっそく、二人のコミュ障の会話を実況していきたいと思います』
『草』『どう考えても地獄で草』『政木はコミュ障か?』
『政木さんはコミュ障ではないですが、女性が苦手みたいですね。とりあえず見ていこうと思います』
林檎は2人がプレイをしているゲームの画面を開いた。
さすがに雑談だけでいきなり1時間は大変だということで、林檎はマイ〇クラフトというゲームでダイアモンドという希少な鉱石を入手出来たら終わりというルールを作った。
ゲームをしながらの方が会話もしやすいし、会話が出来なくなったときはゲームの話をすればいいという配慮だ。
……だがしかし。
「きょきょきょ今日は天気がいいです、ねえ~」
「そ、そうですね!」
「…………」
「…………」
「「ヘルプ!」」
この有様である。
『今日はこの調子で配信が流れますので、よろしくどうぞ』
先の思いやられる始まり方だった。
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