第14話 10万人記念の反響
政木の『歌ってみた』動画は登録者10万人を達成する日の前にギリギリで完成し、10万人記念配信の後にアップロードされた。
その10万人達成配信では政木が札束に殴られる場面があったりしたが、無事に終わる。「いや、ほんとお金を大事にしてください……‼ 無言の赤スパ、怖いんですが⁉ ほんとうに、もう十分ですから……『スパチャのやり方ってこうですか?』合ってます、合ってますから赤スパでそれを聞くのはやめてください‼」と嬉しい悲鳴も配信に載っていた。
その日のスーパーチャット額は50万円を越える。また、政木個人の切り抜き動画も多く投稿されることになった。
この1日で政木のことを知った人が増え、登録者数も増えた。
……が、それだけで終わることはなかった。
翌日、夕暮月日の配信。
配信タイトル『死ぬ、死んだ、タスケテ、』。
「はいどーもー、『Studio Virtual』2期生の夕暮月日です~。今日はのんびりマイ〇クラフトしながら雑談します~」
配信はいたっていつも通りで、始まり方も普通だった。のんびりとBGMを流しながらゲームをするというパターン。
しかし配信タイトルから多くのリスナーは、今回の配信が”ある話題”を中心にしたものであることは予想がついていた。
それはもちろん。
「『夕暮、政木の『命を叩く』聴いた?』はいはい、それね。それね。それねそれねそれねそれね。……はぁ」
どおっとため息を吐く夕暮。
だがそのため息はリスナーにとっても理解できるものだった。
「あれね、やばすぎね。一瞬、政木くんが私のこと殺しに来てるのかと思ったもん」
『わかる、あれはえぐい』『政木がまさかああいう暴力的な曲を歌うとは思わなかった』
「それなぁ~。選曲よすぎてマジ死ぬかと思った。あと政木くんの声やばくね? あんな声聞いたことある? 低音のところとか鳥肌ぶわぁよ。ぶわぁ」
政木の10万人記念配信よりも反響が大きかったのは、政木の『歌ってみた』動画の方だった。
そのクオリティの高さに、政木と関わりのなかった多くのVtuberもその動画に触れていたり、Vtuberを知らない人も政木の歌を聴きに動画を視聴する人が現れたほどだった。
『Vtuberの歌ってみた動画』ではなく、単純な『歌ってみた動画』として反響が大きかったのだ。
「そんで昨日は配信するはずだったけど、あの動画を鬼のようにリピートしてたらいつの間にか寝る時間になってたわ。はい、すみません言い訳です」
『草』『配信よりも政木の曲の方が優先度高い』『どうせやってたとしても身が入らない未来が見えてて草』
「えーとさらに言わせていただくと、
『僭越どころか傲慢で草』『配信者じゃなくてオタクやん』『カス暮さん出たわね』
相変わらずすべてをさらけ出す夕暮。
そうは言いつつも配信をしているのだから、リスナーもそれ以上責めることはできない。
「でもひでえよなあ。政木くん、カバー曲上げるなんてわたしに一言も言ってくれなかったんだよ。ラインを交換した仲なのに」
『円満に交換したみたいな言い草』『お前に言う意味ないだろ』『政木くんの彼女面しないでもらえます?』
「おうおうリスナーも言いたいこと言ってんねえ。あと最後のやつ、お前こそ彼女面して政木”くん”なんて呼んでんじゃねえぞごら』
いつものようにリスナーとバトルして楽しそうな夕暮。
「というわけで、今から『政木くんの20万人記念』で歌ってほしい曲を募集します。別に本人に届くとかではなく、わたしの自己満足です。どうぞ対戦よろしくお願いします」
結局その日は夕暮月日の配信でありながら、話題は1時間ずっと政木の話だったという。
政木の歌が届いたのは、もちろん夕暮だけじゃない。
「おほぉぉぉおおおお⁉ 政木ちゃんやばすぎだわ。やっぱりこの曲を選んで正解だったわ‼ さすが私っ、1か月前の自分を褒めてやりたいわ! いいわぁ、このトーンで殴られたいわ~Mにさせられたいわあ~。うへえええぇぇええ」
という厄介なオタクにも届いたし、
「ふふっ、待っててね
危ない女子高生にも届いたし、
「…………この声、せんぱい?」
どこかの飲んだくれの後輩にも届いた。
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