第10話 禁断の女子会

 地獄のコラボ、ライン編が終了した後、都内の高級焼き肉店にて。


 3人の女子会が開かれていた。


「おっすー、お疲れ月日、みかん」

「お疲れです~」

「お疲れ様です」


 2人は先ほどまでコラボをしていた、夕暮と林檎。


 そしてその2人が待っている個室に後から入ってきたのは、夕暮の先輩――『スタバ』の1期生の緑先みどりさきざくろだった。


 緑先は2期生である夕暮たちの前にスタバに入っていた、そしてVtuberがまだ日の目を見ていない時期から活動をしていた、いわばVtuberの先駆者のような人間だ。


 そういう実績もあってか、林檎も夕暮も緑先には頭が上がらない。


「もう食べ始めてる? 遅れてごめんね」

「いえ、全然大丈夫ですっ! 生でいいですか~?」

「さんきゅ」


 ちなみに個室で食べているのは、単に彼女たちがお金持ちだからというだけではない。

 彼女たちはみんな独特の声を持っていて、普通のお店では身バレをする可能性が高いからだ。


「緑先先生、本当におしゃれですね」

「こら林檎。先生って呼ぶのやめなさいって。ほい、乾杯するぞ! 月日、挨拶」

「えー、集まった理由は分からないから乾杯の意味が分からないけど、とりあえずかんぱーい!」


 飲みっぷりがいいのは緑先だ。

 林檎は日本酒をちびちびと、夕暮はお酒が飲めないのでオレンジジュースを景気よく飲んでいる。


「いやあ、二人もずいぶん登録者数が伸びたねえ」

「先生ほどじゃないですよ」

「先輩はそろそろ200万ですもんね。いやー、遠いなあ」

「いつか抜かれるだろうけどな。2人もずいぶん稼いでいるだろう?」


 話題はまず、仕事と身の回りの話だ。


「いえ、そんな……でもやっぱり電車に乗る機会は減りました。ずっと人混みが苦手だったので、タクシーとかで事務所までいけるとほんと楽です」

「分かる。というか電車で病気をもらうのが怖くなるよね。あたしもそういう人混みにはなかなかいかないようにしてる」

「私は親にほとんど渡してますね。母子家庭で育ったので、母を楽にさせてあげられてます」

「いい子だなあ林檎は。まあそういうお金の使い方もあるだろうさ」


 VtuberはVtuber同士でしか話せないことが多い。

 また話せたとしても、普通の会社員とは会話が嚙み合わないことも多々ある。


 だからこそ、Vtuber同士で会うと話が弾む。


 だが、いつまでも世間話で終わるようなことはない。


「お、そういえばさっきのコラボ見てたよ~。面白かったな」

「見てくださったんですか? ありがとうございます!」

「先生に見ていただくような内容でもなかったと思いますが……」

「いやあ、政木くん、だっけ? あれはいいな、女心をくすぐってくる」

「政木”さん”ですね」

「先輩に対してもその態度なのね、月日……」


 そこに関しては譲らないと夕暮。

 その対応に呆れているのは林檎で、緑先は特に気にした様子もない。


「んで、彼とは本当にラインを交換したのかい? さすがに交換してない?」

「いや、しました! ゲットです!」


 夕暮はその話題になってキラッと顔が輝く。


 ルンルンで携帯の画面を緑先に見せた。


「本当に交換したんだ……怖いもの知らずだな、ほんと」

「据え膳食わぬはなんとやら、ですから!」

「あれは男の恥であって……というか政木さんは据え膳じゃないでしょ…………」

「見せて見せて」

「あっ」


 緑先が夕暮の携帯を取って、トーク内容を確認する。


 だが。


「……ってこれ、まだ何にも送ってないじゃないか」

「だって‼ ……何を送ったらいいのか、分からないんですもん……」

「先生、これですよこれ」

「配信であれだけやっておいて、なぜウブなのか……」


 これにはさすがに緑先も頭を抱えた。


「こういうのは適当でいいんだよ。えーと、『初めまして夕暮です。経験人数はゼロ人ですが、どうぞ優しくリードしていただけるとありがたいでs』」

「ちょっと待ったあぁぁぁぁぁああ‼」

「なんだよ、もう少しで送信できたのに」

「もう少しで送信されそうだったから止めたんです‼」


 平然と嫌な顔をする緑先に、顔を真っ赤にして止める夕暮。


「ほんと、月日の生みの親って言われるだけありますよね、先生」

「失礼な。あたしは配信であんなことしないよ」

「だから余計にタチが悪いんですよ‼」

「じゃあどうするんだよ。性感帯の場所でも教えておくか? えーと、『私の弱いところは背中です。集中的に責めてくだs』」

「だーかーら‼」


 林檎は2人のやり取りを見ながら、本当に個室でよかったと思った。特に夕暮がうるさいからだ。


「あ、送れた」

「ええぇぇぇぇぇええっっっっ⁉ ちょっと、あ、ほんとだ‼ 何してるんですか先輩‼」

「まあまあ、送られてしまったものはしょうがないだろう」

「いや、まだ送信取り消しを……って既読ついたぁぁぁあ‼ もう、終わりだ……さよなら、わたしの青春…………」

「青春って、お前もう25だろ」

「うるさぁぁぁぁぁああい‼」


 林檎はどさくさに紛れて新しく日本酒を注文していた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る