第8話 #まさぐれの地獄コラボ(ライン編)①

「さて、とうとうこの日がやってきてしまいました。まさぐれ地獄コラボ、炎上企画第一弾、ライン争奪麻雀バトル!」


 政木にとっては何年も先送りにしたかったコラボが、あっさりと始まってしまった。

 夕暮との初コラボから2週間の出来事である。


「ルールの説明の前に、ゲストの紹介です。まず夕暮月日さん」

「はい、今日のために麻雀を死ぬほど打ってきました。昨日の耐久配信を見てくださった皆さん、本当にありがとうございました」

「24時間もくだらない練習に付き合ったリスナーさんは頭のネジが外れてますね~。『夕暮の方がおかしいだろ』そんな分かり切ったこと言うわけないじゃないですか~」

「今日はよろしくお願いいたします」


 いつも以上に真剣な雰囲気を見せる夕暮。それに対し『ガチだ』『政木、逃げろ』という声が上がる。恒例のやつである。


「はい、続いて今回の被害者、政木有馬さんです」

「今日は自分の持っている運を全て使い果たして勝ちたいです! よ、よろしくお願いします!」

「はい、最初からライン交換拒否の姿勢ですね~」

「いや、あの、炎上するので……」

「賢明ですね」


 賢明というか当然だと思いますけど……という政木の想いは届かない。


『頑張れマサキング』『負けるなマサキング』『でもマサキング運が……』とリスナーも好き勝手に応援をしている。


「それではルール説明です。まず大前提ですが、夕暮が政木さんよりも成績がよかった場合、ライン交換になります」

「ういー! 気持ち上がってきたぁあああああ‼」

「『化け物の目覚め』って言われてますけど……」

「あー政木くん大丈夫大丈夫。そいつら後で絞めとくから」

「それでルール説明の続きですが、私が政木さんよりも上になった場合は『まさぐれの一週間オフコラボ~』が開催されます」

「え、聞いてないんですけど⁉」


 夕暮が政木に勝った場合の話は聞いていたが、林檎が政木に勝った話については打ち合わせでは出ていなかった。


 しかしそんなこと関係ないと林檎がルール説明を続ける。


「そして政木さんが私たちよりも上の順位になったときですが……何もないです」

「え、何もないんですか⁉」

「おお、ナイスリアクション‼ 大丈夫、わたしのラインを教えてあげる‼」

「……ラインから逃げる方法は」

「そういう理由があるので、何もなしです。あ、何かご希望のことがあれば聞きますよ?」

「…………なしでお願いします」


『ヤクザの恐喝と同じやり方』『政木、すでに形勢不利』というコメントがあるが、それらも林檎は全部無視。


 政木も素直だからか、「まあライン交換よりはましか……」という発想になっていた。


「それでは始めましょう。三人麻雀で始めます、よろしくお願いします」

「っしゃあ、手加減しねえぞぉぉぉおおおおお‼」

「お、お手柔らかにお願いします……」


 地獄のコラボが始まる。






「ぐぬぬぬ、また夕暮さんと林檎さんにあの男は……え、オフコラボ? だめ、だめ、絶対だめ! 事務所命令で禁止です! はぁ、デレデレしちゃってこの男は……‼ いいです、勝ったら私が経費でスパチャをしてあげます! 任せてください! というか経費で通らなくても自分で……というか早くこのコラボ終わらないですか? いや、政木ちゃんが有名になるのは嬉しいだけど……はぁ、早く専業になってくれないかなあ。そうしたらもっと密に……いえいえ、密に連絡ができるんではないかってそういう話です。ええ、ほら、事務所に来てもらって打ち合わせとか、ねえ? よし、仕方ないですが見守ることにしましょう……」


 どこかのマネージャーの独り言であった。



 ―――――――――――――――――――



 オフコラボというのは実際に直接会ってコラボをすることです。

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