第6話 スケジュール調整
Vtuberには本来マネージャーというものが1人付くことになっている。スケジュール管理、スタジオの予約、案件の受託、そしてライバー当人の体調管理などが主な仕事だ。
『政木さん、それでは今週分のミーティングを始めます』
「はい、よろしくお願いします」
政木のマネージャーは
その中でも彼女はミスが少なく政木がお願いしたこともすべて完璧にやってくれているので、政木も彼女のことはとても信用していた。
『水曜は○○さんとのコラボ。金曜は一人で配信になっていますから、その準備をしておいてください』
「はい、分かってます。いつもありがとうございます」
2人は完全なビジネスパートナーだ。
いつも無駄な話はしないし、事務的な連絡で全てが完結するレベルの仲である。もちろん必要な場合を除いて、ミーティングは今回のようにオンラインで行なわれる。
しかし今日は少し違った。
『そういえばこの前のコラボで夕暮さんに聞かれていましたが……政木さんって童貞なんですか?』
「………………え?」
思わぬ話題に政木は凍り付いてしまう。
大津とは実際にも会ったことがある。真面目そうな長身の女性で、性の話題になることなどⅠミリも想像していなかった。
だから突然振られた話題がまさかあの前のコラボの話だとは思いもしなかった。
「いや、えっと、その、なぜそんなことを……?」
『いいからお答えください。どうしても無理にとは言いませんが』
「…………ど、童貞、ですが……っ」
なぜこんなことを言わなければならないんだと思いつつ、それでも彼女のことだから何か意味があるに違いないと信じる政木。
しかし顔を真っ赤にしながら答える政木に、大津は大きく動揺をした姿を見せない。
『そうですか。それではこのことは配信で言ってはいけませんよ』
「それは、その、ど、童貞だからですか」
『違います。童貞であっても童貞ではなかったとしても言ってはいけません。性の話には弱いというのが、世間一般の政木さんのイメージですから』
「な、なるほど……」
Vtuberでかなり致命的になるのは、いわゆる『解釈違い』と呼ばれるやつだ。デビューしてずっと清楚なキャラクターで売っていたのに実は昔不良だったとか、静かな声を売りにしていたのにお酒を飲むと聞き苦しいほどの声量で話してしまうとか。
そういったリスナーの想像しているキャラクターと実際の人柄に乖離が見えたとき、リスナーは離れていきやすくなる。
ギャップで済むようならいいが……済まない場合は登録者数を激減させてしまう、というわけである。
『あと、他の女性にも言ってはいけませんよ』
「配信外でも、ですか?」
『ええ。ダメです』
「それは理由が……」
『それではお体にお気をつけて、おやすみなさい』
「お、おやすみなさい」
最後の言葉に理由はあるのか……と政木は思ったが、大津のことだからちゃんと意味があるに違いないと思い込むことにした。
実際はただ、秘密を自分のものにしておきたいだけだという、下心丸出しの理由だったということは政木も知る
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