第5話 #まさぐれの地獄コラボ③
「はいでは次の質問~。『夕暮月日は好みのタイプがコロコロ変わる肉欲モンスターですが、政木さんはどういった女性が好みなのでしょうか』だそうです」
「おい誰が肉欲モンスターじゃこら」
「政木さん、どうですか? 好きな女性のタイプとかあります?」
「無視かい」
林檎は月日に構わず、政木に質問を振る。
「好みの女性です……か。うーん、あれですかね、優しい人とか、あんまり悪口言わない人とかです。いっしょに居て楽しい人っていうか、どっちかと言うと不快にならない人がタイプです」
「はい! わたし人生で一度も悪口を言ったことないですっ!」
「嘘つきはもちろん嫌いですよね~政木さん」
「ま、まあ……」
「はい振られた」
「嘘ついてねえし‼」
月日が日ごろから嘘を吐いていることは言うまでもないが、その一方で政木は月日にそこまで悪い印象を持っているわけではなかった。
「でも夕暮さんは意外と悪口とか言わなそうですよね」
「意外? おっと、政木くん?」
「あ、えっとそれは違うくて‼ なんか、そう! 配信を盛り上げるためにそういうことを言ってるっていうか……」
「つまり月日はビジネスで悪口を言ってると言いたいんですね政木さん」
「うー言い方は悪いかもしれませんが……根っこまで悪い人って感じには見えないです」
「だそうですが月日さん?」
「泣いた。涙があふれてガンジス川が3つに増えた」
「増やしすぎだぼけ」
ただ、『まあ夕暮がビジネス悪口ってのは分かる』『そもそも日常で言葉を発する機会もなさそう』など、政木の意見を支持するコメントは多かった。
「ちなみに似たような質問で『夕暮月日が面食いなことは言うまでもないですが、政木さんは顔と性格だったらどっちを大切にしますか?』という質問も来てます」
「これ絶対さっきの質問と一緒の奴が書いてんだろ‼ 私の悪口を枕詞にするな‼」
「それで、どうです政木さん?」
構わず、政木に質問をする林檎。
「うーん……あー、難しいですね」
「あれ? 意外と悩まれるんですね? 政木さんみたいなタイプは即答で性格って答えると思いましたけど」
「いや、性格が大事だと自分でも思ってるんですけど、無意識に顔も注意しちゃうっていうか……。顔だけで選ぶことはないですけど、多少は顔も気にしちゃうかもなあって……」
「いいですね。誠実な感じの答え方。正直顔が悪いと性欲とかも湧かないですよね」
「せ、せいよ――っ⁉」
「おい林檎‼ お前、いつから下ネタを言うように……‼」
性欲発言をしたのは夕暮ではなく林檎だったことに、夕暮はもちろん油断していた政木も動揺してしまう。
「恋愛とせ〇くすは切っても切り離せないでしょ~。ですよね、政木さん?」
「いや、えっと、あの」
「あれ、もしかしてそういうの弱いタイプですか?」
「…………なにぶん、女子からそういう単語を聞く機会に恵まれなかったもので……」
「え、もしかして……童貞?」
「そ、それはノーコメントです‼ 事務所に止められます‼」
「シュレディンガーの童貞……これは、ネタが膨らむ膨らむ」
「なんのネタですかっ‼」
最悪の発言を夕暮がしたところで、次の質問に移った。
「『夕暮さんは以前に他のライバーの方といい感じになっていましたが、政木さんはこれまで彼女がいたことなどはありますか?』という質問です」
「うわ、気になる! え、政木くん彼女いたことあるの?」
「まあ……一応」
「えーいつですか‼ 5年以内にいた時期があったり⁉」
「いえ、最後に彼女がいたのは高校生の時なので……」
「おー、そうなんですか!」
夕暮のえげつないレベルの距離の詰め方に困惑しつつ、政木は事実を答える。
「彼女と何で別れたんですか?」
「それを最初に聞く月日の性格の悪さね」
「なんで……まあ簡単に言えば愛想をつかされたというか…………もっと具体的に言えば浮気されてたというか」
「あっ……」
「ほら言わんこっちゃない」
盛大に地雷を踏みぬいた夕暮は、上手くコメントができない。コメントも不穏な空気を察したのか、『うわ、浮気か……』『えぐっ』『政木で浮気されるのかよ……』『そういうの聞いちゃうのが夕暮月日』と同情するようなコメントが増えていた。
地雷を踏んで動揺している夕暮の代わりを林檎が務める。
「えー浮気されたとか、最悪な女じゃないですか。どうして付き合ったんですか?」
「いえ、自分が悪いんです……。浮気が発覚して別れたときに『あなたといても面白くなかった』って言われましたから……」
「それで政木さんが悪くなるくらいなら、浮気は全人類が許されますよ~。浮気はしたほうが絶対いけないんです、いいですか政木さん?」
「は、はい……」
「特に女は男のせいにして責任逃れしようとするパターン多いですから」
林檎が怒涛のフォローを見せると、それに便乗するように夕暮も復活してきた。
「そう! 浮気は最低最悪なんだから‼ そもそも政木くん相手に浮気とか、その女も調子に乗りすぎね! どうせ今頃彼氏いなくて嘆いてるに違いない!」
しかしそれはやりすぎだったようで。
「あの……あんまり元カノのことを悪く言わないでもらえると……あれでも本当は優しい人なので」
と政木から逆にたしなめられてしまい、夕暮はまたしても沈黙する羽目になった。
そのフォローをまたしても林檎がおこなう。
「でも政木さん、それなら余計に浮気しないような女の子を選ばないとですね~。二度も同じようなことがあっては、さすがに女性不信になっちゃいますよね」
「あ、それはそうですね。ただ自分には女性を選ぶ権利はないので、当分は独り身だと思いますが……」
「大丈夫! わたしが結婚する‼」
夕暮の堂々たる提案に、コメント欄も『お前は引っ込め』『お前に政木はやれない』『今の話を聞いて、もっといい女に出会ってほしいと思った』など堂々たる拒否の声が漏れ出ている。
「政木くんのリスナー、なんなの? 政木くんの彼女なの? なんなの? 政木くんのお父さんなの?」
「いや、あの、夕暮さんも十分素敵な女性ですから……」
「ねえ、政木くん。リスナーと私、どっちが大事なの? ねえ、ねえねえねえねえねえねえねえねえ」
「はいということで不審な感じになってきたので、今日の配信はこれで終わりたいと思います! それではみなさん、最後にせーの、おつみかん~」
「お、おつみかん~」
「ねえねえ、どっちが大事なの?」
そしてこの地獄の配信は、政木にとっても大きな変換点となった。
政木のその優しい性格とボケ倒す夕暮との相性の良さから、たちまち政木の注目度、そして政木と夕暮の『まさぐれ』のコンビの注目度が上がる。
そして今回の配信の面白かったところを短くまとめた切り抜き動画も多く出回ることになり、一気に注目コンテンツへと昇華することになった。
そしてその日と翌日だけで、政木のチャンネル登録者数が5万人になるという前代未聞の事態が発生した。
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