第4話 #まさぐれの地獄コラボ②

「はいでは次の質問に行きます。『月日さんと有馬さんはお互いにお互いの長所はどこだと思いますか? また短所はどこだと思いますか』とのことです。じゃあまずは月日さん、政木さんのことをどう思われてますか?」


 質問自体は当たり障りのないものが多いな、と政木は感じた。答える側が当たり障りがある返しをしているだけだ。


「そうですね~長所はさっき言ったんで短所の方を言いますか」

「あれ、短所あるんですか?」

「そりゃもうあれですよ、女に優しすぎるところですよ。同じトリミングVの女性ライバーにすぐ優しくしてるし、こう節操なく優しくしてるところが欠点ですね! はい!」

「節操なく優しくしてるって……。ただの紳士やんけ」

「いや、紳士だなんて自分はとても……」


 政木は否定するが、リスナーからの評価では『政木ほど紳士なVtuberはいない』というのが総論だった。


「じゃあ逆に政木さん。月日さんの長所、短所について政木さんはどうお考えですか?」

「自分が言うのは失礼かもしれませんが……そうですね長所としてはすごく話が面白いところとか、素で話されていてとても配信を聞いていて安心できるところとか……じゃないですか? あとは意外とリスナーさんを大事にしているところとか」

「えっ、やだ……結婚したい」

「落ち着け月日、願望が漏れ出てるぞ」

「け、結婚⁉」


 唐突な結婚というワードに政木はひどく動揺するが、夕暮はか細い声で溶けるように言う。


「だって安心できるって言われたよ‼ 初めていわれた! 私の初めて、奪われた!」

「えーただいま月日が理性を忘れております。少々お聞き苦しいところがありますが、お許しください」

「えーほんと嬉しい……。ありがとうございます……!」

「いえいえ。ただ短所としては、やっぱりこう色々とルーズすぎるので、もう少し気を付けたほうが良いんじゃないかなあと思ったり……でも今のスタイルも僕個人としてはかなり好きですが」

「ひぃーん。あー駄目だ、こりゃ惚れちまう」

「ちょろいですねえ~」


 林檎は夕暮を冷たい目で見た後、すぐに話題を変更することになった。






「続いての質問はこちら。『現在は夕暮さんは専業で、政木さんは兼業でVtuberをされていると思いますが、それぞれのメリットとデメリットを教えてください』とのことですが……」

「え⁉ 政木くん、兼業なの⁉」

「はい……Vtuberだけだと生活費が足りないので…………」

「え~言ってくれたら配信するたび赤スパ投げたのに……」

「いきなり石油王出てきたな」


 ちなみに赤スパというのは赤色のスーパーチャットのことで、1万円以上の高額スパチャである。


「そ、そんな‼ やめてくださいよ! 夕暮さんのお金は大事なリスナーさんからもらったものですから……」

「うちのリスナーも政木くんに還元できるなら大満足だよ。だよな、おい」

「『まあぶっちゃけ政木に行ったほうが適切な感じはある』とか言われてますね」

「いや、ほんと、勘弁してください……! お気持ち、お気持ちだけでも嬉しいですから! いきなりそんな額わたされたら、さすがに腰が抜けちゃいますから……」

「あーあれだね。政木くんいつか赤スパで殴られるタイプの配信者だ」


 ボソッと夕暮が言ったことを政木が理解する日はまだ少しだけ遠いのだが、この時の夕暮の発言は実現することになる。


「えーでも兼業って。バイトとかやってるんですか?」

「いや、正社員ですね」

「すげえ、ハイスペックかよ」

「月日。正社員ってだけでハイスペってお前の認識おかしいだろ。まあでもVtuberの多くが社会不適合者であることを考えると、珍しいですよね~」

「ただVtuberだけじゃ稼げないってだけです……なんか生々しい話をしてすみません……」

「……っ」


 声がしぼんでいく政木に、どうしてか夕暮だけではなく林檎まで庇護欲みたいなものを刺激される。


「なんかあれだわ。月日が政木さんに惚れた理由が少しわかったわ。普通のいい男って感じなのに、隙がある」

「お、さすが分かってんねえ……ってあんた政木くんに手出すなよ‼ 私がヒモにするんだから」

「ヒモにしないでください⁉」


 暴走気味の夕暮にストップをかけるように、林檎が質問をする。


「でも兼業って大変じゃないですか? 夜に配信して、また次の日の朝には出勤ですよね?」


 声色を変えて質問をする林檎に対して、政木は深く考えた後丁寧に答える。


「まあ大変……と言えばそうですけど。でもリスナーさんが優しく見てくださるので、癒されることとかもたくさんあります。トータルで見たらそんなに変わらないと思いますよ」

「でも専業の方が絶対楽だよ‼ この夕暮月日が保証しますけど、絶対政木さんは専業でやるべき! ファンもそれを望んでいるはずです‼」

「ファンというか、それ月日だけだと思うけど……いや、でもリスナーの反応を見てる感じ、『もっと配信頻度を増やしてくれー』という声はありますね」

「Vtuber一本でも食べていけるようになったら……またその時に考えますね」

「よっしゃ! 今年の目標は政木くんの専業化や‼」


 訳の分からない目標に笑う政木。


 そして話は、恋愛の方に進んでいく。 


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