第3話 #まさぐれの地獄コラボ①

「はーい、みなさんこんみかん~! わんだふるらんど所属の林檎みかんです。さて、今日は待ちに待ったお見合い企画……題して『ドキドキ、政木有馬は夕暮月日から逃げられるの⁉ ガチ恋爆散、地獄のまさぐれコラボ』~~~~~~‼」


 不穏な響きしかないタイトルコールが発せられ、コメントが盛り上がる。『とうとうこの日が来てしまった』『2日でコラボを組む仕事の早さ……』『海外に逃げる時間もなかったか、政木……』などと思い思い好きなことを書いている。


「それではまずはこの方! Studio Virtualの茶色担当、炎上下ネタなんでもござれ、夕暮月日さん!」

「んんっ、あっ。どうも~こんばんは~。Studio Virtualのピンク担当、みんなのハート射貫いぬいちゃうぞ♡ 夕暮月日です~」

「何その清楚っぽい声。最初から吐き気するんだけど」

「ひっど‼ これでもアイドル事務所に所属している身なんですが‼⁉ ういー、盛り上がっていくぞてめえら~」

「はい、本性出ましたね。本日はよろしくお願いします」


 慣れ親しんだ2人のコントにはリスナーもどっと沸く。もうコラボはかれこれ1年以上やっているから、こうした阿吽あうんの呼吸はお手の物である。


 そして今回はもう一人。


「はい、そして次は今回初コラボのこの方~! イケボ、イケメン、イケ性格の3拍子揃った稀代の女たらし、トリミングV所属の政木有馬さん!」

「え、えっとこんばんは~。トリミングV所属の政木有馬です。少々場違いな感じがしますが、どうぞお手柔らかにお願いします……!」

「はい、清楚。月日、わかる? これが清楚なんだよ」

「女の私を汚物扱いして男に清楚っていうたぁどういうことだあ‼ あっ、政木くん、今日はその、よろしく……!」

「こ、こちらこそよろしくお願いします!」

「はぅんっ‼」

「はい、見ての通り月日はすでにメス堕ちしてますので、今日はグダグダ進行になります。よろしくお願いします~」


 ゲストの紹介を一通り終えた林檎は、すぐにチャット欄の方を見る。


「はーい、皆さん盛り上がってますね~。『月日、メス堕ちwwww』いや、そうなんですよ、もう打ち合わせの時からこんな調子で。あ、トトちゃんも見てくれてますね~『月日のメス声きもちええんじゃあ~』声だけ女子なの、ホントずるいですよね~」


 配信はコメントとの会話が大事だと政木も思っている。だからこうしてテンポよくコメントを抽出して面白く変えていくのを生で見せられると、政木も配信中ながら圧倒されてしまう。


「それではみなさんどしどしコメントしてくださいね~。それではさっそく企画の方に入っていきます」


 林檎の圧倒的な司会能力に政木は驚きつつ、回は進んでいった。





「はい、まず最初のお便りです。『こんばんは。早速質問ですが、政木くんはまだそこまで有名なVtuberではないと思いますが、月日さんはどうやって政木くんのことを知ったんですか』とのことです。どうです、月日さん」

「まずこの政木ってのが気になるわね。なにこいつ彼女面してるのよ」

「いや、月日もくんって呼んでるし……。それで、何がきっかけで知り合ったんですか?」


 林檎がやんわりとツッコミを入れるが、月日は全く気にすることもなく質問の内容に答えた。


「いや、なんかリスナーにおススメされたんよ。絶対月日はこういう声が好きでしょってツイッターのDMで送られてきて、それがきっかけだったかなあ」

「そ、そうだったんですか……。それがきっかけで夕暮さんのような人にも見てもらえて、そのリスナーさんには感謝しないと、ですね……」

「あ、ああいいですいいです! うちのリスナーなんてどうせ大したこと考えてないんで! もうそんな、政木くんともあろう方がうちのアホリスナーに感謝とか、もう恐れ多いですよ」

「リスナーの扱いが最悪だな」


『俺らをもっと大事にしろ』『リスナーは飼い主に似るって本で見た』などとコメント欄もすでに炎上の火種は上がっているくらいだが、月日にとってはこれは通常運転なので炎上には繋がらない。


 むしろ一番ビビっているのは政木の方で、「そんなことまで言っていいんだ……」と驚いている。


「いや、でもそのリスナーにはほんとに感謝してる。私と政木くんを繋げてくれたこと、それだけでもそいつは一生分生きた価値があるわ」

「やっぱり、声を聴いて一発でハマっちゃったんですか?」

「いや、いやいや! 声はもちろん、その、カッコいいけど……。それよりも政木くんのいいところは、性格‼ 絶対に悪口とか言わないし、失敗したら全部自分のせいって思える謙虚なところもあるし、リスナーさんに言われて素直に受け止められる度量の大きさみたいなのもあるから」

「月日、早口になってるぞ」

「さすがに恥ずかしい……です」

「おっといけねえいけねえ。つい内なるオタクが」


 林檎は夕暮の熱弁をぴしゃりとぶった切ったが、コメント欄では『わかる』『よく見てるな』と好印象な反応が多かった。


 そこに恐る恐る、政木が質問を振る。


「その、おこがましいかもしれませんが……夕暮さんは、僕の配信を見てくださっているのですか?」

「そりゃあもう‼ どの配信にも絶対にいますよ‼ 調べればわかりますけど、政木くんが配信してる時は絶対に私は配信してませんから!」

「うわーきもー」

「いえ……本当にありがたいです。どうせなら、コメントとかしてくださればいいのに」

「コメントなんてそんな、もう、それこそおこがましいってやつですよ‼ あ、ちなみにサブ垢とかではめっちゃコメントしてます」

「『おこがましくて草』って言われてます月日」

「うるせえ!」


 こうして地獄の幕開け。そして次からはもっとディープな内容に入っていった。

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