第51話 時間は遡り……
「とにかく、ギルド支部設立の件はご苦労様でした」
「はい。報告は以上です」
夜、イリスとあの二人に夕食を振る舞ってから、俺は領主館を訪れていた。出入りする人数も増えたので、衛兵の数が増えてきている。諜報員を紛れ込ませないため、ゆっくりとしか人員を増やせないので、見張りは最低限で、見回りの兵士は忙しそうに歩き回っていた。
俺とエレン、そしてユナはそんな中で、人払いを済ませた応接間で向かい合っていた。
「ふぅ……」
エレンがため息をつく。それは「仕事の時間」が終わった合図だった。
「ギルド本部では罪源職を討伐したそうですね」
「ああ」
罪源職の話題は仕事中は出ることが無かった。つまり、この話は俺の生まれについての話だ。
「幸か不幸か、両親のことも思い出したよ」
俺は、二人のために静かに語る。
ジンが父親だった事。
家庭内の暴力が絶えず、俺を安全に逃がすためにコスタの森に捨てた事。
そして、思い出すと同時に仇を討ったこと。
「正直、混乱している。俺を捨てた母親は俺を守るために捨てていて、母親は俺の親父に殺されていて、その親父は思い出した瞬間に死んでいた」
ずっと正体の分からない靄が胸の奥に居座っている。
「悲しいのか、辛いのかさえ分からない。飲み込むまで、しばらくかかりそうだ」
どうにもならない感情を吐露する。気付けば、ユナがすぐそばに寄り添ってくれていた。
「焦らなくていいわ、自分が何処に立っていて、何をすべきか、それさえ分かっていれば、段々考えもまとまるはずよ」
「っ……分かった」
不死という人間からかけ離れた存在だというのに、寄り添ってくれた体からは、暖かな体温を感じる。
「そうですね、ニールがどうなっても、私とユナはずっと貴方の味方――家族だと思っていますから」
エレンの言葉を聞いて、肩から力が抜けるのを感じて、深く呼吸をした。
そうか、緊張や強張りは力が抜けなければ、自覚は出来ないし、息苦しさや辛さは、それが無くなってから初めて本質が分かるのか。
「ありがとう。時々、疲れた時にはこうしていたい」
「いうまでもなく、大丈夫よ」
「仕事の合間でも、一息つきたいならそう言っても大丈夫ですからね」
今、俺は両親の因縁に一つの決着を得た。これが悲しいのか、嬉しいのか、それが分かるのはずっと後の事なんだ。すぐに理解する必要はない。なら、今はこれが何なのか考えながら、前に進んでいくしかないのだろう。
懐かしいユナの香水を鼻腔に感じながら、俺はもう一度力を抜くように息を吐いた。
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