閑話:第七の罪源5

「メイさん……」

「私は代わりが居ますが、お二人には代わりはいないんです。だから、早く」


 少し厄介なことになった。


 二人を早めに退避させて、一人で対処するつもりが、こうなってしまうと二人を逃がすのが少し難しい。


 というよりも、村娘ごときがどうにかできる筈も無いだろう。一体何を考えているのか。


 今まで、魅了した女たちに肉壁になってもらったことは少なくはない。だが、今起きていることは全く経験の無い事だった。魅了もなく、出会って一時間も経っていない相手に、ここまで身体が張れるのか?


――死なないっていうなら、助ける必要もないわよね?

――あなた死なないんでしょ? だったら囮になってよ。

――気味が悪い。普通の不死者ならまだしも、あなたって何なの?


 ずっと昔、それこそオレが罪源職に堕ちる前、魔物たちに襲われ、何とか帰還した時に言われた言葉が蘇る。そう、オレにとって他人とはそういう言葉を駆けてくる存在であって、今目の前にいるのは手足として動く駒だった。


「ったく、めんどくせえ」


 リーダー格の男がそう呟いて後ろの男たちに合図を送る。


「メイさん。お願い」


 男たちが一歩踏み出した瞬間、隣にいた元聖女が姿を消した。


「何っ!?」

「消えやがった!」

「落ち着け! こいつらを縛り上げてから探せば良いだろ!」


 聖職者、ということは隠形(インビジブル)の支援魔法か、この村娘とオレを犠牲に生き抜くつもりだろう。


「あの、あなた達はどうして、こんなことをするんですか? これからギルド支部もできて稼ぎ口には困らないはずです」


 村娘は、一歩も引くことなく男たちに問いかける。


「ああ? そんなもんこっちのほうが楽で稼げるからに決まってんだろ。依頼なんて面倒な事、表向きの仕事でしかねえよ」

「そんな……」


 男たちは、にやにやとこちらを値踏みしてくる。完全に自分の勝利を確信して、疑っていない表情だ。


「だ、だめです! そんな事をしていたら罪源職に――」

「へっ、神託を受けなければ大丈夫だろ。現に俺たちは数年神託を受けていないからな」


 年に一度、神託を受けるのは冒険者の義務だ。ギルドの登録票更新時に神託結果も提出する必要がある。


 だが、これは直近一か月以内に依頼達成の実績があれば、簡単に免除されるという抜け道もあった。


「てか、ゴチャゴチャ煩いんで黙らせましょうか」

「ああ、ドラン商会の会長って言やあ、たしか不死だったはずだ。このガキは死んでもいいし、ちょっとくらい乱暴にやってもいいだろ」


 そう言って男たちはいっせいにオレたちに殺到する。魔物を呼ぶか? いや、今は聖女が隠形で見ている可能性がある。使えない。どうする? 俺に何かできることは――


「がっ!?」

「ぐああっ!!」

「ぎゃっ!?」


 思いつかず、痛みに備えて目を閉じかけた時、男たちが一度に声を上げて倒れる。各々が頭を押さえて、そこから血を流している。


「はぁ、はぁ……間に合ったな」


 遠くから、男の声がする。振り返ると左目の遺物を光らせた、栗毛の冒険者が立っていた。

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