閑話:第七の罪源4

「え、じゃあメイさんはギルドの受付のお仕事を?」

「はい、つい先日申し込みまして、エレン様からの書状とかも読む機会があったんで、その経験を生かせればなあって」


 帰り道の途中、獣除けのベルを涼しげに鳴らしながら、二人は新設されるギルド支部について話していた。


「なるほど、メイさんは文字の読み書きができるのですね」

「はい、お父さんの仕事を手伝う事が多くて」


 元聖女の方はともかく、こっちは早々に懐柔できそうだった。彼女は仲も良いようだし、まずは外堀から埋めていくのも悪くはないか。


「計算と読み書きができる人材は貴重です。メイさんが活躍することを祈っていますよ。もし困ったことがあればドラン商会まで、喜んで協力いたしましょう」


 笑顔を作って村娘に笑いかける。精神耐性もなく、戦闘用スキルも持たない相手なら、御すことは難しくない。


 まずは元聖女と別れてから――


「おや?」


 遺物奪還の作戦を考えていると、周囲に気配を感じる。これは魔物じゃないな……人か?


「どうかしましたか?」


 オレは気配のする方向を見る。その行動を不審に思ったのか、元聖女が眉をひそめた。


「おう、女二人に優男一人か、そんな人数で森に入ったらあぶねえぞ」


 オレが説明する必要もなく、視線の先にある茂みから、剣や棍棒で武装した男たちが現れる。数にして五人……こいつらは、見たことがある。たしかこの村に立ち寄った鉄等級のパーティだ。


「あ、リーダー。こいつドラン商会の会長ですよ。隣にいるのは修道女ですし、当たりですぜ」

「おいおいマジかよ、ツイてるな俺達――じゃ、会長さんにシスター。俺たちが村まで送り届けてやりましょう」

「駄賃はドラン商会と教会に請求させてもらいますがね……へへへ」


 人攫いか、鉄等級以下の冒険者は、ほとんどならず者のような奴ばかりと聞いていたが、ここまでの奴がいたとはな。


 移動用の飛竜でさえ倒せなそうなやつらだが、今は元聖女の目もある。安易に動くわけにいかないだろう。


 しかし、こいつらも運が無い。スライムで骨まで溶けるところを実感させながら殺すか、あるいは豚鬼たちをけしかけて、雑魚にすら負ける奴だと自覚させたうえで殺すか、それとも炎竜を呼んで圧倒的な絶望を味わわせた後にころすか、それとも……


「っ……イリスさん、ルスティノスさん。逃げてください」


 捕らえられた後、どのような殺し方で分からせてやろうかと思っていると、村娘が両手を広げて一歩前に出た。


 声はか細く、両脚はガタガタと震えている。どう考えても、戦う事はおろか、引き留めることもできなそうな頼りなさだ。


「ああ? なんだお前、お前はどうでもいいんだよ、めんどくさくなったらこれでガツンとやってもいいんだぜ?」


 リーダー格のならず者がにやついた表情で棍棒を叩く、その姿を見て村娘は一瞬怯んだが、それでも引き下がる事はしなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る