閑話:ラスト、エルキ共和国へ

「遺物――左手ってこれだろ? 何とか確保したぜ」


 飛竜から降りて左腕を掲げ、ラストに見せてやる。


「ああ、お疲れだな」

「妨害はあったが、俺の相手にはならなかったな」


 しかし、あの牙マスクをした罪源職は厄介だった。まあもう殺した後だからまた会う事もないが。


「それは良かった……と、言いたいところだが、悪いがまた少数民族同盟に向かってくれるか?」

「あ? なんでだ?」


 三日くらいのんびりしようと思っていたというのに、いきなりそんな事を言われるとは思わなかった。


「グラトニー……ああ、こないだ話した牙マスクの男なんだが、数日前から連絡が取れない。オレはこれからエルキ共和国に――」

「あ、悪ぃ、そいつ殺しちまったわ」


 なんだよ、同業ってか味方だったのかよ。早く言えっての。それならやりようもあったのに。


 ……いや、やりようねーわ。あいつぶちぎれてたし、牙マスクの方おいて行かねえと左手もってけなかったし。


「……」


 ラストは足元をふらつかせて頭を抱える。


「DSFの烙印持ち同士の戦いは、ご法度って言ったはずなんだが」

「しょーがねえだろ、知らなかったし」


 それにやっちまったもんはしょうがねえ、この後どうするかを考えた方が有意義だろう。


「え、そ、それで……牙マスクは――」

「あーめんどくせえな、全部説明してやるからちょっと待ってろ」


 俺は事の発端から話してやることにした。



「――ってわけだ」


 DSFのセーフハウスで、俺はソファにもたれかかりながら話し終える。話を聞いてる間、ラストは面白いくらいに顔色が青くなっていた。


「つ、つまり……遺物一つと烙印持ちを犠牲にして持って帰ってこれたのはその左手だけ……って事か?」

「おー、物分かりいいじゃねえか。そういう事だよ。文句あるなら事前に言わなかったお前が悪いからな」


 狼狽えているのが面白いので、もう少し煽ってみる。


「……」


 ラストは歯ぎしりをして、ぶるぶる震えていたが、流石にそれは我慢したらしい。ため息をついて、肩をがっくりと落とした。


「分かった……俺はとにかく、エルキ共和国で遺物の回収をしてくる。それまでは余計なことをするなよ」


 ラストは本人の言葉を信用するとすれば、戦闘には向かない能力を持っている代わりに、肉体的には普通の人間か、それ以下の能力しか持っていないらしい。こいつを調整役にするアダムって奴も、人の使い方分かってねえよな。


「あーわかったわかった。大人しくしとく。で、見送りくらいはしていいんだろ?」


 だって俺らは別に、強くもねえ奴の言う事を聞くほど、馬鹿じゃねえからな。セーフハウスを出て、ラストが飛竜で飛び立つのを見送りながら、俺はそんな事を考えていた。

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