閑話:最後の冒険6

「……いや、ちょっと待てカイン」


 あまりにも危機感の無い声に、流石に呼び止める。

 

 当の本人は尖塔の後処理もそこそこに、さっさと先へ進もうとしていたが、今の行動は流石に看過できない。


「あ?」

「なんで持ち場を離れた。後方で大鬼の処理をしていれば俺とサーシャで小鬼の群れを処理できた」


 本来ならば、カインが後衛であるモニカとアンジェをカバーし、前衛である俺とサーシャが敵を抑え込む。そういう戦い方を想定していた。ダンジョンにおいて、想定外の対応は命取りになりうる。それを理解していないようだった。


「うるせえよ、攻撃もしなかった奴が御託並べてんじゃねえ」

「お前っ……!!」


 反省の色もなく、あくび混じりに話すカインに、俺は殴り掛かりそうになる。


「ニール」

「っ……分かった。とりあえず。先に進もう」


 しかし、サーシャの一言で俺は踏みとどまった。


 そうだ、これ以上想定外の事を起こすわけには行かない。この依頼が終わった後でも話す時間は十分にある。


 自分を無理やり納得させて、改めて編成しなおして道を進む。前衛はサーシャとカイン、後衛はアンジェとモニカ、そして俺だ。


 騎士職のアンジェも前衛にするべきか迷ったが、何かあった時に唯一、咄嗟の対応ができないのがモニカだ。そう考えるとアンジェとモニカは近くに居る必要があり、罠感知できない人間が、三人も前衛をぞろぞろ歩くのは自殺行為。そういう訳で前の状況から俺とカインの位置を、交換することで落ち着いた。


「いやー順調だな! さすがは俺のパーティ! 一人くらい攻撃しなくても何とかなるもんだ!」


 そう言って俺の方をちらりと見る。俺はその視線に気づかない振りをして、後方からの気配に気を配った。


 カインの調子に乗りっぷりは、最近特にひどい。


 モニカが仲間になった後からだろうか、依頼の手柄は自分の物。ミスは顧みない。他メンバーは奴隷……そんな印象を与えるような振る舞いをずっとしている。


 もしかすると、パーティのメンバーが五人になり、前衛職二人と後衛職三人の、バランスのいいメンバーになったからこそ、気が大きくなっているのかもしれない。


「あの……ニール」


 後方の警戒を続けていると、モニカがおずおずと声を掛けてきた。


「ありがとう、だから、怒らないで」

「……」


 しまった。どうやら思っていたことが、顔に出ていたらしい。


「悪かった。大丈夫だ、探索を続けよう」


 意識して表情を緩めて、モニカの頭を撫でる。


 彼女はくすぐったそうに笑うと、安心したようにアンジェと歩き始めた。

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