閑話:最後の冒険7
洞窟は暗く湿っていて、足場も悪い。地震によって入り口が発見されたことから、それの影響もあるのだろう。
道は分岐を複数繰り返し、交差路や高低差のある道も複数ある。支援魔法による探査眼も含めて偵察、斥候をこなしていると、必然的に進行速度は遅くなってしまう。
「ちっ……さっさと最深部まで行こうぜ」
カインが焦れたように口を開く、その額には汗の雫が松明の灯りを反射している。ほぼ無風に近い洞窟内は、湿気と腐臭に満ちている。
「無理を言うな、どれだけ入り組んでると思ってんだ」
帰り道のルートを確保しつつ、最深部への道を探す。そんな事をカインができるはずもなく、それはもっぱら俺とサーシャの仕事だった。
「それに少しペースを上げ過ぎだ。俺の支援が届かないぞ」
前衛後衛で別れているとはいえ、普通のパーティであれば、互いの支援が届く距離を常に測って進んでいる。
現状カインはそのセオリーを無視しており、パーティ全員を危険に晒しているのと同義だった。
「あ? じゃあニール、お前が早く歩けよ」
「っ……」
怒鳴りそうになるのを堪えて、深呼吸をする。ダメだ、冷静さを失ったらそれこそ危険だ。しかも仲間内の諍いで。
「おっ、また分岐じゃねえか、どっちだ?」
「ニール、お願いできるかしら」
「ああ、すぐに探査眼を走らせる」
支援魔法を使い、二つある分岐のうち片方を偵察すると、数十メートルで行き止まりになっていた。ざっと見たところ仕掛けもなく、魔物もいない。完全なハズレだ。
「こっちは行き止まり、魔物も宝も無いな」
「よし、じゃあこっちだな!」
俺が反対側を探ろうとするよりも早く、カインはその道へ足を踏み出していた。
「馬鹿っ! まだそっちは罠も何も――」
引き留めようにも、既に遅かった。
カインの足には細い糸が引っかかっており、それが罠の起動に繋がる。何かが動くような音が響くと、巨大な岩塊がカインめがけて落ちてきていた。
支援の防壁で回避――いや、距離が間に合わない!
「加速っ!!」
咄嗟に俺は、すぐそばに居たアンジェに支援魔法をかける。意図を汲んでくれるかどうかは博打だが、現状これしか方法は無い。
祈るように使った支援魔法は、幸いなことにアンジェが意図を理解してくれたらしい。次の瞬間には大盾で岩塊を砕くアンジェと、無傷のカインが居たのだから。
「アンジェよくやった!」
俺が声を掛けると、アンジェは親指を立てる。このハンドサインは「お安い御用っす!」の意味だ。
ほっと胸をなでおろし、砕けた岩塊が地面に転がっているのを確認した瞬間、更に地響きが始まった。
「な、なんだぁ!?」
「あー、ニール。ちょっと危ないかもしれないわね」
罠というのは、一個だけ単体で仕掛けられている時はそれほど脅威ではない。始末に負えないのは、いくつも連続して作動する罠の場合だ。
意図を引くという小さい力で、岩塊という超重量の物を落とす。超重量の物を落とすことで、更に大規模な罠を作動させる。そういうことが、ダンジョンでは起こりうるのだ。
「アンジェ! そっちを頼む!」
「りょうか――」
アンジェの返答は、凄まじい地響きと土砂によってかき消されてしまった。
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