閑話:最後の冒険5

――雄叫び

 大声を上げて注意を引き、魔物の攻撃を一身に受けるスキルで、騎士職としてはこれが基本となる。


 敵がいるのだから、スキルを使うのは問題ない。鎧が重いため斥候としては働けないものの、アンジェは前衛だ。その大盾で攻撃を受けるのが役割と言って差し支えないだろう。


 だが、状況が問題だ。ある程度個人で完結する俺やサーシャ、カインと違って、距離の離れた後方にいるアンジェやモニカは、連携を前提とした後衛職だ。それが二人になった状況が良くない。


「加速っ!!」


 一歩、一足跳びに後方へ戻り、二人の状況を把握する。

 二歩、振りかぶった大鬼の下にいるモニカを掴み態勢を整える。

 三歩、サーシャのいる場所まで彼女を抱えて跳ぶ。


「っ……ニール!」

「サーシャ! アンジェに援護!」


 モニカを抱えたまま、サーシャに向かって声を上げる。大鬼一匹程度なら、アンジェに傷を負わせることもできないだろうが、かといってアンジェ一人で大鬼を倒せるかと言えば、そんな事は無い。


 サーシャは返事をする前に駆けだしており、アンジェが大鬼の攻撃をはじくと同時に、魔物の急所へ正確な射撃を撃ち込む。


「グゥオオォ……」


 低いうなり声を上げて崩れ落ちる大鬼を確認すると同時に、モニカを地面に降ろしてカインの方へ向かう。


「オラァッ!! 死にやがれっ!!」


 小鬼の大群が押し寄せる中、カインは洞窟という狭い場所を上手く利用して、互角以上にやり合っていた。


 こうなると支援の必要もない。俺はモニカに大規模魔法の準備をするよう伝えてから、カインに声を掛けた。


「そっちの敵はモニカの大魔法で一掃する! 下がってくれ!」

「ああ? 一人で大丈夫だっての!」

「体力を温存したい! 大人しく下がれ!」


 カインは大きく舌打ちをして、渋々という感じで俺の場所まで戻ってくる。

 仲間を殺された怒りで魔物たちはこちらへと殺到してくるが、それをむかえ撃つ形でモニカの大規模魔法が発動する。


「来たれかぐつち――始原炎獄(プロメテウス)」


 洞窟の通路を埋め尽くし、周囲を昼間のように照らしながら、大規模の火炎が魔物たちを飲み込んでいく。


「――!! ――ッ!!!」 


 燃え盛る火炎の爆音で、魔物たちの悲鳴は聞こえないが、しばらく経って消し炭になったそれらを見れば、どれほどの威力かは十分に察することができた。


「そっちも終わったようね」

「ニル兄ナイススイッチっす! 大鬼一匹相手ならモニちゃん守れても倒せなかったっす!」


 後方での戦闘も終わったようで、アンジェとサーシャも戻ってくる。


 無事に終わったことにほっとしていると、背中から能天気な声が聞こえてきた。


「よしっ、楽勝だったな、次に行くぞ!」

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