閑話:最後の冒険4

 右手に持った松明の炎が、静かに揺れている。洞窟系のダンジョンは、常に酸素の有無を気にしなければならない為、魔法による照明よりも、原始的な火を使った照明の方が好まれている。


 俺とサーシャが斥候として前を歩き、罠や仕掛けを解除しつつ進む、残りの三人は距離を置いて挟撃を警戒、という布陣で俺たちはダンジョンを進んでいる。


 ダンジョン踏破の依頼は、護衛や殲滅といった人対人の戦いを得意とする傭兵ギルドと、明らかに差別化された冒険者ギルド特有の仕事のうち一つだ。


 納品依頼にあるように、便利屋としての側面ばかりが取りざたされがちだが、本来の俺たちとしては、危険な魔物がいる地域の調査と採集が主な役割だ。


 魔物がいる地域での採集、となると村落近郊でも魔物は出る可能性があるので、薬草採取なんて仕事もあるし、持っている戦闘技能での討伐も仕事になる。


 ちなみに討伐や護衛は傭兵ギルドと競合する仕事なので、冒険者ギルドは傭兵ギルドとはあまり仲良くない。


「サーシャ、足元」


 短くそれだけ言うと、隣を歩いていたサーシャは歩幅を変える。上手くカモフラージュしているが、小規模な落とし穴があった。


 落とし穴と言っても本当に小規模で、足が膝下あたりまで沈み込む程度のものだ。踏んでいれば抜けだすまで隙が生まれ、その間に魔物が襲ってくるという訳だ。


「二秒」


 サーシャが小さくそう呟く。俺は前々から準備していた通り、松明の炎を消す。


「……」


 暗闇が周囲を包み、何者かがうごめく気配を感じる。すぐに魔法を使いたい衝動を堪えつつ、二秒後に支援魔法を発動させる。


「閃光(フラッシュ)」

「ギャアアア!!」

「グゲャアアアア!!」


 眼を灼くような閃光が指先から迸り、ダンジョン内を瞬間的に明るく照らす。俺を含めてパーティの全員は松明が消えたタイミングで目を瞑るように指示していた。


 光がおさまると同時に、サーシャが変わりの松明に火を灯し、俺は周囲の状況を確認する。


 小鬼や豚鬼が十数匹、これなら俺でも――

「ハッハァ!! 雑魚どもは俺の踏み台になりやがれ!」


 魔法を使おうと杖を構えた瞬間、カインが走り込んできて怯んだ魔物たちを撫で切りにする。


「カイン!」

「おうニール! てめえの手柄にはさせねえぞ!」

「そうじゃない! 後方は!?」


 後方にはモニカがいるとはいえ、肉弾戦に弱いモニカがいるのだ。後方から銀等級以上の敵が現れた時、対処ができない。


「あああああああっ!!!」


 この場をカインに任せて、後方へ向かおうとした時、向かう先からアンジェの雄叫び(ウォークライ)が聞こえてきた。

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