閑話:最後の冒険3

「あー、じゃあ結局俺の依頼が一番マシじゃねえか」

「そうかしら?」

「少なくとも採集依頼と鑑定よりはマシだろ」

「難易度を別にすればな」


 正直なところ、もう少し情報が出揃っていれば、カインの依頼も選択肢に入らない事もなかった。


「でもモニちゃんは加入したてっすし、あんま難度高い仕事は危なくないっすか?」

「別に大丈夫だろ、四人の時もやってたし」


 ほとんど綱渡りみたいな状況だったが、確かにそういう仕事をしていなかったわけじゃない。


「ま、とにかくリーダー権限だ。このダンジョン踏破をやろうぜ。どうせ楽勝だろ!」


 カインは高笑いして受付へと向かう。その姿を俺は少しの不安を感じながら見守っていた。


「……サーシャ、どう思う?」

「まあ、良いんじゃない? たまに失敗するのもいい薬よ」

「そうは言うがな……」


 カインの猪突猛進ぶりは、特に最近は顕著だ。


 なまじ失敗しても俺とサーシャが「何とかしてきた」からこそ現在の状況があるというのも悲しい。


 大体の冒険者はメンバーのミスをカバーしきれなくなる事で全滅する。俺たちの全滅も、すぐそこまで迫っているような気がして、あまりいい気分はしなかった。


「正直、あいつをどこかで止めないと……ん?」

「……」


 サーシャと顔を合わせて話していると、隣に座っていたモニカが服の裾を引っぱってきた。


「どうした?」

「……」


 モニカは何も話さない。じっと俺の顔を見るだけだ。時々彼女はこういう事をするが、いったいどういう意図があるのか、俺ははかりかねていた。


「わたしとも、話して」


「???」

「あー! ニル兄、またモニちゃんとイチャイチャしてるっすか?」

「いや、俺は真面目な話をだな……」


 言葉の意図が分からないままでいると、アンジェが茶化すように言葉を挟んできた。俺は溜息をついて、こいつらのお人好しというか、危機感の無さはどうにかならないものかと考えた。


「んー? アンジェはモニカとニールが羨ましいの?」

「おい、サーシャ――」

「べっつにー、ちょっとアタシともイチャイチャしてほしいなあとか思っただけですしー」

「羨ましいんじゃない」


 口を尖らせて不機嫌そうになるアンジェを見て、サーシャは苦笑する。全く、真面目に考えるのがアホらしくなるな。


「わかった、わかった。やるって決めたんだ。俺たちは全力を尽くす。それでいいだろ?」


「分かってるじゃない」

「いつも通りね」

「うん……頑張る」


 俺は全身の力を抜いて椅子にもたれかかる。結局こういう甘さが後々で響くんだよなあ。


「……ところで、モニカはいつまで掴んでるんだ?」


 未だに掴まれたままの裾を見て、モニカに声を掛けると、彼女は恥ずかしそうに手を放した。

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