余話:導いたのは……

「そういえば」

「何よ」


 金を出し合ってコスタ行きの馬車を確保した段階で、俺はふと気になっていたことを聞くことにした。


「ハヴェル神父と戦った時、支援魔法のレベルが一つ上がってたんだ。あれは何だったのかなと思ってさ」


 あの時は必死だったから、全く意識していなかったが、よくよく考えてみるとおかしなことだった。


 スキルレベルの上昇は一部の例外を除いて神託の時のみに行なわれ、たとえ実力があったとしても、修練を積んだLv3よりも上がりたてのLv4の方が効果は高い。


 つまり、俺が支援マスタリーLv3である限り、Lv4と同じ歩数だけ加速が続く筈が無いのだ。


「そうなの? 何でかしら」

「考えられるのは、先導者のユニークスキルが関係してると思ったんだが、導く相手なんかいないしな」


 一部の例外のうち一つが、ユニークスキルによる補正だ。


 この補正は条件を満たした時点でパッシブスキルに反映され、即座に効果を発揮する。


 戦いによる高揚によって、戦闘スキル全般に補正のかかる狂戦士などが、有名だが、残念ながら先導者はそんな分かりやすい補正ではないのだ。


「だとすると、お師匠様を導いたのかもしれないわね」

「ハヴェル神父を? そうかなあ……」


 イリスは少し意外な答えを返してきた。


 なんせ、まさか戦っている相手が導くべき存在だなんて思わない。導く云々の前に、ギリギリも良いところだ。そんな「彼の辛さを導くことによって救いましょう」みたいな高尚な考えを持つ余裕なんて、全くなかった。


「なんか難しい話してるっすね、二人とも」


 腕を組んで唸っていると、アンジェが身を乗り出してきた。


「こないだ話したろ、ハヴェル神父と戦ったこと。そん時に支援マスタリーのレベルが一つ上がったのが未だに疑問でな」

「え、上がったんっすか?」


 今は戻ってるけどな、と付け足しておく。そのお陰で生きのこったのは確かだが、生き残れた理由が不明のままなのは何ともすわりが悪い。


「誰かを導いた覚えもないし、原因は何だったんだろうなって思ってな」

「んーそりゃハベおじじゃないっすか?」


 イリスに続き、アンジェも同じ結論に至ったらしい。


「お前もハヴェル神父だと思うか。でも正直、導くとかそういう事を考えてたわけじゃないんだよな」

「ニル兄が思ってなくても、ハベおじはそうじゃないかもしれないっすよ?」

「そうね、お師匠様はきっと、自分を止めてくれる人をずっと探してたんだと思う」


 二人にそう言われて、俺は再び考える。


 確かに、彼はこのままいけば、怒りをぶつける相手すら分からなくなるところだった。そういう意味では、俺たちが止めることで無意識に導いたと言えるかもしれない。


「……まあ、そういう事にしておくか」


 確証はない。だが、そう考えた方がハヴェル神父も、俺達も救われている気がした。あの時点ではそうするしかなかった。その罪悪感をすこしは和らげられるだろうか。


 馬車はゆっくりと、今回の旅で出来た仲間たちを載せて進んでいく。


 第二部 完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る